労働安全衛生法による健康診断 その他の措置

労働安全衛生法による健康診断

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 02:16 UTC 版)

その他の措置

面接指導

面接指導とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。労働安全衛生法に定められている面接指導は、長時間労働やストレスを背景とする労働者の脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としており、医師が面接指導において対象労働者に指導を行うだけではなく、事業者が就業上の措置を適切に講じることができるよう、事業者に対して医学的な見地から意見を述べることが想定されている。働き方改革関連法においては、長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、医師による面接指導が確実に実施されるようにし、労働者の健康管理を強化するものである(平成30年9月7日基発0907第2号)。

事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件(休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者。ただし算定期日前1月以内に面接指導を受けた労働者その他面接指導の必要がないと医師が認めた者を除く)に該当する労働者に対し、当該労働者の申出により、医師による面接指導を行わなければならない(第66条の8第1項、規則第52条の2第1項)。この超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならず(規則第52条の2第2項)、事業者は、この超えた時間の算定を行ったときは、速やかに、当該月80時間超の労働者に対し、当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない(規則第52条の2第3項)。また事業者は当該労働者の氏名及び超えた時間に関する情報を産業医に提供しなければならない(規則第14条の2第1項)。

事業者は、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1月当たり100時間を超えた、新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務に従事する者(労働基準法第36条11項)に対し、医師による面接指導を行わなければならない(第66条の8の2第1項、規則第52条の7第1項)。上記、一般の労働者と異なり、当該労働者の申出がなくても面接指導を行わなければならない(平成30年9月7日基発0907第2号)。また100時間を超えない場合であっても、80時間超となる場合は一般の面接指導の対象となる。

事業者は、高度プロフェッショナル制度により労働する労働者であって、その健康管理時間が当該労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間(週当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について、月当たり100時間)を超えるものに対し、医師による面接指導を行わなければならない(第66条の8の4第1項、規則第52条の7の4第1項)。上記、一般の労働者と異なり、当該労働者の申出がなくても面接指導を行わなければならない。

事業者は、上記面接指導を行う労働者以外の労働者であって健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置(面接指導またはそれに準ずる措置)を講ずるように努めなければならない(第66条の9第1項)。高度プロフェッショナル制度により労働する労働者以外の労働者に対して行う「必要な措置」は、事業場において定められた当該必要な措置の実施に関する基準に該当する者に対して行うものとし、高度プロフェッショナル制度により労働する労働者に対して行う「必要な措置」は、当該労働者の申出によって行うものとする(規則第52条の8)。

派遣労働者については、派遣先が労働時間の状況を把握し、派遣元が面接指導等を実施しなければならない。管理監督者(労働基準法第41条)等、労働時間等に係る規定の適用について特段の定めのある労働者については、労働者自らが「疲労の蓄積が認められる」と判断して申し出れば、面接指導を実施する。医師は、面接指導を行うに当たっては、申出を行った労働者に対し、次に掲げる事項について確認を行うものとする(規則第52条の4)。

  • 当該労働者の勤務の状況
  • 当該労働者の疲労の蓄積の状況
  • 前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況

事業者は、ストレスチェックの通知を受けた労働者であって、検査の結果、心理的な負担の程度が高い者であって医師による面接指導を受けることを受ける必要があると当該検査を行った医師等が認めたものが、面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない(第66条の10第3項、規則第52条の15)。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならないし、また、申出の時点においてストレスチェック結果のみで就業上の措置の要否や内容を判断することはできないことから、事業者は、当然、ストレスェックの結果のみを理由とした不利益な取扱いについても、これを行ってはならない[5]。常時使用する労働者50人未満のためストレスチェックの実施が努力義務とされる事業場であっても、ストレスチェックを実施した場合はその後の面接指導の実施は義務となる。医師は、面接指導を行うに当たっては、申出を行った労働者に対し、ストレスチェックの検査事項のほか、次に掲げる事項について確認を行うものとする(規則第52条の17)。

  • 当該労働者の勤務の状況
  • 当該労働者の心理的な負担の状況
  • 前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況

面接指導は、面接指導を受ける労働者の所属する事業場の状況を日頃から把握している当該事業場の産業医その他労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師(以下「産業医等」という。)が行うことが望ましい。面接指導を実施した医師が、当該面接指導を受けた労働者の所属する事業場の産業医等でない場合には、当該事業場の産業医等からも面接指導を実施した医師の意見を踏まえた意見を聴取することが望ましい[5]

事業者は、医師の意見他所定の事項を記載した面接指導の結果を作成し、これを5年間保存しなければならない(規則第52条の6、規則第52条の18)。産業医・ストレスチェックを行った医師等は、所定の要件に該当する労働者に対し、面接指導の申出を行うよう勧奨することができる。また事業者は面接指導が行われた後、遅滞なく(おおむね1月以内。緊急に就業上の措置を講ずべき必要がある場合には可能な限り速やかに)当該医師から意見を聴かなければならない。事業者は、医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。

離職後の健康診断

都道府県労働局長は、ガンその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとする(第67条)。有害業務従事者については、在職中は第66条2項により有害業務に従事しなくなった後も定期の健康診断が義務付けられているが、離職した労働者のうち一定の要件に該当するものについては政府の費用負担により定期に健康診断を行い、その健康管理の万全を期しているものである[7]


注釈

  1. ^ 健康診断項目の省略については、年齢等により機械的に決定するのではなく、個々の労働者について、医師が健康診断時点の健康状態、日常生活状況、作業態様、過去の健康診断の結果、労働者本人の希望等を十分考慮して総合的に判断すべきものであること(平成10年6月24日基発396号)。

出典

  1. ^ 東京海上火災保険・海上ビル診療所事件
  2. ^ 「採用時の健康診断について」平成5年5月10日付労働省事務連絡
  3. ^ 平成22年1月25日厚労告25号
  4. ^ a b c d 「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
  5. ^ a b c d e f g h 平成27年5月1日基発0501第3号
  6. ^ 労働安全衛生規則の一部を改正する省令案概要厚生労働省
  7. ^ 「労働安全衛生法のはなし」p.305
  8. ^ 愛知県教委事件、最判平成13.4.26等
  9. ^ a b c 昭和47年9月18日、旧労働省労働基準局長名通達602号
  10. ^ 「労働安全衛生法のはなし」p.275〜278





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