MHC分子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/19 17:40 UTC 版)
「主要組織適合遺伝子複合体」の記事における「MHC分子」の解説
MHC分子は細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子であり、細胞内のさまざまなタンパク質の断片(ペプチド)を細胞表面に提示する働きをもつ。 ペプチドについて、(病原体などの)細胞に感染したウイルスや癌抗原、あるいは樹状細胞などの抗原提示細胞に貪食処理された結果に生成するペプチドのことを「抗原ペプチド」または「ペプチド抗原」と一般にいう。(なお、「抗菌ペプチド」とは異なる。抗菌ペプチドとはディフェンシンなどの事。) 抗原ペプチドがMHC分子に結合して細胞表面に提示されると、それがリンパ球のうちT細胞に抗原として認識され、引き続き免疫反応が惹起されてウイルスや癌などを攻撃排除する方向に働く。 いっぽう、抗原の無い状態でのMHC自身の生成時にもMHCに自己由来のペプチド(いわゆる「自己ペプチド」)が結合して安定化していると考えられており、抗原の侵入・発生時には抗原由来のペプチドに置き換わる仕組みであると、考えられている。 また、用語として、MHC分子に上述のペプチドがついた状態であることを明記したい場合、そのような(MHC分子に上述のペプチドがついた状態の)MHC分子のことを「MHC分子-ペプチド複合体」または「ペプチド-MHC複合体」などと呼ぶことがある。 生物個体それぞれは、似たような構造のMHC分子の遺伝子情報を何種類も持ち、こうして数種類のMHCを同時に発現させている。さらに数種類のMHC全てを、父親由来のMHC1組と母親由来MHC1組の計2組ずつもっている。またMHCは個体によって非常に多様性に富み(多型性 polymorphic )、このため2組のMHCはほとんどの場合異なった種類の組み合わせとなる(ヘテロ接合体)。このようにしてそれぞれの個体は、何種類ものMHC分子の遺伝子情報をもっており(多遺伝子性 polygenic )、このためMHCはさまざまな抗原に対応できる。また多型性のため、MHC分子はT細胞が自己と他者の区別をする目印にもなる。つまり、T細胞は自己のMHC分子を発現する細胞から抗原提示を受けるが、自己と異なるMHC分子を異物と見なし、攻撃排除しようとする。しかし、個体によって持つMHCが異なるということは、MHCによって結合できる抗原が異なるため、MHCの違いにより病気のなりやすさが異なることがある。例えばMHCの違いによってAIDSの進行が違ってくる。逆にいうとこの多様性によって、病原体に対して種の絶滅を防ぐことができるようになっている。 MHC分子には大きく分けてクラスIとクラスIIの2つの種類がある。MHCクラスI分子は細胞内の内因性抗原を結合し、MHCクラスII分子はエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれて処理された外来性抗原を結合して提示する。つまり、ウイルスのように感染した細胞内で増殖する病原体に対して、あるいはがん細胞内で産生されるがん抗原に対しては、MHCクラスIを介した抗原提示により免疫反応をおこし、いっぽう、細菌など細胞外で増殖する病原体や毒素に対して、あるいは結核菌のようにマクロファージ等の抗原提示細胞に感染する病原体に対しては、抗原提示細胞のMHCクラスIIを介した抗原提示により免疫反応をおこす。ただしこの2つ経路は絶対的なものではなく、外来抗原もMHCクラスIによる抗原提示経路にも入りうる(クロスプライミング cross-priming またはクロスプレゼンテーション cross-presentation )。 MHCクラスIに結合するペプチドの長さと、MHCクラスIIに結合するペプチドの長さは違っていることが分かっており、MHCクラスIIに結合するペプチドのほうが長い。MHCクラスIに結合するペプチドのアミノ酸の長さは、およそ8〜10塩基である。いっぽう、MHCクラスIIに結合するペプチドのアミノ酸の長さはおよそ10〜30塩基である。
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