エンジンオイル オイルの分類

エンジンオイル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/08 15:23 UTC 版)

オイルの分類

対応するエンジン形式による分類

自動車やオートバイ用のエンジンオイルは、以下の3種類に大別することができる。

4ストロークガソリンエンジン用オイル
ガソリンを燃料とする4ストローク機関に対応したエンジンオイル。エンジンの使用経過により性能が低下するために、一定期間ごとに全量を交換するのが一般的整備方法となる。後述する2ストロークエンジンが、自動車排出ガス規制等により一般的でなくなってきている現在では、通常「エンジンオイル」といえばこのタイプを指すことが多い。なおロータリーエンジンは4ストロークエンジンに分類されるが、潤滑のために少量のオイルを燃焼室に注入するポンプがある。
2ストロークガソリンエンジン用オイル
ガソリンを燃料とする2ストローク機関に対応したエンジンオイル。4ストロークと違い、2ストロークではエンジンオイルは燃料(ガソリン)と混合され燃焼してしまうために、交換せずに補充するのが一般的整備方法となる。2ストローク用のオイルはガソリンと混ざりやすく、十分な潤滑性能をもちつつ燃焼しやすく発煙が少ないことが要求される。
一般的な自動車やバイク用の2ストロークエンジンでは、専用のオイルタンクがあり、エンジン回転数とアクセル開度によって適切な量のオイルがポンプによって自動的に混合気に混ぜられる。オイルの自動供給機構がないエンジンでは、あらかじめガソリンに一定の比率で混ぜておく必要がある(汎用エンジンやチェーンソーなどの業務用エンジン等)。ちなみに、前者の方式を「分離給油」、後者の方式を「混合給油」と呼ぶ。
2ストロークエンジンの排気は燃焼温度が低いために窒素酸化物が少ないかわりに、吸気の吹き抜けや燃え残りによる大量の炭化水素を含んでいる。排気対策として、排気に空気を供給し炭化水素を燃焼させる必要があるが、処理の難しい窒素酸化物の処理が不要という利点もある。このため、ホンダは平成10年自動車排出ガス規制に対応した触媒を装備したリード100を2003年まで、ジャイロを2008年まで販売していた。トヨタも初代エスティマに搭載予定の2ストローク「S2」エンジンを開発したが、冷却や燃費の問題と今後強化が予想される排気対策のために実用化されなかった。
ディーゼルエンジン用オイル
ディーゼルエンジンに対応したエンジンオイル。燃料や燃焼の仕組みの違いから、4ストロークガソリンエンジンとは特性が異なり、炭化物や酸化物の発生が多いため、これらに対する性能を強化した専用のものが用意される。ただし、一定期間ごとに交換する点などは4ストロークガソリンエンジン用と同じである。
以前は4ストロークガソリンエンジンと共用できるオイルが多く存在したが、最新のクリーンディーゼルエンジンの排気後処理装置は、亜鉛、カルシウム、リン、硫黄などで性能が低下するため、これらの含有を低下させた専用規格のオイル[注 1]が使われ、規格併記で共用できるものは減少している。

ベースオイル(基油)による分類

エンジンオイルはベースオイルの種類や割合などにより次のように分類される。消費者が得られる情報として、化学物質等安全データシートMSDS(Material Safety Data Sheet))に製品のブレンド内容および毒性などの情報が記されている。

鉱物油(ミネラル)
石油を精製する過程で得られるもの。分子量などは厳密にそろえることができないが比較的安価に製造でき、一般的にはこれが多用される。原油にはナフテン系とパラフィン系があり、一般的な鉱物油の元となる原油は中近東の混合原油、ベネズエラ・オーストラリア・アメリカのメキシコ湾・ガルフコーストから産出されるナフテン系原油、アメリカ・ペンシルベニア州などから産出されるパラフィン系原油などがある。
パラフィン系は直鎖の部分が多く粘度指数が高いため、広い温度の範囲で粘度変化が小さい。ナフテン系は環状構造が多く粘度指数が低いが低温での流動性に優れる。かつてはペンシルバニア産原油から精製したパラフィン系オイルの粘度指数が100で高品質とされていた。今では出量が非常に少なくあまり販売されていない。また、ペンシルベニア産エンジンオイルだと偽り、他国のオイルを販売しているケースもある。
現在では精製技術や改質技術、添加物の性能が向上しているので、パラフィン系油田やナフテン系油田といった原油の産地だけで品質の良し悪しは決まらない。現在の原料としてはパラフィン系オイルが多い。
現時点の代表的な製法としては、重油や軽油を含んだ原油から減圧蒸留を行い炭素数が20-50の油分を抽出する。次に溶剤を用いてアスファルト分を抽出分離(脱瀝)する。必要に応じて直鎖のノルマルパラフィンと枝別れのあるイソパラフィンの比率を調節する(異性化反応)。次に水素分解により炭素数の多いものを炭素数の小さいものに分解する(Hydrocracking)。ナフテン系が多い場合はベンゼン環を開環して粘度指数を高める。必要に応じて不飽和結合をもつ炭化水素に水素を添加して粘度を向上させる(水素添加)。
これらの水素分解の過程で、硫黄分は硫化水素、窒素分はアンモニアとして分離除去される。最後に適切な粘度となるように蝋分を溶剤等で除去する(脱蝋)。さらに色相や酸化安定性等を向上させるために水素化仕上が行われる。このようにして得られたベースオイルにAPIのグレードを実現するための認定を受けた添加剤を配合することで、API認定のグレードを持つ、あるいは同等の性能を持つオイルが完成する。
このようにして高度水素化分解(ハイドロクラッキング)などの改質を行ったものを超高粘度指数油(VHVI油)・グループIII基油と呼んでいる。これを、従来からのPAO系やエステル系と同様に化学合成油と呼ぶかについては論議については意見が分かれており、メーカーにより呼称は異なっている。すなわちメーカーによってVHVI油を合成油、化学合成油、部分合成油、鉱物油などといろいろな名称をつけている。
グループIII基油は部分的な性能はPAOに匹敵もしくは凌駕する面もあり、また比較的安価であることから利用が増えている。主な精油所としては、S-Oil、SK-lubricantなどがある。
部分合成油・半合成油(セミシンセティック、パートシンセティック、シンセティックブレンド)
鉱物油や高度水素分解油にPAOやエステル(あるいは水素化分解油)を混合し、品質を高めたもの。その配合率や基油は日本では規定がなく(海外においても明確な規定はない)、表示義務もないためその詳細は消費者側は不明である。最近は従来配合されていたPAO系化学合成油をグループIII基油に置き換えることが多く、グループIIIベースオイルを部分合成油や半合成油と呼ぶケースもある[2]。グループIIIを合成油とした場合、グループI/IIにグループIIIをブレンドした場合も部分合成油や半合成とすることも可能であり、グループIIIとPAOのブレンドは後述の全合成と呼ぶこともあるので、消費者からの判断はますます困難となっている。
なお添加剤については世界的に数社からAPIの認定をとったパッケージが提供しており、これをVHVI油のベースオイルに配合しAPIに申請することでAPIのグレードが付与される。このような製品ではAPIのドーナツマークの使用が許可されているが、APIグレードに準拠しながらAPIの認定をとっていない製品についてはAPIのドーナツマークがついていない。
現状のエンジンオイルはAPIのSNグレードもしくはSPグレードが中心となっている。これらのAPIグレードに合格するには通常はベースオイルはVHVI油が必要とされている。
フィッシャー・トロプシュ法により一酸化炭素と水素ガスから触媒反応を用いて合成された基油。原油価格高騰のために単価としては石油よりも安価な天然ガスGTL)から作られることが多い。通常は半合成油に属するが、全合成油とする場合もある。
化学合成油・全合成油・合成油(シンセティック、Fully Synthetic フリシンセティック)
PAO(ポリアルファオレフィン)は工業的には石油から分留したナフサ、もしくは天然ガスから得たエチレンを合成することでαオレフィンとし、それを重合することで成分や分子量を一定にしたもので、グループIVと呼ばれる。重合度を調整することで幅広い粘度を比較的自由に作れる。鉱油に比べると低温流動性、せん断安定性などが安定しており、合成油としては比較的低コストで大量生産が可能な点、鉱油と同様に無極性の炭化水素で鉱油からの置き換えも行いやすいなどという点から、エンジンオイルにおいて一時は最も多用される化学合成油であった。
エステルはポリオールエステル、ジエステル、コンプレックスエステルなどがあり、一般的には動植物の脂肪酸アルコールを化合して生成される。組み合わせ次第で様々なエステルが存在するため性能や特性は千差万別となる。エステル結合部分のカルボニル基極性を持ち、特にその酸素原子にあるδ-(負の極性)は、オイル自身を金属表面に吸着させる効果がある。加水分解によって劣化しやすい欠点があるが、現在ではこの欠点を改良したポリオール系のエステルが使われるようになっている。
エステルは極性を持つため、金属に付着しやすく摩耗を減らす働きがあるが、極性があることで、同様に極性を持つ添加剤の働きを阻害することもあり配合に注意が必要である。鉱油やPAOに比べコストも高く寿命も短いことから、エステルを100%使用することは一般的ではなく、配合の成分として使われることが多い。
エステル系とPAO系はともに化学合成油だが、化学的安定性や粘度抵抗など異なった性質をもつ。一般的には化学的安定性の非常に高いPAOに粘度抵抗の小さいエステル系を一部混ぜたものを基油として用いることが多い。100%エステルと宣伝表示されていても、一般用途の100%エステルのオイルは存在しない。
そのほか化学合成油の基油(ベースオイル)として、アルキルナフタレン、ポリブデンなどがある。また、アメリカの広告審議会(NAD)の採決により、高温高圧下で水素、触媒を用いて鉱物油を分解・異性化精製する、ハイドロクラッキングオイル(高度精製油、高粘度指数油、超精製油、グループIIIベース油とも表記される。商品目ではVHVI、MCなど)も化学合成油(シンセティック)として表示される場合が増えている。このため国内においてグループIIIベース、またはPAOにグループIIIをブレンドしたものを化学合成油でなく、全合成油合成油と表示されることがある。近年流通している安価な全合成油・部分合成油の多くは基本的にこのグループIIIベースである。
植物油
ひまし油など。エステル系であり潤滑性はたいへん優れておりレースに用いられるが、酸化しやすいために現在の一般車ではほとんど用いられない。オイルメーカー(ブランド)のカストロール(Castrol)は、エンジンオイルの原料としてこのひまし油(Castor Oil)を用いていたことにその名を由来する。
一般ユース向きの製品としてはフックス(FUCHS)が植物油ベースの生分解性オイルを販売している。フックスは日本では知名度が低いがポルシェカップのサプライヤーをはじめとする欧米の自動車メーカー(クライスラー、BMW、フォルクスワーゲン、オペル、ポルシェ等)やビルシュタインの新車充填油、承認油(指定油)となっている大手メーカーである(指定油脂が生分解性オイルというわけではない)。また、ベースオイルとしてではなく添加剤としての利用もあり、モチュール(Motul)には化学合成油に植物油と動物脂肪酸を添加した製品が存在する(なお、動物油脂は常温で個体である等の特性の関係からベースオイルには用いられない)。

なお上記の分類はあくまで基油におけるものであり、添加剤の溶剤には基本的に鉱油が用いられるため、例えPAOやエステルベースの化学合成油であっても鉱油を全く含まないというケースはエンジンオイルにおいては極めて限られる。

APIによる基油(ベースオイル)の分類

1992年に導入された分類方法。一般ユーザーに直接の関係はないが、業界においては添加剤との組み合わせや処方の変更時などに活用されている。

グループI
粘度指数(VI) : 80 - 120
飽和炭化水素分(Vol.%) : <90
硫黄分(MASS%) : >0.03
主に溶剤精製された鉱物油(ミネラル 石油系炭化水素)が該当する。このグループに満たない鉱物油は少なくとも現代の規格オイルの基油としては採用できない。生産規模は需要や採算性から後述のグループII/IIIが拡大するのに対し縮小傾向となる。しかしグループIIやIIIでは製造されていない高粘度グレードとブライトストックはギヤ油や工業用、船舶シリンダ油などにおいて需要は変わらず高いため、今後の状況によっては供給のアンバランス化が懸念されている。
グループII
粘度指数(VI) : 80 - 120
飽和炭化水素分(Vol.%) : ≧90
硫黄分(MASS%) : ≦0.03
主に水素化処理精製鉱物油(ミネラル 石油系炭化水素)が該当するが、前述の溶剤抽出をアップグレードすることで製造するケースもある。粘度指数自体はグループIと大きな差はないが水素化精製により不飽和炭化水素が減少し、硫黄分が著しく減少している。このため酸化安定性はグループIと比べ秀でている。
グループIII
(ミネラル/シンセティック 石油系炭化水素)
粘度指数(VI) : ≧120
飽和炭化水素分(Vol.%) : ≧90
硫黄分(MASS%) : ≦0.03
高度水素化分解・異性化精製された高粘度指数鉱物油。初期は重質留分などを水素化分解し燃料やガスを製造する工程で残留するパラフィンリッチなボトム留分を利用した副産物であったが、現在では効率的に低コストでグループIII基油を生産するプラントが稼働しており大量生産が行われている。現在では水素化分解のみではなく異性化脱ろうが寄与するところも大きく、場合によってはグループIIの脱ろう工程を異性化脱ろうにアップグレードすることで水素化分解を行わず高ワックス原油の減圧軽油を製造するケースもある。この場合は触媒被毒を考慮すると高ワックスかつ低硫黄な原油が好ましいため資源的・地域的に限られるが、高収率で潤滑油留分が得られる。分類上のグループIIとの違いは粘度指数のみだが、実際のグループIII基油においては不飽和炭化水素、硫黄分ともにグループII基油よりも大きく減少している。
FTワックス(フィッシャー・トロプシュ法により作られたワックス)を水添異性化分解した基油もここに属するが、グループIVに属するとする場合もある。
以上のようにグレードIIIの製法は様々ではあるが、粘度を上昇させるとともに粘度指数に優れる直鎖のイソパラフィン形状を目指すという方向性は同じである。
グループIV
(シンセティック 合成炭化水素)
PAO(ポリアルファオレフィン・オレフィンオリゴマー)
粘度指数(VI) : 120 - 140前後(低粘度グレードの場合)
製法や特徴は前述の通りで重合の度合いで幅広い粘度を製造でき、粘度指数は粘度によって大きく異なる。また粘度が高いほど粘度指数は高くなり、一部の特殊グレードでは300を超えるものも存在する。ただし高粘度なものはエンジンオイルのベースとして使用するには粘度が高すぎるため、エンジンオイルにおいては粘度調整や添加剤としてブレンドされる程度であり配合量はあまり多くはならず、エンジンオイルのベースに使用される低粘度グレードでは粘度指数は極端に高くならない。他の合成油と異なりPAOに対しグループが割り当てられていることからもわかるように潤滑基油において一定の割合を占める。
グループV
グループI〜IV以外。エステル系(ジエステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル)のほか、アルキルナフタレン、動植物油もこのグループに含まれる。グループI〜IV外の全てが該当し鉱物油であってもグループI〜IIIに適合しないものなどもこちらに分類されるするため性質は様々である。エンジンオイルでは主にエステル系が用いられるため、エンジンオイルにおいてグループVといえばエステルを指すことが多い。エステルは設計の自由度が高く様々な仕様のものが製造出来るため粘度指数などはPAO以上に差が生じ、グループIよりも粘度指数が低いものも存在する。安定性や添加剤との相性の点で、特殊な用途を除いてベースにエステルのみを使用することはない。極性の高いエステルはその他の添加剤の働きを阻害することがあり、また極性の低いエステルは高コストであるため、エステル表記があるオイルでも全体から見た配合量少ない。エステルをはじめとするグループV基油は他のベースオイルとブレンドして使用するなど添加剤に近い使われ方をすることが多い。

通例的に使用される分類

上記API分類のグループI〜IIIでは粘度指数の規定があるが幅が広く同一グループであっても粘度指数にある程度の開きが生じる。ベースオイルにおいて粘度指数は重要な要素の1つであるため、各グループの末尾に+を追加表示することにより分類を拡張、細分化したものを使用することがある。以下の分類での粘度指数の数値はen:Lubricant#Base oil groupsを参考にしたが、この分類はあくまで通例的、慣例的なものであり厳格に定義されたものではない。

グループI+
グループIで粘度指数が103 - 108のもの。
基本はグループIと同様の溶剤抽出であるが、精製の調整もしくは何かしらの処理を追加することにより粘度指数などの性状の向上を図ったものが該当する。グループ1+の本来の目的は粘度指数の向上そのものではなく、低温流動性の向上および蒸発性の低減にある。近年のオイル規格では低蒸発性の規定が厳しく、さらに低温流動性が求められる粘度グレードの需要が高まっており規格や粘度によってはグループ1単独では要求に達しないことがある。その場合一定割合のグループII+/IIIのブレンドが必要となる。グループ1+ではグループ1に比べ低温流動性・蒸発性が改善しているため、ブレンド時のグループII+/IIIの比率を下げられるというのが生産における主な目的となっている。既存の溶剤精製プラントで低コストで導入が可能となるが、あくまで溶剤精製がベースとなるため通常のグループ1と比べて生産コストがかかるとされる。総合的な性能や生産性は水素化精製に劣り、新規にグループ1+製造プラントを建造するメリットは薄い。また既存設備を一定規模でアップグレードする場合は精製度が上がるため結果的にグループII/IIIに分類されるため存在的にも性能的にも際立ったものではなく後述のII+やIII+と比較すると表記されることは極めて少ない。
グループII+
グループIIで粘度指数が113 - 119のもの。
基本は従来のグループIIと同様の水素化精製となるが精製の効率化や前後の工程を改良することで粘度指数を含む全体的な性能の向上を図ったもの。主に脱ろう工程を従来の溶剤脱ろうや分解脱ろうから異性化脱ろうとすることで粘度指数を向上させる手法があり、技術的にはグループIIIと重複する部分が多い。粘度指数こそグループIIIには達しないものの、一般的なグループIIIより水素化精製をメインとするため原料からの収率が高い。従来ではグループIIにグループIIIブレンドしていたものをグループII+単独で製造することも可能であるしグループIIIの比率を下げることもできることから、グループIIIに対しても充分な競争力を持つ。アメリカ本土の石油メジャーのプラントではグループIIIではなくグループII+の生産拡大が進んでいる。
グループIII+
グループIIIで粘度指数が140以上のもの。XHVIやワックス高度水素化分解・異性化を行ったものなど粘度指数が140を超える基油が該当する。ただし粘度指数を130以上とする場合もあり140に達しないものでもIII+を称することもある。
大きく分けると低粘度グレードにおいても粘度指数が140を超えるものはワックスを水素化分解・異性化したもの、130を超える程度のものは通常のグループIIIとほぼ同様の精製工程だが高ワックスな原料を用いるのが一般的である。前者におけるワックスは天然ガス由来のGTLワックスや石油由来のスラックワックス等が用いられる。後者の場合は高ワックス原油を用いるか、水素化分解工程の前にワックスを増量することでイソパラフィンを増やし粘度指数を向上させている。前者の場合は(品質にもよるが)比較的高価値となるワックスを原料にする上に、異性化において収率が低下するため製造コストは高くなるが、粘度指数に限れば同粘度のPAOを凌駕する性能を持つ。
近年では大規模なGTLプラントが稼働しはじめているが、これをグループVIに含める場合がある。
API分類ではないグループ
グループVI(現在は無効)
PIO(poly internal olefins)ポリインターナルオレフィン/ポリ内部オレフィン
グループVIは欧州のATIEL(Technical Association of the European Lubricants Industry)における分類であり、欧州でのみ規定されるグループとなる。国内でこの分類が用いられることは無い。PAOに近い性質を持つが、PAOがC10デセンなどのαオレフィンを原料にするのに対し、PIOはC15およびC16などの内部オレフィンを原料とする。2003年に定義されたものの製造の見込みがないため現行の規定では消去されている。

SAE粘度

エンジンオイルは粘度によってその用途や使用環境が異なり、基本的にはメーカー推奨の粘度に従って選定する必要がある。

マルチグレード

  • 一般車(自動車・オートバイ)に使用されているエンジンオイルの多くで、○○W-●●(例 : 10W-30)のような表記がある。
  • ○○Wは低い数字になるほど低温時の始動性が向上する。下記はあくまでも一般的な目安である。
    • 5W : -35℃程度まで
    • 10W : -25℃程度まで
    • 20W : -10℃程度まで
  • 粘度表示は●●の部分で、数字が大きいほど動粘度が高い。
  • エンジンの常用温度で適切な粘度となるシングルグレードオイル(たとえばSAW20やSAW30)は零度以下になると粘度が上昇し始動しにくくなる。これに対しマルチグレードオイルはベースオイルの粘度が低く低温でも始動しやすい。しかし粘度の低いベースオイルはエンジン常用温度では粘度が低下し潤滑性能が低下する。このため、高温で分子構造が変化して粘度を上昇させる高分子ポリマー等を配合して粘度を保つものがマルチグレード油である。しかし高分子ポリマー等はせん断などの物理的損傷により効果が低下し、また酸化してスラッジの原因となる。
  • 粘度が高いことだけがエンジンの保護性能を高めている訳ではなく、ベースオイルの基本性能は大きな要素である。ベースオイルの化学構造によって、温度上昇に対する粘度の低下の具合が異なる。摂氏40度と100度に対する粘度の変化指標として粘度指数があり、この数字が大きいほど粘度変化が小さくすぐれたベースオイルである。
  • 一般的に、マルチグレードの下限(○○Wの数値)と上限(●●の数値)との差が少ないほど、ベースオイルに対して高分子ポリマーなどの添加剤の割合が少なく、添加剤の消耗・剪断(せんだん)による粘度変化が少ないとされる。
  • エンジンが必要とする粘度は、クリアランスの大きさで決定する場合が多い。
  • 発熱量の多いエンジンや、フリクションロスを減らすためにクリアランスが大きく取ってあるレース用車両等は、気密性や潤滑性能を維持するため、高粘度(50番以上)ものを使用する場合が多い。また、総走行距離が多いなどエンジンが摩耗し、クリアランスが大きくなったエンジンには高粘度のエンジンオイルを使用することによって圧縮を維持することが出来る。逆に、現在の省燃費車はクリアランスが小さく、極低粘度の20番等を使用する。
  • 粘度が小さい方がオイルの粘性による抵抗が少なくなるので吹け上がりは良くなり、燃費の向上が見込まれる。しかし、タペット音等の雑音の増加、ブローバイの増加やインテークの汚染、指定以下の粘度のオイルではエンジンへ耐久性への悪影響もある。
  • 粘度が大きいものは、高温下でも気密性や潤滑性を維持でき、ブローバイも減少する。緩衝性が大きいのでエンジンの静粛性が向上する。しかしオイルの粘性による抵抗が大きくなるので、アクセルレスポンスが緩慢になったり、燃費がわずかに低下する。
  • 近年の低燃費車では、燃費向上を目的にオイル粘性による抵抗を下げるため、低粘度のオイルが使われる。2002年以降に発売された車種によっては、粘度の低い0W-20などが推奨されている。近年では0W-16といった低粘度のエンジンオイルも一部の車種に指定している。このようなオイルでは低粘度による潤滑性能の低下を補うために有機モリブデンなどの添加剤が使用されていることが多い。近年の低燃費エンジンは低粘度オイル(0W-20等)を使用することを前提にクリアランスやモリブデンコートなどが設定されており、それ以外のエンジンに低粘度オイルをいれると潤滑性能の低下によりエンジンに悪影響を与える可能性がある。
  • 基本的にメーカーが指定する粘度を大きく変えないことが必要である。特に、指定よりも低い粘度(特に高温側)の使用は避けるべきである。負荷の大きい条件や気温が高い条件では、取り扱い説明書に指定されているオイルの範囲で高温側の粘度を多少上げる(5W-30→5W-40にする等)ことが推奨されている。指定よりも低い粘度のオイルでは、潤滑性や気密性を維持することが出来ず、騒音やブローバイの増加などでエンジン性能を損なうだけでなく、ベアリング、ピストン、カムなどの摩耗を促進したり、高負荷時で焼き付きを起こすなど、故障につながる危険性がある。

シングルグレード

主にシングルグレードと呼ばれるが、モノグレードと呼ばれる場合もある。マルチグレードが普及する前は外気温(季節)に合わせシングルグレードを使い分けていた。

  • 単一の粘度(例:SAE30、10Wなど)を持つエンジンオイル。
  • 気温の変化が小さい地域やドラッグレース、工業用など、限られた条件下で使用されるエンジンに使われる。
  • 温度に対する粘度変化がマルチグレードより大きい。
  • 高温で粘度を増加させる高分子ポリマーが含まれないため、剪断や劣化によりポリマー分子が切断されて起こる粘度低下が少なく耐久性に有利である。
  • シングルグレード指定の車両(主に旧車)にマルチグレードのオイルを使用すると、オイル漏れを起こしたり、オイル上がりやオイル下がりなどの不具合が発生することがある。通常オイルシールやガスケットはオイルによって適度に膨化してオイル漏れを防ぐ設計になっているが、新しいマルチグレードオイルのベースオイル(特にPAO系)や添加剤は古い規格のオイルシールやガスケットに対応していないために、オイル漏れやシール類の劣化などのトラブルが発生することがある。

規格による分類

※APIに正式に申請、パスしたオイルにはドーナツマークが表示され、ILSAC規格をパスしたオイルにはスターバーストマークも表示される。これらはEolcs(Engine Oil Licensing and Certification System)により管理されている。

廉価価格帯であったり、処方等の関係で規格に近しい性質ながら認証取得に難がある、そもそも規格が廃番となってしまっている等の事情によりオイルの中には規格による認証を取得していないオイルもある(「SN相当」のような表記である場合)。

粘度による分類


注釈

  1. ^ 日本ではJASO規格の軽量車用としてDL-1、重量車用としてDH-2が、アメリカではAPI規格のCJ-4以降、欧州のACEA規格では、乗用車、軽負荷商用車用のCカテゴリ全般と、高負荷商用車用のEカテゴリのE6、E9などがそれにあたる。
  2. ^ 例えば、三菱自動車は、かつてGDIエンジン専用に清浄性を強化したオイルを用意していた。
  3. ^ オイルストレーナーと遠心分離式は定期的に分解して洗浄する。

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