輸血 輸血の供給源

輸血

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 02:59 UTC 版)

輸血の供給源

枕元輸血

昭和20年代まで頻繁に行われていた方法で、輸血の必要な患者のあったとき近親者や知人、もしくは供血斡旋業者が派遣した供血者がその場で血液を提供するもの。血液型の合う人がいない場合があることや、感染症をチェックできないこと、GVHDの危険性が高いことから現在はほぼ絶無である。1948年には輸血を受けた女性が梅毒に感染した東大病院輸血梅毒事件が発生、枕元輸血に代わり保存血輸血に移行するきっかけとなった[5][6]

血液銀行

いわゆる売血で、血液を提供する代わりに謝礼が受け取れるもの。しかし、麻薬常習者など感染症のリスクの明らかに高い提供者も金目当てに参加するため、当時はまだ知られていなかったC型肝炎の汚染が蔓延した。1964年のライシャワー事件により危険性が大きくクローズアップされ、善意の提供者による献血制度へ移行することとなった。

献血

健康人が無償で血液を提供する寄付行為。報酬としては簡単な血液検査、通算回数の多い献血者に対して記念品を贈る表彰、他に献血による貧血解消のためのドリンクやお菓子など。あくまでも人の善意に頼る面が強いことから、血液の安定供給という点で課題が残っているが、現時点では最も安全で、金銭のやりとりがないため、倫理的な問題もクリアしているといえる。ただし献血血液が売血より安全だという古くからの定説は今日の問診検査の水準を考慮すると疑問が残る。

輸血(輸血製剤)の種類

全成分をそのまま輸血する「全血輸血」、赤血球、血小板、血漿成分および凝固因子などの成分毎に分けた「成分輸血」がある[7]。血液由来感染症の防止及び献血された血液の有効の観点から「全血輸血」は行われない[8]

輸血製剤の量は「単位」で表記する。日本では200 mlの献血から作られる量が1単位で、国により量が異なる。かつては顆粒球輸血も行われていたが、副作用が多いこと、G-CSFが発見され投与されるようになったことなどから現在では少数派となりつつある。しかし小児や、なかなかG-CSFの効果が現れないような症例の場合には非常に有効となるので、現在でも京大などの一部の医療機関では行われている。

濃厚赤血球

略称はRBC、RBC-LR、RCC、RCC-LR、RC-M.A.P.(RBC:Red Blood Cells, 旧略称RCC:Red Cells Concentrates, MAP:Mannitol Adenine Phosphate)[9][10]等。全血から、赤血球のみを取り出し、MAPなどの保存液を添加したもの。極度の貧血(鉄欠乏やビタミンB12欠乏など薬物治療が有効でないものに限る)や外傷・手術による出血に対して用いる。2007年2月より全白血球除去となり、薬価も4000円ほど (400 ml) 高くなった。しかし、全く白血球が残存していないことが保証されているわけではない。保存期間は2 - 6℃で28日間 (2023年3月13日以降の製剤より、採血後21日間から採血後28日間へと変更された)。通常は2単位を1時間で点滴する[要出典]。他の低張な輸液製剤と混ぜると溶血することがあるので注意が必要である。1単位は血液200 mlを遠心分離によって区分けし、保存液などを合わせて140 mLとしている。マップ (MAP) と略称されることがあるが、その言葉は、全く濃厚赤血球を意味しない。また、日本国内で製造、販売されている濃厚赤血球は、ほとんどすべてが、「照射赤血球液-LR」という製品であり、製造元で使用されている略称は、「Ir-RBC-LR」である。「Ir」とは、放射線を照射(Irradiation)することにより、僅かに含まれている白血球を不活化し、GVHDの発症を予防している事を示す。「LR」は、白血球除去処理済み (Leukocytes Reduced) の略語である。

濃厚赤血球の適正使用

循環血液量の15 - 20%の出血なら細胞外補充液、20 - 50%なら人工膠質液を投与し、赤血球不足による酸素供給不足が疑われればRBCを投与する。通常、慢性貧血でも日常生活(QOL)などに支障が無ければ輸血は行われない。また、AIHA(自己免疫性溶血性貧血)でも最初は副腎皮質ステロイド薬が第一選択となる。輸血開始から長くても約6時間以内に輸血を完了させるのが望ましい。

濃厚赤血球の投与量計算

RBC-LRの1単位のHb値は19g/dl、容量は140ml(2単位なら280ml)なので1単位あたり19g/dl×140ml/100=約26gのHbが含まれている。また循環血液量は70mL/kgなので

予測上昇Hb値(g/dl)=投与Hb量(g)/体重(kg)×(70ml/kg) /100

例えば体重70kgの患者に2単位のRBCを投与した場合、上記の式より

予測上昇Hb値(g/dL)= 19g/dl×280ml/100/70kg×(70ml/kg) /100

=約1.08g/dlとなる

濃厚血小板

略称はPC(英語名のPlatelet Concentratesから)。 20 - 24℃で振盪して保存する。2004年10月より全製剤白血球除去(1バッグあたり10の6乗以下)となっている。さらに有効期間は2007年11月に「採血後72時間以内」から「採血後4日間」と延長された。使用対象の疾患が複雑で、普通は血小板不足による出血に対して用いるが、中には禁忌の疾患もある。輸血による副作用を防ぐ目的で洗浄血小板が使用される[11]

濃厚血小板の適正使用

血小板が5万/uL以上あれば重篤な出血は無い[要出典]

大量出血、再生不良性貧血、白血病、その他放射線や化学治療により骨髄がダメージを受けた場合(急性白血病の寛解導入療法では血小板数が急激に低下するため、1 - 2万/ul以上は維持する)。
場合により使用を検討する疾患
DIC、先天性血小板機能異常症、その他手術での希釈性凝固障害など。
禁忌、もしくは効果がない疾患
TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)、輸血後紫斑病、脾臓機能亢進症、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、溶血性尿毒症症候群
濃厚血小板の投与量計算
予測血小板増加数(/ul)=輸血血小板総数/{循環血液量(ml)×(10の3乗)}×(2/3)
またPC10単位あたりの血小板数は2×(10の11乗)

例えば体重70kgの患者に10単位のPCを投与した場合、上記の式より

予測血小板増加数(/ul)= 2×(10の11乗)/{70kg×(70ml/kg)×(10の3乗)}×(2/3)
=約27000/ulとなる
CCI(補正血小板増加数)の計算

輸血効果はCCI(補正血小板増加数)で判定される。

1時間後に7500(/ul)、24時間後でも4500(/ul)を下回れば無効。その場合はHLA抗体の存在が疑われ、HLA適合血小板の輸血が必要となる。

CCI=増加血小板数(/ul) ×体表面積(m2)/輸血血小板総数 (×10の11乗)

例えば体表面積14m2の患者のPC10単位投与1時間後に10000(/ul)上昇していた場合、上記の式より

CCI=10000(/ul) ×1.4(m2)/2.0(×10の11乗)
=7000(/ul)となり、7500以下なので無効となる。

新鮮凍結血漿

略称はFFP(英語名のFresh-frozen Plasmaから)。採血後分離した血漿成分を6時間以内に-20℃で凍結したもの。使用直前に30 - 37℃で融解し、融解後は直ちに使用する。直ちに使用できない場合は、2~6℃で保存し、融解後24時間以内に使用する。血漿中にはアルブミンなどの血漿蛋白や種々の凝固因子が含まれる。血中蛋白の不足だけならばアルブミン製剤で補えるので、新鮮凍結血漿が必要になるのはDICなど凝固因子が枯渇している場合である。

2005年から、採血後6か月間の貯留保管が実施されており、現在、医療現場で使用されているFFPは全て採血後6か月間の貯留保管期間を経過した製剤である。保存期間は-20℃以下で1年間。

新鮮凍結血漿の適正使用

一般的に出血量100%以上で希釈性凝固障害が起きた際に使用される。また、凝固因子「第V因子」「第XI因子」欠乏症に対する濃縮製剤は無いため、これを補充するにはFFPを使うしかない。血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP) の場合、TTPは血清中にADAMTS13に対する自己抗体ができ、そのためフォン・ウィルブランド因子マルチマーを切断できず血小板血栓が生じる疾患なのでFFPで血漿交換療法を行う。L―アスパラギナーゼ投与に伴う出血には適応となるが、逆にクマリン系薬剤に伴う出血の場合、これは肝臓で第、II、VII、IX、X因子を合成する際に必要なビタミンK依存性酸素反応の阻害剤なので、これらの欠乏にはFFPではなくビタミンKの補充を行う。融解後直ちに輸血を開始するのが望ましい。これは融解してから凝固因子の活性低下が始まることに起因している。

新鮮凍結血漿の投与量計算

予測上昇凝固因子活性値(%)=FFP投与量(ml)×血管回収率(%)/循環血漿量(ml)

例えば体重70kgでヘマトクリット60%の患者にFFP4単位(480ml)投与すると、血管回収率を80%とすると、循環血漿量は70mL/kg×(1-Ht)なので、

予測上昇凝固因子活性値(%)=480(ml)×0.8/70kg×70mL/kg×(1-0.6)
=約19.6%上昇する。

アルブミン製剤

急性の低蛋白血症に基づく病態や他の治療では、管理が困難な慢性低蛋白血症による病態に対して、一時的な病態改善を図るために使用する。25%製剤として献血アルブミン「ベネシス」、赤十字アルブミン、アルブミナー、5%製剤として献血アルブミン「ニチヤク」、献血アルブミン「ベネシス(JB)」などが有名である。かつては術後2日間は細胞外液と血清アルブミン濃度の減少がみられるため、様々な輸血製剤が用いられてきたが現在は細胞外液以外の補充は必要ないとされている。乏尿が出現し、細胞外液を負荷するのを躊躇する呼吸障害や低アルブミン血症が見られる場合は、細胞外液とアルブミン製剤を併用する場合はある。

アルブミン製剤の適正使用

50 - 100%の出血では、濃度低下による肺水腫や乏尿を防ぐため使用する。またギランバレー症候群に対する血漿交換の置換液としても使用される。投与後の目標血清アルブミン濃度としては、急性の場合は3.0g/dL以上、慢性の場合は 2.5g/dl以上とする。

人工心肺使用後の低アルブミン血症は一時的なので、また肝硬変による慢性的な低アルブミン血症の場合にも使用されない。

アルブミン製剤の投与量計算

アルブミンの血管回収率は40%、また循環血漿量は70ml/kg×(1-Ht)なので

必要投与量(g)=期待上昇量(g/dL)×体重(kg)×70ml/kg×(1-Ht) /100×2.5

例えば体重70kg、ヘマトクリット60%の患者のアルブミンを1g/dL上げたい場合、上記の式より

必要投与量(g)=1g/dl×70kg×70ml/kg×(1-0.6) /100×2.5
=40gとなる

これは5%250ml製剤では、49/(0.05×250ml)=3.92 切り上げで4本必要となる

自己血輸血

近年注目されている技術に、自己血輸血がある。これはあらかじめ自身の血液を摂取保存しておき、出血が見込まれる手術などに遭遇した場合、その血液を用いて副作用のリスクを軽減させるという目的がある。しかし、近年、多くの外科的手術では、技術の発達によって必要な輸血量が減少しつつあり、大量出血が見込まれる整形外科的分野(主に骨の手術)や分娩を扱う産科分野と、適応は限定されている。

貯血式自己輸血
手術前に自身の血液をあらかじめ保存しておく方式。簡便で大量に対応できる。エリスロポエチンを利用すると貧血患者にも対応可能[12]
希釈式自己輸血
希釈効果で出血時の赤血球などの血液成分の損失を低減させる方式。貯血式に比べると手術前に自己血採血を行う必要が無く、患者の負担が少ない。しかし採血量には限度があるため大量出血にはこれ単独では対応できない[12]
回収式自己輸血
出血した血液を回収して患者に戻す方式。手術中の大量出血に対応できるが、機器、要員など負担が重い。回収した血液に細菌などが混入する可能性もある[12]

全血輸血

略称はWB(英語名のWhole Bloodから)。

採集された血液をそのまま輸血する方法。現在はあまり一般的ではない。なぜなら、血液成分は赤血球血小板血漿それぞれが保存条件が異なるため、分離しないままでは極端に保存期間が短くなるからである。ただし、一度に複数の系統の血液成分を補う必要がある場合には全血輸血の理論的適応がある。複数の血液製剤を使うよりも感染を受ける機会を減らすことができるからである。しかしながら、現在では血液センターからの全血供給は注文制であり、限られている。

血液準備量の計算

T&S

術中の予想出血量が500 - 600で輸血の可能性が30%以下の待機的手術で、ABO型が判明しており、かつRh(D)陽性で不規則抗体陰性の場合は交差適合試験をしない方式。もし必要になれば生食法、もしくは製剤のABO型確認だけで出庫する。

MSBOS

過去データから術式別の輸血量(T)と準備量(C)を調べ、C/T比が1.5以下になるように製剤を準備する。

SBOE

患者の術前Hb値、輸血開始Hb値、術式別平均出血量から準備量を計算する。

血液準備量(単位)=術式別平均出血量/200-(術前Hb値-輸血開始HB値)/(40/体重)

この結果が0.5以下ならT&S、それより大きければ四捨五入で単位数を算出。

コンピュータクロスマッチ

コンピュータ支援により、一切の交差適合試験をしない方式。ただし下記の3つの条件がある。

  • 輸血業務がコンピュータ化されていること
  • 患者のID番号と血液型(2回以上異なる検体で検査)が登録されており、不規則抗体は陰性であること
  • 製剤のABO血液型が自施設で再確認されていること

利点はABO不適合防止、迅速な出庫、省力化、製剤の有効利用など。

欠点は不規則抗体の繰り返しの測定が必要なことと、保険請求不可。


  1. ^ http://voxsangman.seesaa.net/article/275860943.html
  2. ^ 『医学の歴史』ルチャーノ・ステルペローネ(著)小川煕(訳)原書房、(2009年)
  3. ^ Blood transfusion (Inventions)
  4. ^ 医学探偵の歴史事件簿 小長谷正明(著) 岩波新書 (2014年)ISBN 978-4004314745
  5. ^ 日本輸血学会25周年記念講演 『日本輸血学会雑誌』 1980年 26巻 1-3号 p.1-15, doi:10.3925/jjtc1958.26.1
  6. ^ 根本晋一「高度歯科医療に関する医療過誤訴訟の研究- -インプラント植立手術を素材として」(PDF)『日本大学歯学部紀要』第35号、日本大学歯学部、2007年、101-112頁、CRID 1520290882410127232ISSN 1348818X 
  7. ^ 輸血について 日本輸血・細胞治療学会
  8. ^ 血液製剤 MSDマニュアル プロフェッショナル版
  9. ^ 2014年8月1日より「赤血球液-LR(RBC-LR)[日赤]」に商品名変更(旧称「赤血球濃厚液-LR(RCC-LR)[日赤]」)” (PDF). 日本赤十字社 (2014年7月). 2018年6月15日閲覧。
  10. ^ 生物学的製剤基準の改正に基づく添付文書等の改訂及び赤血球製剤の販売名変更について” (PDF). 日本赤十字社 (2013年12月). 2018年6月15日閲覧。
  11. ^ 麻田真由美, 菅野知恵美, 川本佳代 ほか、「洗浄血小板による輸血副作用の防止」 『日本輸血学会雑誌』 2002年 48巻 1号 p.32-36, doi:10.3925/jjtc1958.48.32
  12. ^ a b c 回収式自己血輸血の概要と実際”. 日本自己血輸血学会. 2017年12月29日閲覧。「I インフォームド・コンセント」(PDF)P.3
  13. ^ 水野樹、「術中回収式自己血輸血:産科手術」 『日本臨床麻酔学会誌』 2010年 30巻 7号 p.925-930, doi:10.2199/jjsca.30.925, P.925
  14. ^ a b c 国立国会図書館. “犬に血液型はあるか。”. レファレンス協同データベース. 2023年5月24日閲覧。
  15. ^ Hohenhaus, A. E. (1992年12月). “Canine blood transfusions”. Problems in Veterinary Medicine. pp. 612–624. 2023年5月24日閲覧。
  16. ^ Company, The Asahi Shimbun (2021年4月28日). “健康な猫から、病気の仲間への贈り物 「供血猫」登録は助け合いの輪を広げること”. sippo. 2023年5月24日閲覧。
  17. ^ ペットを救うために働く「供血犬」に穏やかな暮らしを 八王子の英会話講師が引退後の飼い主を探す活動:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2023年5月24日閲覧。
  18. ^ a b 馬の輸血とユニバーサルドナー”. 馬の資料室(日高育成牧場). 2023年5月24日閲覧。
  19. ^ 重種馬の新たな価値~ユニバーサルドナー~ NLBC 家畜衛生通信 第23号 令和4年11月 著:十勝牧場 衛生課
  20. ^ 愛猫の血液型知っていますか? - 日本動物医療センター”. 日本動物医療センター - 24時間夜間救急も可 (2017年2月9日). 2023年5月24日閲覧。
  21. ^ Wagging tails for Taiwan's first veterinary blood bank” (英語). Reuters (2016年7月8日). 2023年5月24日閲覧。






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