言語的解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/16 05:11 UTC 版)
『ジャバウォックの詩』における「ジャバウォック」が何を象徴するかについては、様々な解釈が唱えられている。 名称については、言語学者エリック・パートリッジ(英語版)はテニエルの挿絵からの推測により「jab(一突き)」または「jatter(粉々に砕く)」と「wacker(巨大なもの)」を由来とする説を唱えており、ほかにも、「jabber(わけのわからないことをぺらぺら喋る)」が語源とする説、またはこれらと「jatter」「wock(子孫、果実)」などの合成語などの諸説があるが、結論には至っていない。 もっとも作者のルイス・キャロル自身は、読者からのジャバウォックに関する手紙の返信の中で、アングロサクソン語で「ジャバ」は「熱狂的な発言」または「侃侃諤諤の議論」、「ウォック」は「子孫」、そして「ジャバウォック」は「激論の賜物」または「議論の賜物」を意味すると講釈している。そのためにジャバウォックは、このように論議されることを前提に創作された怪物とする解釈もある。 英文学者の高橋康也は、ジャバウォックを「わけのわからない言葉を発する声」、転じて「言語の混沌」「言語の存立を脅かす騒音」の象徴と捉え、ジャバウォックの退治とはすなわち「言語の混沌を整え、新たな秩序を言語にもたらすこと」と述べている。また、原典においてはジャバウォックの首を撥ねた剣「vorpal sword」が小文字で「vorpal」と書かれていることから、この語源を名詞ではなく形容詞の「vorpal(鋭い)」、または言葉を示す「verbal」と(絶対の)真理を示す「gospel」の合成語として「真理の言葉」と解釈することで、「ジャバウォックの詩」は怪物退治の話などではなく、無意味なことを喋るばかりの論議の場を真理の言葉で一刀両断する比喩だとする解釈も存在する。その傍証を思わせるものとして、キャロルによる『スナーク狩り』の第5章「ビーバーの授業」では、ビーバーが大量の紙とペンで書き付けを始めたところ、正体不明の奇怪な怪物が現れるという場面があり、これは言語や文字を怪物として視覚化したものとも考えられている。ただしキャロル自身は、前述の剣については「剣が何かなんて説明できない」と述べている。 ほかにも、ジャバウォックはキャロルの創作したナンセンスな詩そのものとする解釈や、『ジャバウォックの詩』がもともとナンセンスな詩であるため、ジャバウォックがどんな怪物なのかを理解しようとする努力自体が無意味であり、「議論の賜物」であるジャバウォックの存在も、この詩自体も大した意味がないという意見もある。 また、詩の中でジャバウォックには「manxome」という形容詞が付いているが、これは「Manx(マン島の形容詞形)」などが由来と考えられ、イギリスとアイルランドの間にある実在のこの島・マン島は、12世紀のイングランドの『アイルランド地誌』には「有毒の爬虫類が存在する」とあることから、ジャバウォックの登場する物語の舞台はマン島がモデルと考えられている。後にキャロルが前述の『スナーク狩り』を著するに当たり、キャロルは同作について「ジャブジャブとバンダースナッチが出没する島が舞台です──まさにジャバーウォックが殺された島にちがいありません」と述べている。 『鏡の国のアリス』は言葉遊びやなぞなぞ、かばん語と呼ばれる独特の造語による遊びで彩られた物語であり、ジャバウォックをその象徴とする意見もある。 なお、前述のようにジャバウォックの名称を「jabber(わけのわからないことをぺらぺら喋る)」が語源とする説が転じ、後に『ジャバウォックの詩』の原典でのタイトル「jabberwocky」は「無意味な言葉」「わけのわからない言葉」を指す英単語としても用いられている。
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