夫殺し
『アガメムノン』(アイスキュロス) アガメムノン王は10年に及ぶトロイア遠征を終え、故郷アルゴスへ凱旋する。王の遠征中に妃クリュタイメストラ(=クリュタイムネストラ)は、王の従兄弟アイギストスと姦通していた。クリュタイメストラは、帰館したアガメムノン王を浴室へ導き、両刃の斧で3度打って殺す。彼女は斧を持ってアルゴスの長老たち(=コロス)の前に現れ、夫殺しの正当性を主張する〔*→〔暗殺〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第6章に、暗殺方法についての別説〕。
『水滸伝』百二十回本第24~26回 蒸し団子売り武大の妻・潘金蓮は、薬屋の西門慶と情を通じ、彼と共謀して、邪魔な夫を毒殺する。武大の弟武松がこのことを知り(*→〔骨〕6b)、潘金蓮と西門慶を斬り殺し、2人の首を兄の霊前に供えて、仇を討つ〔*『金瓶梅』第1~9回は、『水滸伝』のこの物語に肉付けしたもの。ただし『金瓶梅』では、武松は西門慶と間違えて別人を殴り殺し逮捕される。潘金蓮も西門慶も無事で、2人は夫婦になる〕。
『テレーズ・ラカン』(ゾラ) ラカン夫人の1人息子カミーユと姪テレーズは幼い頃から一緒に育ち、やがて結婚する。しかしテレーズは、病弱なカミーユに飽き足りず、カミーユの友人である逞しいローランを愛人とする。テレーズとローランは共謀してカミーユをボート遊びに誘い、川に突き落として溺死させる〔*テレーズとローランはその後カミーユの幻影に苦しめられ、最後には2人とも毒を飲んで死ぬ〕。
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(ヴィスコンティ) 中年男ブラガーナの経営する安食堂に、旅の男ジーノが立ち寄る。彼は何日か滞在するうちに、ブラガーナの若妻ジョヴァンナと愛人関係になる。ある夜、彼ら3人は車に乗り、泥酔状態のブラガーナを残して、ジーノとジョヴァンナは走る車から飛び降りる。車は斜面へ転落し、ブラガーナは死ぬ。しかし警察は、ブラガーナの自損事故ではなく殺人だ、と見破る〔*ジーノとジョヴァンナは車で逃げるが、前方を走るトラックと接触し、川へ転落する。ジョヴァンナは死に、ジーノは逮捕される〕。
*→〔泣き声〕2。
*→〔過去〕5bの『輟耕録』(陶宗儀)「女の知恵」・〔氷〕2の『坂道の家』(松本清張)・〔死因〕4の『鍵』(谷崎潤一郎)・〔霊〕6bの『英草紙』第8篇「白水翁が売卜直言奇を示す話」。
『地霊』(ヴェデキント) 初老のシェーン博士は、愛人ルルの魔性から逃れるために、彼女をゴル博士と結婚させる。ゴル博士は、ルルが画家シュヴァルツと一室にいるところへ乗りこみ、怒りの発作で倒れて死ぬ。ルルの新しい夫となった画家シュヴァルツは、シェーン博士からルルの過去を聞かされて衝撃を受け、剃刀で頸動脈を切って自殺する。ルルはシェーン博士と正式に結婚するが、シェーン博士の息子アルヴァもルルに求愛するのでシェーン博士は激昂し、ピストルをルルに渡して「自殺せよ」と言う。ルルはシェーン博士を撃ち殺す〔*『ルル』(ベルク)の原作〕。
『今昔物語集』巻29-13 民部大夫則助の妻が、密夫と共謀して則助を殺そうとする。天井に男をしのばせ、則助が寝入ったら鉾で突く手筈だった。しかしこの計画を、事前に則助に知らせた人がいたので、則助は男を捕らえて検非違使に引き渡した〔*不思議なことに則助は、その後も妻と暮らした〕。
『テレーズ・デスケイルゥ』(モーリヤック) 夫ベルナールは病気治療のため、砒素剤を常用する。ある日、火事の知らせに気を取られた夫は、砒素剤を倍量飲んでしまい、苦しむ。これに暗示を受けた妻テレーズは、以後、夫に飲ませる砒素剤の量を増やす〔*夫は死なず、2人は別れる〕。
『ナイアガラ』(ハサウェイ) ジョージとローズ夫妻が、ナイアガラ瀑布観光に訪れる。ローズには秘密の愛人テッドがおり、ローズはテッドに夫殺しを依頼する。テッドは観光トンネル内でジョージを襲うが、格闘の末、殺されたのはテッドの方だった。ジョージはローズを追い、彼女を絞殺した後、小型船に乗って逃走する。しかしエンジンのトラブルで、船は滝壺へ落ちて行く。
★4.女が、夫のみならず、夫との間に生まれた子供までも殺す。
『桜姫東文章』 吉田家の息女桜姫は、ある夜盗みに入った釣鐘権助に犯されて、身ごもる。後に桜姫は権助と再会して夫婦になり、市井の安女郎に身を落とす。しかし、吉田家の重宝「都鳥の一巻」を奪った犯人が権助で、桜姫にとっては父・弟の仇であることを知り、桜姫は夫権助を殺し、吉田家を再興する〔*桜姫は権助との間に生まれた赤子をも殺す〕。
『琵琶伝』(泉鏡花) お通は、親の決めた許嫁(いいなづけ)である陸軍尉官・近藤重隆と結婚した。お通と相愛の謙三郎は(*→〔動物音声〕2b)、日清戦争で戦地へ行く前に一目お通に逢おうと、脱営して捕らえられる。近藤は、お通の目の前で謙三郎を銃殺刑に処した。近藤は謙三郎の墓を蹴り、唾を吐きかけるので、お通はすさまじい形相(ぎょうそう)で近藤にとびかかり、銃弾を受けながらも、近藤の喉を喰い破った。
『哀しみのトリスターナ』(ブニュエル) 若いトリスターナは、年齢の離れた夫ドン・ロペとの暮らしに堪えられなくなっていた(*→〔父娘婚〕8)。雪の夜、寝室のドン・ロペが、「苦しいから医者を呼んでくれ」と、トリスターナに訴える。トリスターナは隣室へ行って、いったん受話器を取るが、相手が出ないうちに静かに受話器を下ろして電話を切ってしまい、医者に往診を依頼する声だけを、夫に聞かせる。トリスターナが寝室へ戻って来た時、すでにドン・ロペの意識はなかった。
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