政策面での課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 14:26 UTC 版)
「ティーパーティー運動」の記事における「政策面での課題」の解説
憲法遵守のような漠然としたアジェンダは選挙パフォーマンスとして優れた戦略であったが、ティーパーティーが政治に求めたものはもっと具体的な成果であった。経済はアメリカ国民にとっては常に最大の関心事で、「アメリカからの誓約」での公約には、肝心の経済政策でどうするのかという部分が曖昧で、最大の疑問は、向こう10年間で4兆ドルの資金を連邦政府から取り戻すという部分だった。財政赤字を減して、軍事費は減らさないということは可能なのだろうか。ロン・ポールのように最初から対外不干渉主義を明言するのでなければ、軍事費と債務の膨らむ戦時下で、しかも税収が伸びない低迷した景気動向の中にあって、債務を増やさず、減税も行い、財政規律を実現することはほとんど不可能と言っていいほど困難であり、(結果的に主張とは正反対になる)無責任なポピュリズムに陥る危険を孕んでいる。クルーグマンなどはフリーダムワークスの政策形成能力に疑問を呈し、妨害しようとするばかりで、信頼できる経済政策は持ち合わせていないのではないかと予てから批判していた。彼は2010年10月31日付けのニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、共和党やティーパーティー運動は、「借金は悪である」と単純に決めつける道徳主義者であると断じ、公的資金を使った景気刺激を「無駄遣い」と論じて、過剰債務者の救済は「罰を与えるべき連中」への免罪に等しいという彼らの考えを、批判した。「支援される資格のない連中に罰を与えなくてはという思いばかりが強く、そのせいで結果的に自分たちを痛めつけている。景気刺激と債務救済を拒絶するから、失業率は上がり続ける。結果的に、ご近所の人たちへのあてつけとして、自分たちの仕事を失っている。しかし彼らはそれを知らない。知らないから、不況は止まないのだ」と、ティーパーティーの要求が矛盾に満ちていると指摘し、改めて批判した。 運動でもっとも多い要求は「小さな政府の実現(45%)」で、「雇用創出(9%)」「減税(6%)」が続いた。ティーパーティーは雇用創出のための大規模な財政支出を”政府による過剰な介入”と批判しており、不況や雇用情勢の悪化の渦中でも過度の政府介入を避け、民間の自主性を尊重する小さな政府の実現を訴えている。大きな政府を運営する原資にもなっている過剰な税は、税の無駄遣い生み出し、大きな政府はさらなる債務を生み出す。この悪循環を減税によって歳入を減少させて強制的な歳出削減を行うことで断ち切る必要があるという考え、いわゆるリバタリアニズムの主張がそこにはあった。繰り返されるレトリックは「財政支出が雇用を破壊する」ということに集約され、財政支出や赤字が増えれば結局税金をより多く支払わねばならず、税金の支払いによって財政支出が創出する以上の雇用が破壊される、または増税という将来への不安が雇用増加を妨げる、という論法で、この論理に基づいてオバマ政権の景気刺激策や雇用対策に反対したわけである。しかし彼ら一部が言う単純すぎる解決策、「連邦政府が財政支出を大幅に削減すれば、雇用は急増するはずである」との飛躍は、ケインズ経済学に真っ向から逆らうもので、アラン・ブラインダーは非常に誤った思想であると厳しく批判し、「そのような考えに基づいて政策を行なえば、今でさえ不安定で雇用創出も決して十分ではない米国経済を危険にさらすことになる」と警告している。しかし共和党指導部も、オバマ政権の財政赤字と高失業率を攻撃する上で、しばしば「雇用を奪う財政支出」という同様のレトリックを使っていて、オバマ大統領が巨額の赤字をつくったものの実際には大恐慌になるのも防いだ事実を隠し、財政再建という不可避な課題との”意図的な”混同が行われたため、ポピュリストが混乱するのも無理はなかった。党派対立のなかで、泥仕合の様相を呈する部分である。債務上限問題では、ティーパーティーは共和党指導部に造反したが、結局成立した妥協案で債務削減は4兆ではなく約2.4兆ドルに過ぎなかったことで、満足できるものにはならなかった。 財政再建のための福祉の大幅なカット、つまりはオバマケアの廃止は、直接的に多くの国民、特に中低所得者層に打撃を与えるものであるため、共和党は及び腰であるが、ティーパーティーは強く求めている。減税(=歳入の減少)の要求も、負担減ではなく、歳出の減少が目的であり、規制撤廃、連邦政府の役割を小さくすることに彼らの主眼があるが、それがアメリカの経済を好転させるのに適切であるかは、議論が分かれ、共和党議員の中でも賛同者は多くなかった。よってティーパーティーの政策は、依然として財政再建を求める圧力の一つに留まっている。
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