漢字と呼称
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 02:04 UTC 版)
「狸(貍)」の漢字は中国ではヤマネコ等を中心とした中型の哺乳類を表した。中国で1596年に発刊された李時珍著『本草綱目』ではジャコウネコの仲間を「貍」と表していると考えられている。現代中国では「貛(Huan)」はアナグマ類、「貉(He)」がタヌキ、「狸(Li)」がジャコウネコ科一般を表している。 一方、日本では「狸(貍)」「狢(貉)」「猯(貒)」という漢字がみられた。このうち「狢(ムジナ)」はタヌキまたはアナグマのことを指し、タヌキとアナグマは外見が似通っていることや「同じ穴のムジナ」という言葉があるようにアナグマの掘った穴をタヌキが利用することもあり両者は混同されてきた。また「猯(マミ)」は常陸、伊豆、会津、長門などの資料にあり、タヌキの一種とされアナグマまたはテン(貂)のことを指すこともあった。 貝原益軒の『大和本草』に「貍」の記載があり、数種いるとして「猫貍」「虎貍」「九節貍(香貍)」「玉面貍」の記載があるが、これらは『本草綱目』の記述を踏襲しているとされる(「玉面貍」はハクビシンの記載、「虎貍」はアナグマの情報が混じっている可能性も指摘されている)。また『大和本草』には「貒(マミ/ミタヌキ)」に関する記載もあるが、その記載からアナグマとみられている。なお『大和本草』にも「貉(ムジナ)」はあるが詳細な記載はない。 寺島良安の『和漢三才図会』にも「貍」の記載があるが、斑がある、果実を食う、木に登るのが速いなどの特徴が記述されており、ここでも『本草綱目』のジャコウネコの記述を踏襲しているとみられている。一方『和漢三才図会』の「貉(ムジナ)」には寝たふり(狸寝入り)とみられる記述があり、これがタヌキを指すとみられている。『和漢三才図会』では「貒(ミ)」に関しては単に美味と記載されているが、その記述からアナグマとみられている。 その他の地方名として「アナッポ」「アナホリ」「カイネホリ」「ダンザ」「トンチボー」「ハチムジナ」「バンブク」「ボーズ」「マメダ」、「ヨモノ」などがあり、行動、外観、伝承などに基づいた呼び方であろうことが分かる。 19世紀に入ると本種が「タヌキ」として認識されることが多くなったが、地域的な方言なども影響してアナグマが未だに「マミ」「ミダヌキ」と呼ばれることもあった。このような呼称の混乱は江戸期本草学の分類学としての未成熟さも原因になっている。
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