PFLP旅客機同時ハイジャック事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 06:54 UTC 版)
その後
安全対策
最大の被害国だったイギリスとスイス両政府は、旅客機をベイルートとカイロの両空港を避ける航路を定め、アメリカ政府も、9月12日から海外便に銃装備した2人1組の警備官を搭乗させる対策をとった。
直接の被害国ではないフランスやスペインでも、空港に金属探知機を備え付けて乗客の武器を搭乗前に摘発するようにした。
ヨルダン内戦勃発
同時ハイジャック事件は解決したが、フセイン1世国王の黙認のもとヨルダンに活動拠点を置いていたにもかかわらず、王制を否定するマルクス・レーニン主義を標榜し、「社会主義革命によるパレスチナ解放」を目標と称してヨルダン国内でも反王制的な態度を取り続けた挙句、この様な事件を自国内で起こしたPLO及びPFLPに対する怒りが収まらないフセイン1世国王は、PLO及びPFLPを自国内から排除することを画策し、9月14日にヨルダン全土に戒厳令を敷いた。
9月17日にはヨルダン陸軍とベドウィン部隊を中心とした国王守備隊が首都のアンマンに進出した。事件発生以前よりアンマン市内の一部を占拠していたPLO及びPFLPへの攻撃を開始しヨルダン内戦が勃発した。
その後両者の戦闘はヨルダン各地に波及し、圧倒的な軍事力と国民からの支持を持つヨルダン軍に対してPLOは敗走を重ねる。しかしこれに対して、かねてからヨルダンと対立していた上に、(ソビエト連邦からの後援を受け)PLO及びPFLPに対する支援に積極的な隣国のシリアのヌーレッディーン・アル=アターシー大統領が、陸軍部隊をヨルダン領内に侵入させたことなどを受けて、ヨルダン国内は混乱状態に陥った。
さらに、かねてからPLOの姿勢に懐疑的であったシリア空軍司令官のハーフィズ・アル=アサドは、アターシー大統領の出動命令を拒否した。
この様な状況に対応して、アメリカは再び空母を中心とする艦隊を地中海のイスラエル沖に派遣し、ヨルダンとフセイン1世国王を援護する姿勢を見せるとともに、シリア(とその後援者のソビエト連邦)を牽制した。同時にイスラエルは陸軍部隊をゴラン高原に展開しシリア軍に対しての警戒を強めるとともに、シリアに対しプレッシャーを与えたが、両軍ともに戦闘を行うことは無かった。
停戦とPLO追放
その後、「ヨルダンとシリアによる全面的戦争状態への突入」、「イスラエルとシリア間の開戦」というような事態への拡大を恐れたアメリカやソビエト連邦の意を汲んだエジプトのナセル大統領がヨルダンとシリア、PLOの仲介に入った。その結果、PLOの受け入れを表明したレバノンへPLOが本部を移転させることで合意し、9月27日に停戦となった。
しかしこの敗北とその後の本部移転の合意を受けて、長年本拠地を置いていたヨルダン国内から追放されたPLOおよびPFLPは、その後暫くの間活動の縮小を余儀なくされた。またヨルダンおよびフセイン1世国王は、アラブ連盟の総意で設立されたPLOを攻撃したことで、連盟各国から強い非難を浴びることとなる。
シリアのクーデター成功
さらに、シリア軍のヨルダン侵攻時に空軍機の出動命令を拒否したアサド空軍司令官が、休戦後の11月に軍事クーデター(矯正運動)を起こしてバアス党の指導者サラーフ・ジャディードとアターシー大統領を追放した。
その後アサド空軍司令官はシリア全権を握り大統領に就任し、その後もPLOと対決姿勢を取ったことで、PLOはレバノンへと追いやられることとなっただけでなく、シリアという大きな後ろ盾も失うこととなった。
「黒い九月」
その後、移転先のレバノンで活動を始めたPLOは、この一連の事件を「黒い九月」(ブラックセプテンバー)と呼び、その最大派閥ファタハが結成した秘密テロ組織のグループ名とした。
その後「黒い九月」はこの一連の事件に対する「報復」として、1972年ミュンヘンオリンピックにおいてイスラエル選手団を襲撃、選手団全員を殺害するいわゆる「ミュンヘンオリンピック事件」を起こした。
またその後活動を復活させたPFLPも、友好関係にあった日本赤軍の丸岡修を含む混成メンバーが、1973年7月20日に日本航空機をハイジャックした「ドバイ日航機ハイジャック事件」を起こしたほか、1974年にも同じく日本赤軍とともに「シンガポール事件」や「在クウェート日本大使館占拠事件」を起こし、1977年10月13日にはドイツ赤軍(バーダー・マインホフ・グループ)と共謀してルフトハンザ航空機ハイジャック事件を起こすなど、日本赤軍やドイツ赤軍(とそれらを支援した東側諸国)などとともに、西側諸国の航空機や施設に対する数件のテロ事件を行っている。
- ^ 乗っ取り機爆破期限延ばす PFLP、72時間を通告『朝日新聞』1970年(昭和45年)9月11日朝刊 12版 1面
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