リーマン幾何学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/08 07:30 UTC 版)
リーマン幾何学の古典定理
下記は、リーマン幾何学の古典定理のリストとしては不十分である。重要で、美しく、単純な定式化となっているものを選択した。結果の大半は、ジェフ・チーガー(Jeff Cheeger)と E. Ebinの古典的な単行本で探すことができる。
与えられる定式化は、極めて完全、最も一般的というわけではない。このリストは基本的定義を既に知り、これらの定義が何であるかを知ろうとする人向けのものである。
一般的定理
- ガウス・ボネの定理 コンパクト 2-次元リーマン多様体 M のガウス曲率の積分は、2πχ(M) に等しい。ここに χ(M) は M のオイラー標数である。この定理は、任意のコンパクトな偶数次元のリーマン多様体へ一般化できる。一般ガウス・ボネの定理を参照。
- ナッシュの埋め込み定理も、リーマン幾何学の基本定理と呼ばれる。この定理は、すべてのリーマン多様体はユークリッド空間 Rn の中へ等長的に埋め込む(embedded)ことができる。
大域幾何学
空間の大域的構造についての情報を導くために、次の定理はみな、空間のある局所的な振る舞いを前提とする(普通は曲率を使い定式化する)。大域的構造は、多様体のトポロジカルなタイプの情報と「充分大きな」距離での点の振る舞いについての情報を含んでいる。
挟まれた断面曲率
- 球面定理 M が単連結コンパクト n-次元リーマン多様体の断面曲率が 1/4 と 1 の間に挟まれていると、M は球に微分同相である。
- チーガーの有限性定理 定数 C, D と V に対して、断面曲率が |K| ≤ C で、半径が ≤ D で、体積が ≥ V である(微分同相を同一視して)コンパクトな n-次元のリーマン多様体は有限個しか存在しない。
- グロモフの概平坦多様体(Gromov's almost flat manifolds) n-次元リーマン多様体が断面曲率 |K| ≤ εn であり、半径が ≤ 1 であれば、有限被覆がnil-多様体(nil manifold)に微分同相であるような εn > 0 が存在する。
断面曲率の下界
- チーガー・グロモルのソウル定理(Cheeger-Gromoll's Soul theorem) M が非コンパクトな完備非負な曲率を持つ n-次元リーマン多様体とすると、M はコンパクトな全測地部分多様体 S をもち、M が S の法バンドルと微分同型である(S を M のソウル(soul)と呼ぶ)。特に、M が M のどの点でも厳密に(0 となることを除く)正の曲率を持つと、M は Rn に微分同相である。グリゴリー・ペレルマン(G. Perelman)は、1994年に驚くほどエレガントで短く、M は「一点でのみ正曲率を持つと Rn である」というソウル予想を証明した。
- グロモフのベッチ数定理(Gromov's Betti number theorem) M がコンパクトで連結な n 次元の正の断面曲率をもつリーマン多様体ならば、ベッチ数の和が多くとも C となるような定数 C = C(n) が存在する。
- グローブ・ピーターソンの有限性定理(Grove–Petersen's finiteness theorem) 定数、C, D, と V が与えあられると、断面曲率 K ≥ C, 半径 ≤ D で、体積 ≥ V であるようなコンパクト n-次元リーマン多様体の有限個のホモトピータイプしかない。
断面曲率の上界
- カルタン・アダマールの定理(Cartan–Hadamard theorem)は、非正な断面曲率をもつ完備単連結リーマン多様体 M は、任意の点での指数写像(exponential map)を通して、n = dim M 次元のユークリッド空間 Rn に微分同相であるという定理である。この定理は、非正な断面曲率を持つ単連結な完備リーマン多様体の任意の 2点は、一意な測地線により結ぶことができる。
- 負の断面曲率を持つ測地フロー(geodesic flow)は、エルゴード的である。
- M が厳密に(0 を含めない)負の定数 k の上界を持たない断面曲率をもつ完備なリーマン多様体であれば、CAT(k)空間(CAT(k) space)である。逆に、M の基本群 Γ = π1(M) がグロモフの意味の双曲的(Gromov hyperbolic)である。このことは基本群の性質に対して多くの意味を持っている。
下界なリッチ曲率
- メイヤーの定理(Myers theorem) コンパクトなリーマン多様体が正のリッチ曲率を持つと、基本群は有限群となる。
- 分裂定理(Splitting theorem) 完備 n-次元リーマン多様体は、非負なリッチ曲率と真っ直ぐな直線(各々の点の間の距離を極小化する測地線)を持つと、実直線と非負なリッチ曲率を持つ完備 (n-1)-次元リーマン多様体の積と等長である。
- ビショップ・グロモフの不等式(Bishop–Gromov inequality) 正のリッチ曲率を持つ完備 n-次元リーマン多様体の中の半径 r の球の体積は、多くともユークリッド空間の中の同一半径 r の球の体積しか持たない。
- グロモフのコンパクト性定理(Gromov's compactness theorem) 正のリッチ曲率と多くとも半径 D を持つすべてのリーマン多様体は、グロモフ・ハウスドルフ計量(Gromov-Hausdorff metric)でプレコンパクトである。
負のリッチ曲率
- 負のリッチ曲率を持つコンパクトリーマン多様体の等長群は離散的(discrete)である。
- 次元が n ≥ 3 であるすべての滑らかな多様体は、負のリッチ曲率のリーマン計量を持つ[注釈 1]。(曲面に対しては正しくない。)
負のスカラー曲率
- n-次元トーラスは正のスカラー曲率を持たない。
- n-次元リーマン多様体の単射半径(injectivity radius)が ≥ π であれば、平均スカラー曲率は多くとも n(n-1) である。
- ^ ヨアヒム・ローカンプ(Joachim Lohkamp)は Annals of Mathematics, 1994 で、2よりも大きな次元を持つすべての多様体は、負のリッチ曲率を持つことを示した。
- 1 リーマン幾何学とは
- 2 リーマン幾何学の概要
- 3 リーマン幾何学の古典定理
- 4 関連項目
リーマン幾何学と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
- リーマン幾何学のページへのリンク