議院内閣制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/28 23:50 UTC 版)
英国の議院内閣制
イギリスでは二大政党制の下、庶民院(下院)の第一党の党首が首相に任命されるのが慣行となっている[37][32][3](例外もある[38])。日本やドイツのような、議会による首相指名の手続はない[37]。
閣僚の任免は首相の指名に基づいて国王が(形式的に)行うが、庶民院か貴族院(上院)のいずれかに議席がなければ閣僚となることはできない[37][39]。
閣僚には約20名の閣議のメンバーとなる閣内大臣、そしてそのほかに閣外大臣がおり、その下に政務次官が置かれている[40]。与党所属の庶民院議員のうち約100名が行政府に籍を置くことになるといわれ、与党と内閣は一体的で一元化されている[41][42]。
日本では内閣総理大臣その他の国務大臣は議席の有無に関係なく議院出席の権利義務が定められている(日本国憲法第63条)。しかし、イギリスでは庶民院所属の閣僚は貴族院での審議に参加できず、反対に貴族院所属の閣僚は庶民院での審議に参加できないとされ、他院ではその院に属する閣外大臣や政務次官が審議に応じる形をとる[41]。
官僚は政治的中立性の原則の下で、選挙によって成立した政権に忠誠を尽くすとともに、指揮関係を乱すことのないよう議員であっても大臣ではない者との接触は忌避されるという[43]。
国会は貴族院と庶民院からなる二院制をとっている。しかし、実際には「庶民院の優越」が確立しているため、国民の代表である庶民院がほぼすべてのことを決定できるようになっており、上院は形式的な存在に過ぎなくなっている。そのため、実質的には一院制に近い。
注釈
- ^ ドイツでは、アデナウアーやブラントの様に首相職を辞任した後も与党の党首の座には留まったという例が見られる。
- ^ ドイツの場合は、憲法に相当するドイツ連邦共和国基本法で、連邦議会が新首相候補を選出した後にしか内閣不信任案を提出できない「建設的不信任(Konstruktives Misstrauensvotum)」制度を採用しており、逆に首相の信任決議が否決された時以外、内閣は連邦議会を解散できない。これはヴァイマル共和政時代に倒閣だけを目的とした内閣不信任が何度も可決された結果政治が安定せず、その混乱を衝く形でナチスが台頭してしまったことへの反省によるものである。つまりドイツの内閣は、一見すると議会解散権を持たないように見えるが、実際には与党に信任決議案を出させわざとそれを否決させて解散を実現する手法がとられる。しかし、この手法を基本法違反と批判する法学者もいる。
- ^ 日本が立憲君主国であるか否かついては学説上の争いがある。本項では立憲君主制の国家に分類している。
出典
- ^ a b c d e 芦部信喜 & 高橋和之 2011, p. 321.
- ^ a b 小林直樹 1981, pp. 233–234.
- ^ a b c d 齋藤憲司「日本における「議院内閣制」のデザイン」『レファレンス』第718号、国立国会図書館、2010年11月、11-30頁、NAID 40017393125。
- ^ 衆議院. “議院内閣制”. 2016年8月22日閲覧。
- ^ “内閣制度と歴代内閣”. 日本国首相官邸HP. 2016年8月21日閲覧。
- ^ a b c d e 芦部信喜 & 高橋和之 2011, p. 320.
- ^ a b 小林直樹 1981, p. 235.
- ^ a b c 毛利透 et al. 2011, p. 232.
- ^ a b 辻清明 1976, p. 11.
- ^ a b c d 毛利透 et al. 2011, p. 231.
- ^ a b 小林直樹 1981, pp. 233–235.
- ^ 小林直樹 1981, p. 232.
- ^ a b 大石眞 2004, p. 85.
- ^ 小林直樹 1981, p. 233.
- ^ 飯尾潤 2007, pp. 143, 154.
- ^ a b c d e 佐々木毅 & 清水真人 2011, p. 376.
- ^ 政治・経済教育研究会編『政治・経済用語集』山川出版社、2014年10月。ISBN 978-4-634-05104-1。
- ^ 【書評】『首相の権力-日英比較からみる政権党とのダイナミズム-』高安健将著 | 研究活動 | 東京財団政策研究所
- ^ a b c 野中俊彦 et al. 2006, p. 164.
- ^ 小林直樹 1981, pp. 234–235.
- ^ a b 毛利透 et al. 2011, p. 233.
- ^ 飯尾潤 2007, p. 18.
- ^ 野中俊彦 et al. 2006, p. 162.
- ^ a b 西尾勝 2001, p. 103.
- ^ 小林直樹 1981, p. 240.
- ^ 毛利透 et al. 2011, pp. 235–236.
- ^ 毛利透 et al. 2011, pp. 233–234.
- ^ 毛利透 et al. 2011, p. 234.
- ^ 小松浩「イギリス連立政権と解散権制限立法の成立」『立命館法学』第341号、立命館大学法学会、2012年1月、NAID 110009523714、2016年6月28日閲覧。
- ^ 「英国民はEU離脱を選択」 - 吉田健一郎 みずほ総合研究所、2016年6月28日閲覧。
- ^ a b 橋本五郎, 飯田政之 & 加藤秀治郎 2006, p. 72.
- ^ a b c 橋本五郎, 飯田政之 & 加藤秀治郎 2006, p. 31,70.
- ^ a b c d 高橋和之 2005, p. 25.
- ^ 毛利透 et al. 2011, p. 2312.
- ^ a b c d 矢部明宏(PDF)『国会と内閣の関係』国立国会図書館調査及び立法考査局〈シリーズ憲法の論点 3 . 調査資料 ; 2004-1-c〉、2004年。ISBN 4875826079。 NCID BA70179954。国立国会図書館書誌ID:000007566945 。
- ^ 毛利透 et al. 2011, p. 235.
- ^ a b c 中村勝範 2005, p. 82.
- ^ 齋藤憲司「英国の2010年総選挙と連立新政権の政治改革」『レファレンス』第60巻第9号、国立国会図書館調査及び立法考査局、2010年9月、7-34頁、ISSN 00342912、NAID 40017320351、NDLJP:3050286。
- ^ 橋本五郎, 飯田政之 & 加藤秀治郎 2006, p. 70.
- ^ 中村勝範 2005, pp. 82–83.
- ^ a b 中村勝範 2005, p. 83.
- ^ a b c 橋本五郎, 飯田政之 & 加藤秀治郎 2006, p. 71.
- ^ 飯尾潤『日本の統治構造 : 官僚内閣制から議院内閣制へ』1905号、中央公論新社〈中公新書〉、2007年、156頁。ISBN 9784121019059。 NCID BA82570707 。
- ^ a b c d e 日本の議院内閣制と安倍内閣の行方:ウェストミンスター化を阻む「壁」| nippon.com
- ^ 大石眞 2004, p. 88.
- ^ 小嶋和司・大石眞著 『憲法概観(第7版)』 有斐閣、2011年、231頁
- ^ 佐々木毅 & 清水真人 2011, p. 377.
- ^ 佐々木毅 & 清水真人 2011, pp. 378–379.
- ^ a b 田上嘉一 (2017年8月3日). “安倍一強を支えるメカニズム ーなぜ強い内閣は生まれたのかー”. news.yahoo.co.jp. 2022年10月2日閲覧。
- ^ 政策決定における首相官邸の役割 | nippon.com
- ^ 【論考】権力の集中が「忖度」を呼ぶ~官邸主導時代の政治ガバナンスのあり方 | 加藤 創太 | 研究活動 | 東京財団政策研究所
- ^ 軽部 謙介 (2018年9月3日). “官僚人事、誰が決める:官邸主導で何が変わったか”. nippon.com. 2022年10月2日閲覧。
- ^ 笠「日本官僚制—日本型からウェストミンスター型へ」p. 223、p. 235、山口『内閣制度』p. 203
- ^ 待鳥聡史『首相政治の制度分析 : 現代日本政治の権力基盤形成』千倉書房〈叢書21世紀の国際環境と日本 003〉、2012年、139頁。ISBN 9784805109939。 NCID BB09326416 。
- ^ 大石眞 et al. 2002, p. 96.
- ^ 大石眞 et al. 2002, p. 95.
- ^ 大石眞 et al. 2002, p. 36.
- ^ 佐々木毅 & 清水真人 2011, pp. 381–382.
- ^ 竹中治堅 2006, p. 188.
- ^ a b 佐々木毅 & 清水真人 2011, p. 405.
- ^ 竹中治堅 2006, p. 189.
- ^ a b 大石眞 et al. 2002, p. 33.
- ^ 佐々木毅 & 清水真人 2011, p. 395.
- ^ 竹中治堅 2006, p. 191.
- ^ 橋本五郎, 飯田政之 & 加藤秀治郎 2006, p. 66.
- ^ 竹中治堅 2006, pp. 199–202.
- ^ 山口二郎 2007, p. 214.
- ^ 大石眞 et al. 2002, pp. 38–40.
- ^ 橋本五郎, 飯田政之 & 加藤秀治郎 2006, p. 30,67.
議院内閣制と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
- 議院内閣制のページへのリンク