放火
『鸚鵡七十話』第8話 某商人の妻は浮気性だったので、門番たちが彼女を外出させなかった。妻は「家が火事になれば、見張りの者たちは消火活動に夢中で、私が出かけたことにも帰ったことにも気づかないだろう」と考え、家に火をつけて、情夫に逢いに出かける。ところが情夫も火事の様子を見に行ってしまったので、妻は情夫に逢えず、家も火事で失った。
*恋しい男に逢いたさに、放火する→〔処刑〕3の『好色五人女』(井原西鶴)巻4「恋草からげし八百屋物語」。
『クオ・ワディス』(シェンキェーヴィチ) 皇帝ネロは、自分を天才詩人であると思っていた。彼には、「トロイア炎上を語るホメロスの『イリアス』にまさる傑作を創りたい」との野心があった。「実際に大火を見れば、詩想が湧くだろう。詩と芸術のためには、すべてを犠牲にしてよい」とネロは考え、ローマ市街に火を放った。ローマは7日間燃え続け、14地区のうち10地区が灰燼に帰した。
*地獄変の屏風絵を描くために、自分の娘が焼き殺されるありさまを見る→〔子殺し〕8の『地獄変』(芥川龍之介)。
『金閣寺』(三島由紀夫) 田舎の寺の子として生れた「私(溝口)」は、金閣寺の美しさを、父からよく聞かされた。太平洋戦争末期の昭和19年(1944)、「私」は金閣寺の徒弟となった。美しい金閣寺も、醜い「私」も、ともに空襲の火で焼け亡ぶのだ、と「私」は期待する。しかし戦争は終わり、金閣寺は焼けなかった。金閣寺と「私」の関係は絶たれた。「私」は、「金閣寺を焼かねばならぬ」と思う。昭和25年(1950)7月1日深夜、「私」は金閣寺に火を放った。
『何が彼女をそうさせたか』(鈴木重吉) 昭和初期。すみ子の父は、失業と病気のために自殺した。すみ子は曲馬団に売られ、女中奉公をし、恋人と心中をはかるなど、苦労を重ねた後に、更生施設である教会「天使園」に収容される。しかし教会の女園長は、愛を説きつつ、その言動は、愛とは程遠かった。すみ子は「『神は愛』なんて嘘だ」と叫び、夜、教会に放火して全焼させる〔*教会放火の場面はフィルムが残っていない。ラストシーンでは、火の粉が舞う夜空に「何が彼女をそうさせたか」の文字が現れたという〕。
『日本霊異記』上-33 河内国石川郡に住む貧しい女が、落穂拾いをして資金を作り、絵師を招いて阿弥陀仏の画像を描いてもらった。女は画像を八多寺の金堂に納め、常に拝んでいた。盗人が寺に放火し、金堂は全焼したが、阿弥陀仏の画像だけは焼けず、無事であった。
*火事によって家は焼けたが、聖母の絵姿は無事だった→〔火事〕4aの『キリシタン伝説百話』(谷真介)19「聖母の御絵のふしぎ」。
★6.狐の放火。
『宇治拾遺物語』巻3-20 夕暮れ時、家へ帰る途中の侍が狐を見かけ、矢で射る。狐は腰を射られて、草むらに姿を隠したが、まもなく火をくわえて現れ、侍の家に火をつけて走り去った。侍の家は焼けてしまった。こんな狐のようなものでも、たちまちに仇を返すのだから、うかつに手を出してはいけない。
放火と同じ種類の言葉
品詞の分類
名詞およびサ変動詞(燃焼) | 焙焼 着火 放火 延焼 類焼 |
名詞およびサ変動詞(火) | 火中 出火 放火 鎮火 スパーク |
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