再処理工場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 13:31 UTC 版)
概要
未使用の燃料棒には二酸化ウランの燃料ペレットが封入されているが、原子炉で使用されると核分裂によりウランが別の元素に転換する。それら核分裂生成物もアルファ崩壊やベータ崩壊による核種変換により、別の物質へと変化してゆく。そのため使用済み核燃料棒内には、多数の元素が混在する状態となる。このような状態の燃料棒から未反応のウラン、及び生成したプルトニウムを取り出す作業が(核燃料の)再処理であり、それを行う工場が再処理工場である。取り出されたウランとプルトニウムは、再び核燃料に加工される。
再処理
現在各国で採用されている核燃料の再処理方法はピューレックス(PUREX)法と呼ばれるもので、大まかに言えば、酸に溶かした燃料棒からウランとプルトニウムをリン酸トリブチル(TBP)にて抽出・分離する方法である。
最初に使用済み燃料を燃料棒の状態のまま細かく切断し6規定の濃硝酸に溶かす(水相)。酸に溶けない燃料被覆管(ハルと呼ばれる)と不溶残渣(モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、パラジウム、ジルコニウム等)を取りだした水相の硝酸濃度を3規定に調整し、ミキサー・セトラー (mixer-settler)型抽出槽やパルスカラム(pulse column)型抽出塔でドデカンにリン酸トリブチル(TBP)30%を溶かした有機溶媒(油相)と混合・接触させると、硝酸とイオン対を生成したウラン及びプルトニウムがTBPに抽出され、油相に移動する。次に油相を還元剤(硫酸ヒドロキシルアミン等)を含む別の水相と接触させると、プルトニウムだけが水相に移動する。
燃料被覆管は低レベル放射性廃棄物(TRU廃棄物)として、不溶残渣と各種放射性物質の混合体である硝酸系廃液は、蒸発缶等で濃縮した後、高レベル放射性廃棄物として処分される。
なお、プルトニウムは容易に核兵器に転用可能なため、それのみを保有することは核拡散防止条約で禁止されている。そのためプルトニウムとウランと混ぜた溶液を作り、これをマイクロ波で脱硝酸して混合酸化物MOXとして保管している。ウランについても流動床で脱硝して酸化物(回収ウラン)として保管している。
再処理工場の一覧
核兵器保有国の軍用再処理工場を別にすれば、原子力発電所から発生する使用済み核燃料を扱う世界の主要な商用再処理工場は以下の通りとなる。このうち規模が大きく外国から使用済み核燃料を受け入れて再処理している施設はフランスの1施設のみとなっている。
フランス
- フランス核燃料公社(コジェマ社)
- ラ・アーグ再処理工場 - ノルマンディー
- UP2-800(800トンU/年)とUP3(1,000トンU/年)の二つのラインが稼動中である。
- ラ・アーグ再処理工場 - ノルマンディー
イギリス
ロシア
- 旧ソ連の再処理工場の内、唯一の商業目的の再処理ラインRT-1(400トンU/年)がある。かつては東欧諸国のロシア型加圧水型原子炉から発生した使用済み核燃料の再処理を行っていたが現在は国内から発生する使用済み核燃料のみを再処理している。1957年にウラル核惨事を引き起こした。
- クラスノヤルスク-26(鉱山化学コンビナート(Mining and Chemical Combine)) - クラスノヤルスク市 ゼレズノゴルスク
- 商業再処理のためのRT-2(1,500トンU/年)を建設中だが工事は中断されている。
日本
インド
- インドでは国内の原子力発電所から出た使用済み核燃料を再処理している。
- バーバ原子力研究センター
- トロンベイ再処理工場(30トンU/年)
- タラプール再処理工場(100トンU/年)
- カルパカム再処理工場(100トンU/年)
パキスタン
- ピンステク再処理工場
- ピンステク工場は核兵器開発センター内にあり同センターにはプルトニウム生産炉があることから商業用再処理は業務の一部のみと思われる。
- チャスマ再処理工場
- チャスマ工場はチャスマ原子力発電所に併設されているため主に商業用再処理を行っているものと思われる。
中国
- 商業再処理用多目的パイロットプラント
- フランスの支援で甘粛省の蘭州核燃料サイクル施設に建設されているプラントは400~800トンU/年を目指している。
アメリカ合衆国
- ウエスト・バレー再処理工場 - ニューヨーク州
- アメリカは核不拡散の立場から核燃料の再処理を行わないワンス・スルー政策を取っており、ハンフォード・サイト、サバンナ・リバー・サイト、アイダホといった国内の再処理工場はエネルギー省が保有する核兵器の生産工場となっていた。冷戦終了後はいずれも稼動を停止した。ウエスト・バレーは唯一の民間再処理工場だったが現在は稼動していない。
ベルギー
- ユーロケミック社モル再処理工場(100トンU/年)
- 1966年に完成し1974年に運転が停止された。施設は解体されている。
ドイツ
- WAK再処理工場 - カールスルーエ
- 35トンU/年の処理能力を持つパイロットプラントが1971年に建設され1990年まで運転された。
- WAW再処理工場 - バイエルン州バッカースドルフ
- 350~500トンU/年の処理能力を持つWAW再処理工場が計画され1986年に建設が始まったが1989年に建設が中止された。
アルゼンチン
- エセイサ原子力研究センターのパイロットプラント(5トンU/年)が運転中である。
ブラジル
- サンパウロにあった研究用プラントは閉鎖されている。
イタリア
- 国内にあったEurex SFREやITRECなどの再処理施設は現在では運転されていない。
- ^ “Reprocessing ceases at UK's Thorp plant”. World Nuclear News. (2018年11月14日) 2021年9月16日閲覧。
- ^ 鎌田慧「第1章 悲劇の六ヶ所村」/ 鎌田慧・斉藤光政著『ルポ 下北核半島 -原発と基地と人々-』岩波書店 2011年 19ページ
- ^ 「六ヶ所再処理工場」とは何か、そのしくみと安全対策(前編), 資源エネルギー庁, (2020/03/06)
- ^ Matthew Bunn, Steve Fetter, John P. Holdren and Bob van der Zwaan (December 2003), The Economics of Reprocessing vs. Direct Disposal of Spent Nuclear Fuel, Belfer Center for Science and International Affairs, Harvard University
- ^ “【社説】 原発資料隠し 再処理工場の運転凍結を”. 朝日新聞. (2004年7月5日) 2011年6月6日閲覧. "「ないと思っていたが、探してみたらロッカーにあった」。そんな信じがたい説明とともに、10年前につくった重要な資料が経済産業省から出てきた。 原発の使用済み燃料を再処理するか、そのまま埋めるか。その二つの方式のコストを比べた資料が隠されていたのだ。 日本は核燃料サイクル政策をとっている。原発の使用済み燃料を再処理し、取り出したプルトニウムを使おうというものだ。このコストを計算したら、再処理せずに使用済み燃料を捨てる直接処分方式より2倍近くも割高となった。"
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