スーパーシャーマン スーパーシャーマンの概要

スーパーシャーマン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/16 02:19 UTC 版)

M51スーパーシャーマン(奥はM50)

本項ではこれらの車輌に加えて、同軍のM4およびその派生車の運用についても概説する。

M4の導入

第二次世界大戦後、イギリス委任統治されていたパレスチナでは、ユダヤ人達が1948年5月14日付の期限切れと共にユダヤ人国家建国準備を進めており、同時に予想された周辺アラブ国家およびパレスチナ人勢力との戦争に向けて軍事組織ハガナーを中心に軍備増強を進めていた。しかし表立った武器輸入が禁止されていたため銃火器や非武装車輌の密輸程度に留まっており、砂漠での地上戦を制するのに必要な戦車の調達が急務であった。

シャーマンM4(105 mm 榴弾砲装備型)

そこでハガナーは、引き揚げのために港町ハイファに集結していたイギリス軍からM4シャーマンおよびクロムウェル巡航戦車計6輌を盗み出した。これらの戦車は、イスラエル独立宣言と共に始まった第一次中東戦争において貴重な機甲戦力となった。一時休戦時には、ハガナーを中心にイスラエル国防軍が編成され、世界中から中古M4をスクラップなどの名目でかき集めた。これらの戦車は砲に穴が空けられるなどして、兵器として再利用できないようになっていた。軍は、当初は金属の栓で砲の穴を塞ぎ、後にスイスで入手したクルップ社製1911年式75 mm 砲に換装するなどして、使用可能なM4戦車として復活させ、初期の機甲部隊の中核戦力とした。第一次中東戦争が終結してイスラエルが国家として認められると、完全な状態の車両や正規の部品・装備品も輸入できる様になった。

アメリカの高い自動車産業技術で製造されたM4戦車は、シンプルで機械的信頼性や各型の部品互換性も高く、また後に導入されるセンチュリオンと違い中東の砂漠地帯における運用上の問題も少なく、その後長期に渡ってイスラエル軍機甲戦力の中核を担った。なおこれらの車輌は75 mm 砲または105 mm 榴弾砲装備型が中心であり、3インチ(76.2 mm)砲装備型やイギリス軍17ポンド砲を搭載させたファイアフライはほとんどなかったようである。そのためアラブ諸国ソ連製戦車にやがて火力において劣勢となり、更に装甲防御力不足も深刻な問題となった。しかし、エンジンや走行系の換装をしても重量的に攻撃力と防御力の同時強化は無理で、やむなく火力強化のみのアップグレードが図られた。

M1スーパーシャーマン

M1スーパーシャーマン(VVSS)

1956年頃、当時のアラブ諸国の主力戦車T-34/85に対抗してM4の火力強化が推進された。後述のM50の開発と並行して、それまで中心であった75 mm 砲搭載車に加え、大戦後にアメリカからフランスへ1254輛が供与されたM4A1(76)W後期型のうちの250輛程と、少数のM4A3(76)Wを導入した。同車に搭載されたM1A2 76 mm 砲はT-34/85に対して十分な威力を発揮し、この事から75 mm 砲搭載車との区別のために搭載砲に因んでM1スーパーシャーマンの名が与えられた。これに伴い、IDF内部では既存のシャーマンを基となった車輌の型式とは無関係に、M3 75 mm 砲搭載車はシャーマンM3、M4 105 mm 榴弾砲搭載車はシャーマンM4と、同じく搭載砲の型式番号を付けて呼ぶようになった。

一部の車輌は1960年代半ばには走行装置をオリジナルのVVSSからHVSSサスペンションと幅広履帯"T-80"に換装し、さらに1970年代にエンジンをカミンズVT-8系ディーゼルエンジンに換装され、1973年の第四次中東戦争でもドーザー車などの特殊用途に使用された。

M50スーパーシャーマン

M50スーパーシャーマン(HVSS)
カミンズ製ディーゼルエンジン搭載車のエンジンデッキ。コンチネンタル製ガソリンエンジンデッキを中央で切断し、左右を入れ替えたデザインになっている。

M1の導入と並行して、旧75 mm 砲搭載車のアップグレードとしてフランスのAMX-13軽戦車に搭載されていた75 mm 戦車砲CN-75-50の搭載が検討され(同じ75 mm 砲でもこちらはパンター中戦車7.5 cm KwK 42 L/70戦車砲を改良した物で威力は段違いだった。なお同時に検討されたAMX-13自体の導入は自動装填装置の信頼性などから一度は見送られたが、結局後に導入されている)、M50スーパーシャーマンが生み出された。砲塔はオリジナルの75 mm 砲塔(装填手用ハッチ付きの後期型)をベースに前後を鋳造部品を溶接して延長、砲尾と後退量の大きなCN-75-50砲を搭載するスペースを確保している。装填は手動式に変更された。車長用ハッチは両開き式の物と、後期の片開き式の物が混在している。又、砲塔側面には発煙弾発射機が装着されている。

ベース車体はM4A4の延長車体が最も多かった様だが、鋳造のM4A1を使用したものも多く、標準長の溶接車体、M4ハイブリッド車体を使用した車輌も存在している。又、M4A4、A2、A3の車体をベースとした場合、基本的にエンジンはM4・M4A1と同じコンチネンタル製ガソリンエンジンに統一されている。VVSSサスペンションや転輪類、デファレンシャルカバーは新旧様々なタイプが混用されているが、履帯はほぼ全てのVVSSタイプで、鋼鉄製のT54E1が使用されている。

60年代頃にはHVSSやカミンズ製ディーゼルエンジンへの換装が行われ、増幅されたフェンダー上には工具箱やジェリカン、予備転輪や履帯などの車外装備品が搭載された。又、この時期に主砲基部にサーチライトを装備する改造が行われた様である。また、カミンズ製ディーゼルエンジン装備タイプも60年代~70年代後期にかけ何段階かの改修がおこなわれており、初期には車体下部リアパネルにM4A3のような排気管が装備されていたが、70年代には排気管は車体エンジンデッキ上に移されている。なお前述のM1と後述のM51なども含めて、M4A4延長車体以外の車体ではカミンズ製ディーゼルエンジンがわずかに納まり切らず、車体後部のエンジン点検ハッチ部分が10 cm ほど増厚されている。資料によっては、VVSSサスペンション、コンチネンタル製ガソリンエンジン搭載の初期タイプをM50 Mk.I、HVSSサスペンション、カミンズ製ディーゼルエンジン搭載の後期タイプをM50 Mk.IIとして区別している。

1956年の第二次中東戦争では、エジプト軍の使用したAMX-13の砲塔を装備したM4戦車などと交戦した。またレバノン内戦以降は南レバノン軍(SLA)などに供給されている。


  1. ^ SabIngaMartin Publications - Lioness & Lion of the Line Volume 2 - M50 and M51, P.32-38


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