靖国神社問題 国外の公的機関による見解

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靖国神社問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/08 04:47 UTC 版)

国外の公的機関による見解

アメリカ政府

2013年12月26日の安倍晋三首相による靖国神社参拝について、駐日アメリカ合衆国大使館は「日本は大切な同盟国であり友人である」と前置きし、「米国は日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに失望している」、「日本と近隣諸国が地域の平和と安定の我々の共通の目標を推進する中での協力を促進するための建設的な方法を見つけることを期待している」、「首相が過去への反省を表明し、日本が平和に関与していくと再確認したことに注目する」とする声明を発表した[107][108][109][110]。これを受けて朝日新聞は、米政府が日本の首相の靖国参拝を批判したのは異例であると報じた[111]国務省の報道官も駐日大使館と同内容の談話を発表した[112]。その後、12月31日に国務省のハーフ副報道官は、会見で「失望」という言葉について質問され、「日本の指導者の行動で近隣諸国との関係が悪化しかねないことに対するもので、それ以上言うことはありません」と答え、これを受けてTBSニュースは、「失望した」という言葉は、靖国参拝そのものではなく、近隣諸国との関係悪化に懸念を表明したことを強調した、と報じた[113]。同会見では他に、「日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させるような行動を取ったことに失望している」、「日本は大切な同盟国で様々な課題を解決する緊密なパートナー。これは変わらず、今後も日米で意見が異なることは話し合い続ける」と述べた[114]

TBSニュース(12月31日)は、「失望」という表現については、アメリカの一部の有識者から「戦没者の追悼方法を他の国がとやかく言うべきではない」という指摘が上がっているとしている[113]カート・キャンベル前国務次官補は2014年1月15日、戦略国際問題研究所における会合で安倍首相の靖国神社参拝について「アメリカの外交政策の助けにはならない。米・日・中・韓の間で緊張が高まっており新たな懸念をもたらす」と批判し、マイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は同会合で、参拝に「失望している」とした国務省の対応を「正しい反応だった」と指摘しつつ、「日米防衛協力のための指針の再改定といった日米間の課題が変化することはない。それらの課題は米国の国益でもある」と、参拝が日米関係に与える影響は限定的との認識も述べた[115]

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は2014年1月23日、複数の米政府当局者の話として、安倍晋三首相が靖国神社参拝を繰り返さない保証を、米政府が日本政府に非公式に求めていると伝えた。日中、日韓関係がさらに悪化することを懸念しているとみられる。同紙によると、米政府は参拝後にワシントンと東京で開かれた日本側との「一連の会談」を通じ、近隣諸国をいら立たせるさらなる言動を首相は控えるよう要請。日米韓の連携を阻害している日韓関係の改善に向けて韓国に働きかけるよう促し、従軍慰安婦問題に対処することも求めた。さらに今後、過去の侵略と植民地支配に対する「おわび」を再確認することを検討するよう首相に求める考えだという。米国務省副報道官のハーフは23日の記者会見で、同紙の報道について問われ、「事実かどうか分からない」と述べた[116]

リチャード・アーミテージ元国務副長官は2014年2月27日首都ワシントンで開かれたシンポジウムで、安倍晋三首相の靖国神社参拝について「中国政府が喜んだはずだ」と述べ、中国の日本批判を結果的に後押しする形になったという意味で反対だと語った。日本政府首相による靖国神社参拝自体については「日本の指導者が国全体にとって何が最善かを考えて決めることだ」と話した。中国が「(第二次世界大戦後の国際秩序の基礎となった)カイロ宣言やポツダム宣言を受け入れていないのが日本だ」との批判を広めているとし、「中国政府は首相の靖国参拝を喜んだはずだ。なぜなら、彼らは参拝後、各国の外交担当者に電話をし『見た? 言った通りでしょ』と言うだけで良かったからだ。これが参拝への反対理由だ」と語った。またアミテージ元国務副長官は仮に(靖国神社から)A級戦犯が分祀されても中国は(靖国神社)参拝を問題視し続けるとの見方を示した[117][118]

国連

国際連合は、1946年の第1回から2012年の第67回までの国際連合総会において、日本に対して首相、国務大臣、衆議院や参議院の議長などの立法府や行政府の要人による、靖国神社参拝の禁止や自粛を決議として採択したことはなく、決議案が総会・安全保障理事会経済社会理事会人権理事会に提案されたことはない[119][120]

2013年12月26日の安倍晋三首相の靖国神社参拝を受けて、潘基文国連事務総長の報道官は27日安倍首相の靖国神社参拝について「過去に関する緊張が、今も(北東アジアの)地域を苦悩させていることは非常に遺憾だ」との声明を出した。声明は「事務総長は共有する歴史に関して、共通の認識と理解を持つよう一貫して促してきた」と指摘。事務総長が被害者の感情に敏感であることや、相互信頼を築くことの重要性を強調しているとして、指導者は「特別な責任」を負っていることを挙げた[121]

中華人民共和国政府

中華人民共和国政府は、1979年4月にA級戦犯合祀が公になった時から1985年7月までの6年4月間、3人の首相が計21回参拝したことに対しては何の反応も示さなかったが、1985年8月の中曽根首相の参拝以後は、「A級戦犯が合祀されている靖国神社に首相が参拝すること」は、中国に対する日本の侵略戦争を正当化することであり、絶対に容認しないという見解を表明し続けている。中国政府は国際的および国内的に「日本の侵略戦争の原因と責任は日本軍国主義にあり、日本国民には無い。しかし日本軍国主義は極東国際軍事裁判で除去された。」と説明している。また1972年の日中国交正常化の際の共同声明では「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。」とも記載されている[122]。このため中国から見て「日本軍国主義の責任者の象徴」であるA級戦犯を、現在の日本の行政の最高責任者である首相や行政府の幹部である閣僚が、「賞賛または称揚」することは「歴史問題」となるからである[123]

中華民国(台湾)政府

当時日本領であった台湾では、台湾人日本兵高砂義勇隊への徴兵による戦死者の靖国への合祀に対し、一部で批判がある。2005年の民主進歩党の陳水扁政権下に台湾独立派政党関係者らが靖国神社への参拝した際には国内が賛成・中立・反対と分かれている(台湾団結連盟靖国神社参拝事件)。事実上の「在日台湾大使館」にあたる台北駐日経済文化代表処は、靖国神社参拝を批判する中華人民共和国を牽制し、「小国はすべて中国の下にあると見なし、命令方式による外交を進めている。小泉首相に、靖国神社に参拝するなと言っているのもこのためである。」との見解を表明している[124]

本省人として初めて中国国民党主席と中華民国総統になった李登輝は退任後に靖国参拝している[125]

中国国民党の馬英九総統は、安倍晋三首相による2013年12月26日の靖国神社参拝が元慰安婦とされる女性たちの「傷口に塩をぬる」行為に当たるとして、「隣国の慰安婦が受けた迫害などの悲惨な歴史を少しも省みていない」、「日本政府の行為は大変遺憾だ」と非難した[126]。馬英九政権下の台湾外交部は尖閣や靖国神社参拝で日本側の動向が伝わるごとにしていた批判的な声明や報道文による抗議をしていた。

その後、2016年5月政権交代が起きて民主進歩党政権となった蔡英文総統時代には、上記のような抗議を台湾外交部がしなくなった[127]

韓国政府

韓国政府は「A級戦犯が合祀されている靖国神社に首相や閣僚が参拝すること」を問題視している[128]。ただし韓国の場合は、日韓併合から日本の降伏までの間は、日本に併合されていたため、日本の交戦相手国や戦勝国ではないと同時に、旧日本軍側としての募集や徴用の結果、靖国神社への合祀者が存在する。このため韓国および台湾では、「靖国神社合祀取り下げ訴訟」も発生している[129]。なお、韓国政府は2006年、A級戦犯の分祀だけでは靖国問題の解決にはならないとの認識を政府方針として決定している[要出典]

シンガポール政府

首相リー・シェンロンは 2005年5月に「同神社には(第2次大戦の)戦争犯罪人が祭られており、シンガポールを含む多くの国の人々に不幸な記憶を呼び起こす。戦犯をあがめる対象にすべきではない」[130]、「悪い記憶を思い起こさせる。シンガポール人を含む多くの人にとって、靖国参拝は日本が戦時中に悪い事をしたという責任を受け入れていないことの表明、と受け取れる」[131]と述べ、2001年8月には「日本が戦争責任の問題を片付けていない」[132]、「戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社の性格から、小泉首相が過去の侵略を反省した談話を十三日に発表したにもかかわらず近隣国の反発が起きた」[132]と批判している。上級相ゴー・チョクトンも2006年に「日本の指導者は靖国神社への参拝をやめ、戦没者を祭る別の方法を探るべきだ」と述べた[133]。シンガポール外務省は小泉首相の2006年度の参拝を受けて、「小泉首相の靖国神社参拝を遺憾に思う。シンガポール政府は靖国問題に関する立場を繰り返し表明してきたが、それに変化はない」「東アジア域内で緊密な連携関係を築くという大局的な共通利益に助けとはならない」と批判した[134]

他方、ロイター通信の報道によれば、小泉首相はリー・クァンユー元首相との会談後に記者団に対し、「リー元首相が、「靖国問題は中国が心理的なプレッシャーをかけているだけで、日中友好の底流は変わらない」と述べたのに対し、「私もその通りだと思う」と答えた。」と述べている[135]。共同通信によれば、リー元首相は、小泉首相の靖国神社参拝について「(日中、日韓関係の)基礎は強いが、靖国問題は不幸なことだ」と懸念を表明、その上で「アジアとの経済関係や人とのつながりを乱すものではない」とも指摘したとされる[136]

2013年12月に安倍首相が靖国参拝したことに対し、シンガポール外務省の報道官は、「シンガポールは、安倍晋三首相が靖国神社を参拝したことを遺憾に思っている。このような参拝は、不満を蒸し返し、地域の信頼と信用の構築に役立たないというのが、我々の一貫した立場だ。」と述べた[137]

パキスタン政府

パキスタンの外務省は、2013年12月27日、首相の靖国参拝に関する質問に対し、「地域の他国の感情を傷つけ、地域の調和を危うくするような反応を引き起こすような行動は慎むべきだ。緊張をもたらす過去の問題が再燃することなく、協力の精神が浸透することを願っている。」と表明した[138]

ロシア政府

ロシア外務省公式代表のルカシェビッチ情報局長は、2013年12月26日の安倍晋三首相による靖国神社参拝について、「遺憾の意を呼び起こさざるをえない」というコメントを発表した[139]

また2013年12月30日、中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相は電話会談し、安倍晋三首相による靖国神社参拝を共に批判した上で、歴史問題で共闘する方針を確認した。王は「安倍(首相)の行為は、世界の全ての平和を愛する国家と人民の警戒心を高めた」と述べ、参拝を批判。その上で「(中露両国は)反ファシスト戦争の勝利国として共に国際正義と戦後の国際秩序を守るべきだ」と述べ、歴史問題で共闘するよう呼び掛けた。それに対しラブロフは「靖国神社の問題ではロシアの立場は中国と完全に一致する」と応じ、日本に対し「誤った歴史観を正すよう促す」と主張した[140]

欧州連合(EU)

EU外務・安全保障政策上級代表(外相)・キャサリン・アシュトンの報道官は、2013年12月26日の安倍晋三首相による靖国神社参拝について「建設的ではない」と批判する声明を発表した[141][142]

フランス
  • フランスのシラク大統領(2002年当時):参拝前の小泉総理大臣に「参拝すれば日本のアジアとの関係は難しくなり、世界の中で日本は孤立する危険がある。注意してほしい」と忠告[143]

その他

国際危機グループは、2005年12月に報告書「北東アジアの紛争の底流」を提出し、「小泉首相の靖国神社参拝と右翼グループによる歴史解釈を修正する歴史教科書作成の試みは中韓両国の警戒心を刺激し、日本は第二次世界大戦での犯罪を反省していないとの感情を増幅させた」「ドイツと異なり、自国の歴史の継続的、批判的検証にほとんど関心を示していない」と批判している[144]

ホロコーストの記録保存や反ユダヤ主義の監視等を行っているユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部・米国ロサンゼルス)は、2013年12月の安倍首相の靖国神社参拝について同月26日、靖国神社参拝を「倫理に反している」と非難する声明をクーパー副所長が発表した。「戦没者を含め、亡くなった人を悼む権利は万人のものだが、戦争犯罪や人道に対する罪を実行するよう命じたり、行ったりした人々を一緒にしてはならない」と指摘した。北朝鮮情勢が緊迫しているなか安倍首相が参拝したことにも懸念を表明し、「安倍首相が目指してきた日米関係の強化や、アジア諸国と連携して地域を安定化させようという構想に打撃を与える」と批判した[145]


  1. ^ 続日本記(天平2年9月の条)には安芸長門の民が死者の霊を信奉しているが養老律令賊盗律の妖書妖言に当るので止めさせるよう詔勅が出された旨の記述がある。
  2. ^ 同事典の平成12年版では、「常に問題を先送りしてきたのは第1線の祀職に(責任が)ある」と結んでいる。
  3. ^ なお、靖国神社ではなく真言宗智山派の高尾山薬王院での政教分離訴訟であれば、護摩祈祷を宗教行為と認定した上で、公務員が公務として正式に参加することは政教分離に違反しないとする判例がある[26]
  4. ^ 国家及び地方公務員における同様の訴訟として、公務として高尾山薬王院で正式に礼拝・護摩祈祷に参加したことが問題となった事件がある[31]
  5. ^ 日本労働年鑑によれば、これをきっかけに、信仰上の相違と靖国神社法案に反対する立場から「日本遺族会」に属していない、あるいは脱会していた遺族が「平和遺族会全国連絡会」を結成するに至ったという[32]





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