自己免疫性溶血性貧血 診断

自己免疫性溶血性貧血

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/01 05:28 UTC 版)

診断

診断基準

日本の厚生労働省は、自己免疫性溶血性貧血の診断基準を設けている[3]。まず溶血性貧血と診断した後に、より特異度の高い検査を行うことによってその病型を確定する二段階の方式になっている[3]。なおこの診断基準には温式抗体に伴う狭義の自己免疫性溶血性貧血だけでなく、寒冷凝集素症や発作性寒冷ヘモグロビン尿症も含まれる。

溶血性貧血の診断基準
  1. 臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。
  2. 以下の検査所見がみられる。
    1. ヘモグロビン濃度低下
    2. 網赤血球増加
    3. 血清間接ビリルビン値上昇
    4. 尿中・便中ウロビリン体増加
    5. 血清ハプトグロビン値低下
    6. 骨髄赤芽球増加
  3. 貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。
  4. 1.、2.によって溶血性貧血を疑い、3.によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。
— 厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(2004年度改訂)、溶血性貧血の診断基準
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準
  1. 溶血性貧血の診断基準を満たす。
  2. 広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。
  3. 同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。
  4. 1.~3.によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の4-1.と、冷式(4℃)の4-2.および4-3.に区分する。
    1. 温式自己免疫性溶血性貧血
      臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は4-2.、4-3.の除外によってもよい。
    2. 寒冷凝集素症(CAD)
      血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。
    3. 発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)
      ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。
  5. 以下によって経過分類と病因分類を行う。
    • 急性 : 推定発病または診断から6か月までに治癒する。
    • 慢性 : 推定発病または診断から6か月以上遷延する。
    • 特発性 : 基礎疾患を認めない。
    • 続発性 : 先行または随伴する基礎疾患を認める。
  6. 参考
    1. 診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。
    2. 温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。
    3. 特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(Evans症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。
    4. 寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。
    5. 自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。
    6. 基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。
    7. 薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。
— 厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(2004年度改訂)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準

重症度分類

日本の厚生労働省により治療に対する反応性について重症度分類も設定されている[3]。予後評価の比較を今後検討するために、この分類はもっぱら温式抗体に伴う自己免疫性溶血性貧血を対象にしている[3]

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の重症度分類
stage 1 軽症 - 薬物療法を行わないでヘモグロビン濃度 10g/dl以上
stage 2 中等症 - 薬物療法を行わないでヘモグロビン濃度 7~10g/dl
stage 3 やや重症 - 薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度 7g/dl以上
stage 4 重症 - 薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度 7g/dl未満
stage 5 最重症 - 薬物療法および脾摘を行ってヘモグロビン濃度 7 g/dl未満
— 厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(2004年度改訂)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の重症度分類

  1. ^ 『やさしい臨床医学テキスト』薬事日報社、2008年。274-275頁。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『PDA版 STEP内科〈2〉感染症・血液』海馬書房、2011年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン400, 提供日2011年2月17日。「自己免疫性溶血性貧血」の項目。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 自己免疫性溶血性貧血 診断・治療指針(医療従事者向け)」難病情報センター。情報更新日2014年12月21日。2015年6月3日閲覧。
  4. ^ 『PDA版 イヤーノート2014』メディックメディア、2014年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン390, 提供日2014年3月10日。「自己免疫性溶血性貧血」の項目。
  5. ^ a b c d e f 『PDA版 内科学書改訂第7版』中山書店、2009年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン130, 提供日2009年11月10日。「後天性溶血性貧血」の項目。
  6. ^ a b c 『PDA版今日の臨床検査2011-2012』南江堂、2012年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン180, 提供日2012年01月18日。「Coombs, 抗グロブリン試験, 赤血球Coombs試験」の項目。
  7. ^ a b c d e f g h i j 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成22年度改訂版)」自治医科大学、2010年。2015年6月3日閲覧。
  8. ^ a b c d e 『改訂版ステロイドの選び方・使い方ハンドブック』羊土社、2011年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン100, 提供日2012年11月22日。100-102頁。
  9. ^ 要約 赤血球濃厚液の適正使用」厚生労働省、2005年。2015年6月3日閲覧。






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