PROTECT IP Act
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問題点
2012年1月14日、ホワイトハウスは「オンライン海賊行為対策が合法的行為に対するネット検閲であってはならず、また大小さまざまなビジネスの活力を削ぐようなことはあってはならない」、また「サイバーセキュリティーを脅かしたり、インターネットの基盤を台無しにするような事態は避けねばならない」とする声明を発表した[44][45][46][47]。
DNSブロッキング・リダイレクトに対する批判
当初この法案には、不正サイトをインターネットの仮想”電話帳”(=DNS)から除去する手法が含まれていた。これはDNSリダイレクトと呼ばれ、ユーザーが不正サイトにアクセスしようとすると、DNSが同サイトの代りに政府の警告画面へとリダイレクトするという仕組みである。
NPO団体パブリック・ナレッジのシャーウィン・シー(Sherwin Siy)によると、かつてドメインをブロックすることでオンライン著作権侵害を防ごうとした際、DNSの破壊行為でありインターネットのグローバルな機能性を脅かすとして批判を招いた件があるが、この法案はそれと大差ないという。世界中のドメインネームサーバは同一リストをもつことになっているが、PIPA法案に従えば米国内のサーバだけが世界中のサーバとは異なるデータを持つことになり、URLの普遍性が損なわれることになる[48][49]。
スティーブ・クロッカー(Steve Crocker)、デイヴィッド・ダゴン(David Dagon)、ダン・カミンスキー(Dan Kaminsky)、ダニー・マクファーソン(Danny McPherson)、ポール・ヴィクシーの5人のインターネット・エンジニアによるホワイトペーパーでは[50]、この法案のDNSリダイレクト条項は「技術面およびセキュリティ面での重大な懸念を引き起こし」、「インターネットを破壊」しかねないと言及されたが、一方で他のエンジニアや法案支持者らはこうした懸念は根拠に欠け評価に値しないとしている[51][52][53][54][55][56]。
ある法学教授のグループは、クロッカーらのホワイトペーパーを引用し、知的財産保護法案(PIPA)とオンライン海賊行為防止法案(SOPA)は意図していたのと逆の効果をもたらすもので、法案が施行されればインターネット・ユーザーは規制されていない代理DNSを利用するようになり、結果として政府によるインターネット規制実施が困難になるとしている[43]。また両法案の合憲性にも疑問を投げかけ、法案によって技術面で破滅的な事態となる可能性があり、また米国のインターネット関連法体制がより抑圧的なものになることを懸念した[43]。さらに両法案によって引き起こされるのは「一方的な訴訟以外の何物でもない。つまり一方の側(検事、原告)は証拠を提出する必要がありながら、("被告"となるのはサイト運営者ではなくドメインネームそのものであるため)侵害行為をおこなっているとされたサイトの運営者側は裁判に出廷したり、もっと言えば、自分のサイトにおいてある行為が係争中であることを認識する必要すらない。これは、意見を聞く公正な機会を与えることなくその人(運営者)の所有物(サイト)を奪うことであり、単に法手続きの原則に違反するだけでなく、憲法修正第1条で保障された言論の自由の権利を剥奪する違憲な法律を制定することに他ならない。」としている[43]。
2011年3月に公開されたFirefoxのアドオン MAFIAAFire はドメインを差し押さえられたサイトにアクセスする際代理のドメインにリダイレクトする機能をもつ。Mozilla Foundationは米国土安全保障省(DHS)からこのアドオンを削除する様に要請をうけたが、Mozillaはこれに対応していない。逆にMozillaの法律顧問は同要請の正当性を示す法的根拠など、情報の開示を国土安全保障省側に求めている[57]。
情報技術・イノベーション財団(ITIF)は、この法案におけるドメインネーム救済措置は現状行われているスパムやマルウェア対策によって効果がないものになるとの懸念を示している[58]。ITIFのアナリストであるダニエル・カストロによると、DNSブロッキングは、オランダ、オーストリア、ベルギー、フィンランド、韓国などいくつかの民主主義国家で"インターネットを破壊"することなく行われている[29]。ITIFのCEOは、DNS条項を自動車のドアロックに例え、確かに完全に信頼をおけるというものではないが、それでもやはり便利ではあると述べている[56][59]。
2012年1月12日、上院司法委員会委員長のパトリック・リーヒ議員は、論争を呼んだDNSフィルタリング条項をPIPA法案から削除する意向であると発言した。リーヒ議員は「うちのスタッフには他の上院議員に『法案の最後の1ピースは取り止めた』と言っていいと伝えてある」、続けて「そうすることで今ある反対意見の多くがなくなるだろう」と述べた[60][61]。関連法案SOPAの起草者であるラマー・スミス下院議員もSOPAからDNS条項を削除する考えであることを明らかにした[62]。
市民的自由の問題
憲法修正第1条研究の専門家であるハーバード・ロー・スクール教授ローレンス・トライブと弁護士マーヴィン・アモーリは、法案がターゲットにしているのは海外の不正サイトだけではなく、「単に侵害を‘助長’したり‘可能に’したりした国内のサイト」にまで拡大して適用されうるとして、「したがって、法案の文言によると、YouTubeやTwitter、Facbookなど合法的なサイトにおける非常に多くの言論が法の対象ということになる」と、PIPA法案が言論の自由に与える影響についての懸念を提起した[63]。またアモーリはPIPA・SOPA両法案は「狙いを外し、著作権侵害していない言論を沈黙させてしまう結果になるだろう」と述べている[64]。
電子フロンティア財団のアビゲイル・フィリップス(Abigail Phillips)も、どういった要件で著作権侵害サイトと特定されるのかが不明確であるとして法案を批判している。例えば、もしウィキリークスが著作権で保護されたコンテンツを配布したとして訴えられ、米国の検索エンジンがウィキリークスを示す検索結果を裁判所命令によってブロックしたとした場合、検索エンジンにウィキリークスそのものへのリンクをまるごと除去するよう要請する ことは、サイトに掲載されている合法的コンテンツに関する言論の自由の問題(ウィキリークスに掲載された合法的な他のコンテンツを閲覧する権利侵害の問題)が浮上することになる[36]。
Google会長エリック・シュミットは、PIPA法案で求められている手法は複雑な問題をあまりにも簡単に解決しようとしていると指摘し、DNSエントリを削除するやり方は言論の自由の観点から問題があり、中国の様な、より寛容さに欠けるインターネット環境への一歩となりうると述べた。世界最大の検索エンジンを運営する企業の会長として、シュミットは「もしDNSにX(何か)をしろと要求する法案が上院・下院を通過し、大統領がそれに署名したとしても、私たちはその法案に同意せず闘い続ける」と述べている[65]。
憲法学専門の弁護士フロイド・エイブラムスは「知的財産保護法案は言論やコミュニケーションの自由を強要したり禁じたりするものではない。…そのウェブサイトまたはドメインが、司法長官が行動を起こすのに適当かを決めるハードルは高く設定されている」と述べている[27]。
ユーザー投稿型サイトに対する懸念
反対派は、PIPA法案はインターネットコミュニティに悪影響を及ぼしかねないと警告している。例えば、ジャーナリストのレベッカ・マッキノンはニューヨークタイムズの論説欄で、企業に利用者の行動の責任を取らせることはYouTubeのようなユーザー投稿型サイトを萎縮させる効果をもつと論じ、「中国のネット検閲システムであるグレート・ファイアウォールと、その目的は違っても、実際的な効果は同じようなものになる」と述べている[66]。
新米国研究機構の政策アナリストは、この法律は、たった一つのブログの投稿を理由としてドメインすべてを削除するような法の行使を可能にし得るもので、「全体としてほぼ問題のないインターネットコミュニティでも、極僅かな人々のとった行動によってコミュニティ全体が罰せられる可能性がある」と主張している[67]。
企業・経済面での問題
米国議会調査局(CRS)による法的分析では、アメリカン・エキスプレスやGoogleといった反対派の懸念、つまり法案で民事上の訴訟権が認められた場合、コンテンツ製作者からの無数の訴訟が起こされ、時代遅れのビジネスモデルを保護し、その結果インターネットの革新を抑圧することになる、と言及している[68]。Google副社長・法務責任者のケント・ウォーカー(Kent Walker)は「法案で民事上の訴訟権を認めるべきではない。もし認めたら、”荒らし”が訴訟を起こして、法を遵守しようと誠実に努力している中間業者やサイトから金を巻き上げようとするような事態になるだろう」と議会公聴会で証言した[69]。
米映画協会(MPAA)は「不正サイトは映画・TV業界の雇用を危機にさらす」として、政府系および独立系調査機関(調査会社Envisional Ltd.を含む[70])の調査結果をまとめ、ネット上のコンテンツの4分の1は著作権を侵害していると結論づけた[71][72][73]。アメリカレコード協会(RIAA)は、オンライン海賊行為による損失額は125億ドルにおよび、70,000人以上の雇用が失われたとする2007年のInstitute for Policy Innovation(IPI)による調査結果をあげている[74][75][76]。
「もしデジタルミレニアム著作権法を修正する必要があるのなら、関連団体で話し合って決めればよい。コンテンツ産業のロビイストがつくった法案を拙速に議会を通過させるやり方ではなく。」ベンチャーキャピタリストでビジネス・インサイダー誌のコラムニストフレッド・ウィルソンは、同誌10月29日版で上院・下院のPIPA/SOPA法案がデジタルミレニアム著作権法のセーフハーバー条項に及ぼす変化についてこのように主張し、「今の時代、主要な輸出企業であり雇用創出の元となっているのは、Apple、Google、Facebookといった大企業、またDropbox、Kickstarter、Twilioなどの新興企業だ。こうした会社は金の卵を産む"金のガチョウ"であって、斜陽産業を保護するために金のガチョウを殺すことはできない。」と述べた[77]。法案を遵守するためには法律関係、技術面、管理面で高額なコストがかかるため、小規模ビジネスや新規企業には過度の負担となりえる[78]。
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