全額払いの原則(ぜんがくばらいのげんそく)
全額払いの原則
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/18 09:17 UTC 版)
使用者は労働者に対して原則として全額賃金を支払わなければならない。 遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理として5分の遅刻を30分の遅刻として賃金をカットするというような処理は、労働の提供のなかった限度を越えるカット(25分についてのカット)について、賃金の全額払いの原則に反し、違法である。なお、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として、第91条の制限内で行う場合には、全額払いの原則には反しないものである(昭和63年3月14日基発第150号)。 割増賃金の計算における端数処理として、以下の方法は常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、第24条、第37条違反とはしない(昭和63年3月14日基発第150号)。 1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額の1円未満の端数を四捨五入すること。 1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額の1円未満の端数を四捨五入すること。 1か月の賃金支払額における端数処理として、以下の方法は賃金支払の便宜上の取り扱いと認められるから、第24条違反として取り扱わない。なおこれらの方法をとる場合には就業規則の定めに基づいて行う(昭和63年3月14日基発第150号)。 1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)の100円未満の端数を四捨五入すること。 1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)の1000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。 全額払いの原則には次のような例外があり、以下の場合には賃金の一部を控除して支払うことができる 法令に別段の定めがある場合(第24条1項但書前段)税の源泉徴収、社会保険料の源泉控除等がある。 労使協定がある場合(第24条1項但書後段)これは購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、労務用物資の代金、組合費(チェック・オフ)等、事理明白なものについてのみ、労使協定によって賃金から控除することを認める趣旨である。協定書の様式は任意であるが、少くとも、「控除の対象となる具体的な項目」「各項目別に定める、控除を行う賃金支払日」を記載すること(昭和27年9月20日基発675号)。実際に賃金から控除するには就業規則、労働協約等でその旨を定める必要がある。なお、当該協定を行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届出る必要はない。 「控除」には相殺を含み、労使間合意により使用者が労働者に対して有する債権と労働者の賃金債権とを相殺することは、それが労働者の完全な自由意思によるものである限り、全額払の原則に違反しない(日新製鋼事件、最判平2.11.26)。過払い賃金との相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、かつ、あらかじめ労働者に予告されるとかその額が多額にわたらない等労働者の生活の安定を脅かさない限り有効である(福島県教組事件、最判昭44.12.18)。 控除される額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はないが、民事上は一賃金支払期の賃金額の4分の3に相当する部分については、使用者側から相殺することはできない(民法第510条、民事執行法第152条、昭和29年12月23日基収6185号、昭和63年3月14日基発第150号)。 会社が振込先金融機関への振込手数料を一方的に差し引いて支払うことは、全額払いをしたことにならず、第24条違反になる。ただし、労働者側から現金払いでなく金融機関への振り込みを希望した場合に、労働者が振込手数料を引いても振込にしてほしいということであれば、振込手数料を引いて支払うことに問題はない。この場合は、賃金控除協定が必要とはなる(賃金控除協定がなく振込手数料を引いて支払った場合には、賃金控除協定がないという第24条違反になり、賃金未払いの24条違反とはならない)。 労働者が退職に際し、自らの自由な意思に基づいて賃金債権を放棄することは、全額払いの原則をもってしても否定できず、有効である(シンガー・ソーイング・メシーン事件、最判昭48.1.19)。
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