ナルコレプシー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/15 09:47 UTC 版)
治療
他の過眠症と同様に、まずは夜間の睡眠を十分にとる事が大切とされている(「睡眠衛生」も参照)[1]。可能であれば計画的に昼寝を取ることも予防となる[1]。
ナルコレプシーも睡眠の病気で、治療を通して良くなっていくものであり、なまけによるものではないという周囲の理解、サポートも重要である[12]。また、日本ナルコレプシー協会が普及啓発や交流事業を行っており、相談も受け付けている[12]。
薬物療法
中枢神経刺激薬を使用することで日中の眠気を抑制することができるため、この目的にメチルフェニデート(リタリン)・モダフィニル(モディオダール)・ペモリン(ベタナミン)が主に使用されている[1][4]。かつてはメタンフェタミン(ヒロポン錠)が使用されることもあったが、現在では極めて稀である。同じくナルコレプシー適応のピプラドロール(カロパン)は現在日本では発売されていない。また、抗うつ薬が情動脱力発作や睡眠麻痺といった、レム睡眠関連症状を抑制することから、三環系抗うつ薬やSSRI、SNRIが主に用いられる[4]。4-ヒドロキシ酪酸 (4-Hydroxybutyrate、GHB) も治療に使われることがあった。
日中の眠気抑制を目的とした投薬の、2012年時点の主流はモダフィニル(モディオダール)である。これには、メチルフェニデートやペモリンに比べて依存性の問題がないことや肝臓への負担が少ないことなど、副作用が少ないことが挙げられる[4]。本剤は、ナルコレプシー専用の治療薬として日本国内で承認され、最大30日分まで[13]処方箋が可能となっている。血中濃度の半減期が12時間と比較的長く[4]、朝食後に一回飲むだけで約8時間効果が持続する。
メチルフェニデートは、血中濃度の半減期が7時間ほど、実効時間は4時間ほどであるため、症状によっては1日複数回の服用となる[4]。日本においては、不正使用や乱用の問題から登録医のみが処方可能となっており(詳細は本剤の記事を参照)、他剤で充分な効果が得られない場合や副作用によって他剤を使用することが困難な場合などに限って使用し、主剤として用いるのは極力避けるべきであると、日本睡眠学会は発表している[4]。
ペモリンは、モダフィニル同様に血中濃度の半減期が12時間と長く、1日1回の投与で良いとされている。但し、本剤は肝臓への負担が高いとされている[4]。
これらはいずれも対症的な治療であって根本的な治療ではない。そのため、投薬を中止すると元の眠気水準に戻ってしまうことになる[4]。また、いずれも夜間の睡眠に悪影響を与えてはいけないことから、夕方までに効果が切れるように処方されることとなり、薬効を翌日に持ち越すことはできない。そのため、毎日服用する必要がある。
上記以外の薬としては、オレキシンがナルコレプシーなどの睡眠障害に対する新規治療薬開発につながることが期待されている[14]。2017年5月、筑波大学の柳沢正史らは米アカデミー紀要電子版でオレキシン様化合物の研究結果を発表した。彼らが作成に成功したオレキシン様化合物は、正常なマウスに投与すると覚醒時間が延長され、継続して投与するとナルコレプシー患者に多い体重増加も抑制されるなど、効果があることが確認されたという[15]。
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 『ハリソン内科学』(4版)メディカルサイエンスインターナショナル、2013年3月26日、Chapt.27。ISBN 978-4895927345。
- ^ a b ナルコレプシー MSDマニュアル プロフェッショナル版
- ^ a b c “睡眠障害 - ナルコレプシー”. 日本睡眠学会. 2010年5月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x “ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン項目”. 日本睡眠学会. 2012年3月23日閲覧。
- ^ 櫻井武 『睡眠の科学』 p113 2010年11月21日、Blue Backs、講談社、ISBN976-4-06-257705-2
- ^ Sakurai, Takeshi; Amemiya, Akira; Ishii, Makoto; Matsuzaki, Ichiyo; Chemelli, Richard M; Tanaka, Hirokazu; Williams, S.Clay; Richardson, James A et al. (1998). “Orexins and Orexin Receptors: A Family of Hypothalamic Neuropeptides and G Protein-Coupled Receptors that Regulate Feeding Behavior”. Cell 92 (4): 573–585. doi:10.1016/S0092-8674(00)80949-6. ISSN 00928674.
- ^ Chemelli, Richard M.; Willie, Jon T.; Sinton, Christopher M.; Elmquist, Joel K.; Scammell, Thomas; Lee, Charlotte; Richardson, James A.; Williams, S.Clay et al. (1999). “Narcolepsy in orexin Knockout Mice”. Cell 98 (4): 437–451. doi:10.1016/S0092-8674(00)81973-X. ISSN 00928674.
- ^ Mignot, Emmanuel; Peyron, Christelle; Faraco, Juliette; Rogers, William; Ripley, Beth; Overeem, Sebastiaan; Charnay, Yves; Nevsimalova, Sona et al. (2000). Nature Medicine 6 (9): 991–997. doi:10.1038/79690. ISSN 10788956.
- ^ Hara, Junko; Beuckmann, Carsten T.; Nambu, Tadahiro; Willie, Jon T.; Chemelli, Richard M.; Sinton, Christopher M.; Sugiyama, Fumihiro; Yagami, Ken-ichi et al. (2001). “Genetic Ablation of Orexin Neurons in Mice Results in Narcolepsy, Hypophagia, and Obesity”. Neuron 30 (2): 345–354. doi:10.1016/S0896-6273(01)00293-8. ISSN 08966273.
- ^ Mieda, M.; Willie, J. T.; Hara, J.; Sinton, C. M.; Sakurai, T.; Yanagisawa, M. (2004). “From The Cover: Orexin peptides prevent cataplexy and improve wakefulness in an orexin neuron-ablated model of narcolepsy in mice”. Proceedings of the National Academy of Sciences 101 (13): 4649–4654. doi:10.1073/pnas.0400590101. ISSN 0027-8424.
- ^ 桜井武 オレキシンの生理機能の解明
- ^ a b 本多真 (2021). “ナルコレプシー”. 精神科治療学 36: 252-253.
- ^ 平成22年4月1日より適用。新旧対照条文 ◎療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等 (PDF) (2015年5月8日時点のアーカイブ)
- ^ 柳沢正史. “睡眠障害の謎を解く”. 科学技術振興機構. 2017年7月24日閲覧。
- ^ 綿引正雄 (2017年5月16日). “睡眠障害の症状抑制、オレキシン様の化合物作成し効果確認 筑波大チーム”. 茨城新聞クロスアイ 2017年7月24日閲覧。
- ^ a b 本多裕『ナルコレプシーの研究―知られざる睡眠障害の謎』悠飛社、54, 56頁。ISBN 9784860300180。
- ^ HMV. “ギャンブル放浪記 ランティエ叢書”. 2015年10月17日閲覧。 “昭和43年頃、幻視幻覚症状が甚だしく、神経病の一種ナルコレプシーが嵩じる”
- ^ “俳優・岩義人「ナルコレプシー」で芸能活動休止 今後はYouTubeで活動”. 2020年5月1日閲覧。
- ^ “「純情のアフィリア」に加入した青葉区出身セラさん「夢は大きく、武道館」 | 青葉区”. タウンニュース (2017年8月31日). 2020年8月5日閲覧。
ナルコレプシーと同じ種類の言葉
- ナルコレプシーのページへのリンク