シミュレーション設計の制約
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/01 08:35 UTC 版)
「分子動力学法」の記事における「シミュレーション設計の制約」の解説
分子動力学シミュレーションの設計は利用可能な計算機能力を考慮しなければならない。計算が合理的な時間で終了できるように、シミュレーションサイズ(n = 粒子の数)、時間ステップ、総シミュレーション時間が選択されなければならない。しかしながら、シミュレーションは調べる自然の過程の時間スケールにとって適切なように十分長くなければならない。シミュレーションから統計的に妥当な結論を得るためには、シミュレーションされる時間は自然の過程の速度論と一致しなければならない。さもなければ、MD法は人間が一歩進むよりも短い時間を観察して人間がどうやって歩くのかについて結論付けるのと同じである。タンパク質およびDNAの動力学に関するほとんどの科学論文はナノ秒(10−9 s)からマイクロ秒(10−6 s)のシミュレーションからのデータを用いている。これらのシミュレーションを得るためには、複数CPU日からCPU年が必要である。並列アルゴリズムによって負荷をCPU間で分散することができる。この例としては空間的分解アルゴリズムや力分解アルゴリズムがある。 古典的MDシミュレーションの間、CPUを消費するほとんどのタスクは粒子の内部座標の関数としてのポテンシャルの評価である。このエネルギー評価内で最も計算コストが高いのが非結合(非共有結合)部分である。ランダウのO-記法では、全ての対静電相互作用およびファンデルワールス相互作用があらわに考慮されるとすると、一般的な分子動力学シミュレーションは O ( n 2 ) {\displaystyle O(n^{2})} でスケールする。この計算コストは粒子メッシュエバルト (PME) 法( O ( n log ( n ) ) {\displaystyle O(n\log(n))} )、P3M法あるいはより球面カットオフ手法( O ( n ) {\displaystyle O(n)} )といった静電的手法を利用することによって低減することができる。 シミュレーションに必要な総CPU時間に影響を与えるもう一つの要素は、積分時間ステップの大きさである。これはポテンシャルの評価の間の時間の長さである。時間ステップは離散化誤差を避けるのに十分小さいように(すなわち系の最も速い振動周波数よりも小さく)選ばれなければならない。古典的MDの典型的な時間ステップは1フェムト秒(10−15 s)のオーダーである。この値はSHAKE〔最も速い原子(例えば水素)の振動を空間に固定する〕といったアルゴリズムを用いることによって延ばすことができる。複数の時間ステップ法が開発されており、これらによってより遅い長距離力の更新の間隔を延ばすことができる。 溶媒中の分子のシミュレーションでは、露な溶媒(陽溶媒)と露でない溶媒(陰溶媒)のどちらかを選択しなければならない。陽溶媒粒子(TIP3P、SPC/E、SPC-f水モデルなど)は力場によって計算コストを掛けて計算しなければならないのに対して、陰溶媒は平均力手法を用いる。陽溶媒は計算コストが高く、シミュレーション中におよそ10倍を超える粒子を含む必要がある。しかし、陽溶媒の粒度と粘度は溶質分子の特定の性質を再現するために必須である。これは運動力学を再現するために特に重要である。 分子動力学シミュレーションの全ての種類において、シミュレーションの箱の大きさは境界条件アーティファクトを避けるのに十分な程大きくなければならない。境界条件は、端において固定された値を選択することによって、あるいは周期境界条件(シミュレーションの一方がその逆側につながることによてバルク相を模倣する)を採用することによってしばしば扱われる。
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