ジュズダマ 利用

ジュズダマ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 14:41 UTC 版)

利用

脱落した実は、乾燥させれば長くその色と形を保つので、数珠を作るのに使われたことがある[いつ?][どこ?]。固く光る天然のビーズ玉となり、何の細工もしなくても自然に穴が通っているため、針で糸を通してネックレスが作られる[3]。実の穴に詰まっている芯をつつき出して針を通し、糸を通すのも容易にできる[21]

古代

中国陝西省米家崖(Mijiaya)村に位置する新石器時代仰韶末期、半坡英語版IV標式の層、前3400–2900年)の遺跡からは、ジュズダマを原料のひとつとした5000年前のビール醸造の痕跡が発見されている。他の原料は、外来種のオオムギや、キビなど穀類、および塊茎類だった[24][25][注 5]。またインドの北東部の前1000年頃の遺跡からもジュズダマは発掘されており、インドでの栽培は前1000年–2000年頃と論じられている[26][27]

本邦でも西日本(中国地方)では、縄文時代早期(約6000年前)より稲作のみならずジュズダマ属の栽培がおこなわれていたことが、例えば岡山県の朝寝鼻貝塚の珪酸体分析から判明している[29][30]弥生時代登呂遺跡(静岡県)からジュズダマが出土することは既に知られていた[31]

食用

野生種もハトムギ同様に、固い実の殻を割って、中の穀粒を取り出して雑穀として食べることができる[3]。食味は、豆の味に似てモチモチ感があり、米飯と一緒に混ぜて炊飯されたりされる[21]。殻の中の穀粒を製粉すれば、応用範囲が広がる。グルテンを含まないので、膨らんだパン類などの用途には向かない。

薬用

野生種は、秋に成熟した実を採取し、皮付きのまま砕いて硬い種皮を除いたものは生薬となり、川穀せんこく贛珠かんじゅという名でも流通させて、薏苡仁(よくいにん)と区別するが、品質は劣れど代用可能と江戸時代の医学書『用薬須知』(巻之二 ・草部)に記される[32][7]

民間では、リウマチ神経痛肩こりに1回量10グラムの川穀を、水500 ccで半量になるまでとろ火で煎じ、3回に分けて分服する用法が知られている[7]

装飾品

数珠つなぎにしてネックレスにしたり、衣服や帽子、バッグなどに縫い込むなどして各地の民族衣装に使われる。

日本ではいまやほとんど念珠の材料にされないようであるが(後述)、インド、ミャンマー、ラオス、台湾、韓国の一部では、仏教徒が用いるためのジュズダマ製の数珠がいまだ作成されている[33]。またキリスト教のロザリオとしてもフィリッピンやボリビアなどの国で使われてきた[33]

日本

日本に伝来した時期は詳しく判明していないが[34]柳田國男は、その「海上の道」論において仏教伝来以前に日本に土着した文化のものと推論するが[注 6][35] 。落合氏は、仏教伝来と同時代の6世紀前半で黒井峯遺跡の発掘されたと挙げているが[34]、日本への伝来は上述したように縄文時代に遡る[29]

また平安時代の遺跡(藤原宮)でも出土しており、それに関して、植物学者の小清水卓二は、ジュズダマは念珠にも使われたと述べている[5]

しかし、少なくとも近代では、実際に仏事に用いる数珠として使われることはまずなく、子供らが数珠つなぎにして首飾りとして遊ぶに過ぎないとされる[36][35][注 7]花環同様にネックレスや腕輪など簡易の装飾品として、特に庶民の女の子の遊びの一環で作られてきた[2]

ただし例外として、山伏がもちいるイラタカの数珠というものがあり、これは特にオニジュズダマという変種(C. lacryma-jobi var. maxima Makino)が使われる[8][16][17][注 8]

海上の道の伝来説
柳田國男の「海上の道」説では、ジュズダマとタカラガイの関連を試みており、同じ文化として日本に渡来したか、同じ文化の民族移動があったとみている[37]。ジュズダマの異名にズズダマ、ツシダマがあるが、ツシヤという古語が「宝貝」の意ではないかという仮説を立て、ジュズダマとは本来「タカラガイの玉」といような大意の名称ではないかとする主旨である。しかしこの古語の精確な意味は不詳であり、柳田は自分の"想像は、誠に幽な暗示の上に築かれている"と認めている[37]
日本では他の学者もこの論説の検証を試みている。柳田はその著書でジャクソン英語版が作図したタカラガイ利用の分布地図を掲載するが[38]、例えば人類学者の岩田慶治も、タカラガイの利用分布と、ジュズダマの利用分布の照合を意図したが、本格的な成果には至っていない[39][40]

東南アジア大陸部

タイ、ミャンマー、中国にまたがる周辺の山岳地帯に住むハニ族カレン族は、幾つかの変種を栽培しており、ビーズとして衣服・装飾品などに利用している[41]。アカ族では女性の衣服のみに使われるとされており、帽子、上着、バッグ等に種を縫い留める。また、様々な形状のビーズを組み合わせて使用する[42][注 9]カレン族のあいだでは、既婚の女性の上着にしか使用されず、もっぱら細長い種にこだわって使用する[44]。 たとえばタイのチエンラーイ県のカレン族から民芸品が採集されている[42]

東南アジア島嶼部

北ボルネオでは、マレー系のケラビット族英語版(マレーシア・サラワク州[注 10])、 ドゥスン族英語版ムルット族(ともにサバ州)は、いずれも装飾品にジュズダマを利用している[43]。ボルネオのカヤン・ダヤク族の間でも、普段着や戦闘服の装飾に使われてきた[45]

フィリッピンではジュズダマ(タガログ語: tigbí)は様々な現地名で呼ばれており(例:ビサヤ諸島ではビコール語adlái[46][47]、英語圏でもアドレーadlay)の名で流通することがある[48]。数珠繋ぎにしたビーズは、キリスト教徒のロザリオとしても使われ[33][47]、ビーズカーテンに加工されたり(例:ミンダナオ島ティボリ族英語版[49])、バスケットやトレーなどの容器に使用される[47]


注釈

  1. ^ ただし蘭山が「トウムギ」をチョウセンムギの正称としたのに対し、古川瑞昌 (1928–1977)はシコクムギ、トウムギを同類と見た[10]
  2. ^ "兩指ヲ以推寸ハ皮破ル"。対してチョウセンムギは"皮厚ク硬シ撃ザレハ破レズ"。完熟した実の色合いは、シコクムギは"淺褐微黒色"、チョウセンムギは"色褐ニテ微黒"。
  3. ^ 具体例としては、元禄十年初版 『農業全書』28)巻之二・五穀之類の薏苡第十九にある、粥、飯に混ぜる雑穀、だんごとしての利用、『和漢三才図会』の粥、寛永二十年に成立『料理物語』・第十八菓子の部の記述も小山 1996, p. 67ではチョウセンムギの事と解釈している。
  4. ^ したがってオニジュズダマ var. maxima はCoix lacryma-jobi var. lacryma-jobiの異名とされる。後述するように、オニジュズダマは修験者(山伏、"役小角ヲ信ズル者")がもちいる「イラタカの数珠」の材料となる[9][8]
  5. ^ AFP通信の報道では「ハトムギ」とされているが、原文ではこの食用品種だとは特定されていない。陶器に付着した澱粉や珪酸体の残留の分析により種を特定。
  6. ^ §3: "後に東北のイタコの数珠や、アイヌの頸飾くびかざりなどを見るようになって、ジュズとは呼びながらも我々の真似ていたのは、もっと古風な、また国風なものだったことに心づいたことである。"
  7. ^ 上述したように柳田 1953, §5では、小野蘭山『本草綱目啓蒙』を引用して"薏苡の目の下に食えるのを二種、食用とせぬもの二種を列記するが、後者は宿根であって荒野に自生し、実大きく皮いたって硬く、実中に自ら穴あって穿って貫珠となすべし"と述べている。
  8. ^ 上述したように、maxima という変種は、世界的に正名(accepted name)とされておらず、キューガーデン主催のWorld Checklist of Selected Plant Familiesデータベースでも C. lacryma-jobi var. lacryma-jobiの異名として登録されている[18]
  9. ^ アカ族は、山間部の種族だがタカラガイを交易で入手して使う(バンコク産のものを華僑の仲介で購入)と指摘される[43]
  10. ^ 国境を越えたインドネシアの北カリマンタンにも分布。

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Coix lacryma-jobi L. var. lacryma-jobi ジュズダマ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月26日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 稲垣栄洋監修 主婦の友社編 2016, p. 143.
  3. ^ a b c d e f g h i 多田多恵子 2008, p. 49.
  4. ^ a b c d e f 主婦と生活社編 2007, p. 112.
  5. ^ a b 小清水卓二「別編 高殿出土植物遺品の調査」: 足立康; 岸熊吉 (1936), 日本古文化研究所報告, pp. 220?–, https://books.google.com/books?id=JXbQAAAAMAAJ&q=coix 
  6. ^ 川穀(せんこく). 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m 馬場篤 1996, p. 64.
  8. ^ a b c 柳田 1953, §5.
  9. ^ a b c d e f 蘭山小野先生 口授巻之十九/穀之二稷粟一(十八種[の第16)]」『重訂本草綱目啓蒙 48巻. [9]』和泉屋善兵衛 [ほか8名]、1847年、六–七頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2555639/16 
  10. ^ a b c 古川瑞昌『ハトムギの効用—ガンと美容と長寿にきく』、 六月社、1963年、30–45頁。小山 1996, p. 67で引用。
  11. ^ 小山 1996, p. 63.
  12. ^ a b Coix lacryma-jobi”. World Checklist of Selected Plant Families. Royal Botanic Gardens, Kew. 2020年12月22日閲覧。 (要クエリー検索・種名を入力。太字のみが正名、それら以外は異名。)
  13. ^ Matsumura, Jinzō (1905). Index plantarum japonicarum: sive, Enumeratio plantarum omnium ex insulis Kurile. Yezo, Nippon, Sikoku, Kiusiu, Liukiu, et Formosa hucusque cognitarum systematice et alphabetice disposita adjectis synonymis selectis, nominibus japonicis, locis natalibus. 2. Josefina Ramos (tr.). apud Maruzen. pp. 49–50. https://books.google.com/books?id=seAlAQAAMAAJ&pg=PA49 
  14. ^ Coix agrestis Lour., Fl. Cochinch.: 551 (1790)”. World Checklist of Selected Plant Families. Royal Botanic Gardens, Kew. 2020年12月22日閲覧。 (要クエリー検索・種名を入力)
  15. ^ 小山 1996, p. 67.
  16. ^ a b Makino, T. (1906), “Observations on the Flora of Japan (cont.)”, Botanical magazine 20: 11–10, https://books.google.com/books?id=9xlbPBO2OoYC&pg=RA2-PA12 
  17. ^ a b 牧野富太郎我が思ひ出(遺稿): 植物隨筆』北隆館、1958年、13頁https://books.google.com/books?id=juY9AQAAIAAJ&q=Coix 
  18. ^ a b Coix lacryma-jobi var. maxima Makino, Bot. Mag. (Tokyo) 20: 10 (1906)”. World Checklist of Selected Plant Families. Royal Botanic Gardens, Kew. 2020年12月22日閲覧。
  19. ^ a b c d e 多田多恵子 2008, p. 48.
  20. ^ a b c d e f 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 234.
  21. ^ a b c 多田多恵子 2008, p. 51.
  22. ^ a b 多田多恵子 2008, p. 50.
  23. ^ 多田多恵子 2008, pp. 50–51.
  24. ^ Wang, Jiajing; Liu, Li; Ball, Terry; Yu, Linjie; Li, Yuanqing; Xing, Fulai (2016). “Revealing a 5,000-y-old beer recipe in China”. Proceedings of the National Academy of Sciences 113 (23): 6444–6448. doi:10.1073/pnas.1601465113. PMC 4988576. PMID 27217567. http://www.pnas.org/content/early/2016/05/18/1601465113 2016年6月3日閲覧。. 
  25. ^ “5000年前のビール、出土の陶器から痕跡発見 中国”, AFP通信, (2016年5月24日), https://www.afpbb.com/articles/-/3088121 
  26. ^ Nesbitt, Mark (2012) [2005]. “Grains”. In Prance, Ghillean; Nesbitt, Mark. The Cultural History of Plants. Routledge. pp. 53, 343–344. ISBN 9781135958114. https://books.google.com/books?id=niwsBgAAQBAJ&pg=PA53 
  27. ^ Simoons 2014, p. 81.
  28. ^ “房総における原始古代の農耕―各時代における諸問題2―”, 千葉県文化財センター研究紀要 23, http://www.echiba.org/pdf/kiyo/kiyo_divi/kd023/kiyo_023_p1.pdf 
  29. ^ a b 高橋護「考古学とプラント・オパール分析の利用」『水田跡・畑跡をめぐる自然科学―その検証と栽培植物-』、第9回東日本の水田跡を考える会(資料集)1999年[28]
  30. ^ 高橋護 著「第2節:板屋III遺跡におけるプラント・オパール分析による栽培植物の検出結果とその考察」、島根県教育庁埋蔵文化財調査センター 編『板屋III遺跡 2 縄文時代~近世の複合遺跡の調査』〈志津見ダム建設予定地内埋蔵文化財発掘調査報告書20〉2003年、227頁https://sitereports.nabunken.go.jp/files/attach_mobile/3/3054/2383_3_%E6%9D%BF%E5%B1%8BIII%E9%81%BA%E8%B7%A12%E7%B8%84%E6%96%87%E6%99%82%E4%BB%A3%EF%BD%9E%E8%BF%91%E4%B8%96%E3%81%AE%E8%A4%87%E5%90%88%E9%81%BA%E8%B7%A1%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB.pdf 
  31. ^ 後藤守一伊豆山木遺跡 : 弥生時代木製品の研究』築地書館、1962年、94頁。doi:10.11501/3025934https://books.google.com/books?id=uZzRAAAAMAAJ&q=オニジュズダマ 
  32. ^ 小山 1996, p. 65.
  33. ^ a b c 落合 2010, p. 11.
  34. ^ a b 落合 2010, p. 14.
  35. ^ a b 柳田 1953, §3.
  36. ^ 松岡恕庵1726『用薬須知』巻之二 ・草部: "念珠二作テ小児ノ翫戯トス"。小山 1996, p. 65
  37. ^ a b 柳田 1950, §2
  38. ^ 柳田 1950, §3の地図。 Jackson (1917) Shells as Evidence of the Migrations of Early Culture より転載。
  39. ^ 岩田 1991, pp. 17–18.
  40. ^ 落合 2010, pp. 4–5のジュズダマ装飾具のコレクション・マップも参照。落合 2010, p. 14でも柳田の「海上の道」説、タカラガイとの関連説に触れている。
  41. ^ Ochiai 2002, p. 61; 落合 2010, pp. 8–9
  42. ^ a b 落合 2010, pp. 8–9.
  43. ^ a b 岩田 1991, p. 16.
  44. ^ 落合 2010, p. 6.
  45. ^ Beccari, Odoardo (1904). Wanderings in the Great Forests of Borneo: Travels and Researches of a Naturalist in Sarawak. London: Archibald Constable. p. 281. https://books.google.com/books?id=3BFqDoavHMIC&pg=PA281 
  46. ^ Guerrero, León María (1989). Notes on Philippine Medicinal Plants. Josefina Ramos (tr.). p. 191. https://books.google.com/books?id=GeQkAQAAMAAJ&dq=adlay 
  47. ^ a b c Brown, William Henry (1919). Wanderings in the Great Forests of Borneo: Travels and Researches of a Naturalist in Sarawak. Manila: Bureau of printing. p. 281. https://books.google.com/books?id=3BFqDoavHMIC&pg=PA281 
  48. ^ Lim (2013), p. 243.
  49. ^ 落合 2010, p. 10.


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