自己免疫性溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血の概要

自己免疫性溶血性貧血

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/01 05:28 UTC 版)

自己免疫性溶血性貧血
概要
診療科 血液学
分類および外部参照情報
ICD-10 D59.0-D59.1
ICD-9-CM 283.0
MeSH D000744
免疫介在性溶血性貧血 > 自己免疫性溶血性貧血

本項では特にことわりのない限り、ヒトにおける狭義の自己免疫性溶血性貧血について解説する。

疫学

日本の統計では、溶血性貧血の約3分の1を自己免疫性溶血性貧血が占める[3]。好発年齢は二峰性に分布しており、10〜30歳の若年者層と60歳以降の高齢者層にピークがある[3]。若年者層の男女比は1対1.6とやや女性に多いとされる。高齢者層では男女差はみられない[3]

なお自己免疫性溶血性貧血は、2005年1月1日から医療費助成対象疾病(指定難病)となっている[3]

病態

この疾患は、何らかの原因で産生された自己抗体が関与する自己免疫疾患である[2]。この自己抗体は、多くの症例で免疫グロブリンG(IgG)型の不完全抗体を主体とし、摂氏37度付近を至適温度とすることから「温式抗体」と呼ばれる[4]。至適温度が体温に近いため、周囲環境が増悪因子とならず、この点で寒冷刺激で誘発される寒冷凝集素症や発作性寒冷ヘモグロビン尿症と対照的である[2]

自己の赤血球膜上の抗原に対する反応により、赤血球膜が変化を受け、細網内皮系補体貪食細胞等により赤血球融解を来すことから、一般的にII型アレルギーに分類される[2]。この疾患における自己抗体は赤血球膜上に存在する膜輸送蛋白であるバンド3や、Rh因子の実態であるRhポリペプチドなどを標的とする。他の多くの自己免疫疾患と同様、自己抗体が産生される機序は解明されていない[2]

自己抗体により感作された赤血球は、補体結合能が弱いため血管内では溶血せず、細網内皮系を通過する際に貪食細胞(特にマクロファージ)により捕捉される[2]。捕捉された赤血球はマクロファージのFc受容体に認知され貪食されるか、の一部が損傷し球状赤血球となる[5]。球状赤血球は脾臓の髄索を通過できないため、結局マクロファージに貪食され溶血に至る[5]。この細網内皮系での過程を血管外溶血と呼ぶ[5]

マクロファージのIgGのFc受容体は、とりわけIgG1とIgG3に特異性を有しており、これらは補体を活性化する[5]。補体のうち活性化されたC3bが赤血球膜に付着すると、マクロファージのC3b受容体を介して感作赤血球の貪食は増強される[5]

この疾患では原因のはっきりしない特発性のものが約半数を占めるが[3]全身性エリテマトーデス関節リウマチなどの膠原病慢性リンパ性白血病悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患、あるいはエイズウイルス感染症などの感染性疾患に続発することもある[2]。また特発性血小板減少性紫斑症を合併する場合は、エヴァンス症候群と呼び、特発性自己免疫性溶血性貧血の10〜20%を占める[3]

臨床像

共通する臨床像は、他の溶血性貧血と同様、貧血黄疸脾腫の3徴である[2]。ただし急激に貧血が進行し重篤な症状を呈する例から、数年にわたって症状が潜行する例まであり、臨床像は多様性に富む[3]。急性例は若年者に多い傾向があり、他の血液疾患と同様、しばしば発熱をはじめとした先行する感冒様症状を伴う[2]。特に消耗が著しい場合は、高拍出性心不全呼吸不全に至ることもある[3]

この疾患では肉眼的黄疸は目立たない一方[3]、慢性化した場合は胆石がみられる場合もある[2]

以上の臨床症状は、感染や妊娠、あるいは周術期などのストレスで増悪する[5]

なお特発性血小板減少性紫斑病を合併する場合は、むしろ紫斑や粘膜出血などの出血症状が目立つことが多い[2]。また膠原病などの全身性疾患に続発する場合は、これら疾患による種々の症状によって臨床像は修飾される[3]


  1. ^ 『やさしい臨床医学テキスト』薬事日報社、2008年。274-275頁。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『PDA版 STEP内科〈2〉感染症・血液』海馬書房、2011年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン400, 提供日2011年2月17日。「自己免疫性溶血性貧血」の項目。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 自己免疫性溶血性貧血 診断・治療指針(医療従事者向け)」難病情報センター。情報更新日2014年12月21日。2015年6月3日閲覧。
  4. ^ 『PDA版 イヤーノート2014』メディックメディア、2014年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン390, 提供日2014年3月10日。「自己免疫性溶血性貧血」の項目。
  5. ^ a b c d e f 『PDA版 内科学書改訂第7版』中山書店、2009年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン130, 提供日2009年11月10日。「後天性溶血性貧血」の項目。
  6. ^ a b c 『PDA版今日の臨床検査2011-2012』南江堂、2012年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン180, 提供日2012年01月18日。「Coombs, 抗グロブリン試験, 赤血球Coombs試験」の項目。
  7. ^ a b c d e f g h i j 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成22年度改訂版)」自治医科大学、2010年。2015年6月3日閲覧。
  8. ^ a b c d e 『改訂版ステロイドの選び方・使い方ハンドブック』羊土社、2011年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン100, 提供日2012年11月22日。100-102頁。
  9. ^ 要約 赤血球濃厚液の適正使用」厚生労働省、2005年。2015年6月3日閲覧。


「自己免疫性溶血性貧血」の続きの解説一覧




自己免疫性溶血性貧血と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「自己免疫性溶血性貧血」の関連用語

自己免疫性溶血性貧血のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



自己免疫性溶血性貧血のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの自己免疫性溶血性貧血 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS