自己免疫性溶血性貧血 治療

自己免疫性溶血性貧血

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/01 05:28 UTC 版)

治療

続発性の自己免疫性溶血性貧血の場合、全身性エリテマトーデス悪性リンパ腫等の背景となる疾患の改善を第一の目標とするため、ここでは特発性自己免疫性溶血性貧血の治療戦略について説明する。

ステロイド療法

特発性の自己免疫性溶血性貧血の治療の3本柱は、副腎皮質ステロイド脾臓摘出術、および免疫抑制薬である[7]。とりわけ副腎皮質ステロイドは古典的な薬剤であるにもかかわらず、いまだ治療の第一選択である[7]。副腎皮質ステロイドは、抗体を産生するBリンパ球を抑制する目的で使用される[8]。実地臨床では自己免疫性溶血性貧血と診断され、ヘモグロビン濃度が8g/dl以下となった場合、ステロイド療法の適応の目安となる[8]

急性期には寛解導入療法として、ステロイド剤をプレドニゾロン換算で体重1kgあたり1.0mg/日を標準量とするステロイド剤の大量経口投与を連日おこなう[3]。ステロイド剤の大量投与に伴う副作用の危険性はあるものの、約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する[3]。なお副腎皮質ステロイドを経静脈的に超大量投与する、いわゆるステロイドパルス療法が従来の治療より優れているというエビデンスはない[7]。寛解導入後は、1ヶ月で体重1kgあたり0.5mg/日程度までゆっくり減量する。その後は2週間に5mgのペースで減量し、初期維持量を10〜15mg/日にもっていく[8]。ステロイド剤がプレドニゾロン換算で初期維持量に達した後は、網状赤血球と直接クームス試験の推移を観察しながら、1ヶ月間に5mg程度のペースでさらに減量を試みる[8]。5mg/日が最小維持量の目安となるが、直接クームス試験が陰性化し、数ヶ月以上みても再陽性化や溶血の再燃がみられない場合は、維持療法をいったん中止して経過を追跡することも可能である[3]

ステロイド抵抗性の場合

寛解維持にプレドニゾロン換算で10mg/日以上のステロイド剤を必要とする場合は、ステロイド抵抗性と判断し、第2選択の治療への移行を考慮する[8]

この疾患において脾臓は感作赤血球を融解する器官であると同時に抗体を産生するB細胞を成熟する臓器でもあることから、脾臓摘出術はステロイド療法に並ぶ古典的な治療法のひとつである[7]。脾臓の機能の一部は、肝臓や骨髄の細網内皮系によって代行されるため、脾臓摘出術のみで病態の消失を図るには限界がある[7]。しかし、免疫抑制薬と比較して脾摘術の有効性は高いことが証明されており、第2選択の治療としていまだ重要性を有している[7]

免疫抑制薬は、ステロイド剤に次ぐ薬物療法として、脾臓摘出術に対する耐術能が低い患者に考慮される[7]シクロホスファミドアザチオプリン6-メルカプトプリンメトトレキサートが使用され、これらの中で優劣を論じるための研究成績は十分に報告されていない[7]

その他、リツキシマブをはじめとした分子標的治療薬が新たな治療法として注目されている[3]

輸血

一般的に溶血性貧血では、輸血は溶血をさらに促進するため避けるのが原則である[9]。とりわけ自己免疫性溶血性貧血では、赤血球の膜上の抗原が免疫学的に被覆された状態であるため、交叉適合試験の判定が困難であり、不適合輸血の危険が高く、一般的には禁忌とされる[7]。ただし生命維持に必要なヘモグロビン濃度が保持できない場合、救命的な輸血は機を逸することなくおこなう必要がある[3]


  1. ^ 『やさしい臨床医学テキスト』薬事日報社、2008年。274-275頁。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『PDA版 STEP内科〈2〉感染症・血液』海馬書房、2011年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン400, 提供日2011年2月17日。「自己免疫性溶血性貧血」の項目。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 自己免疫性溶血性貧血 診断・治療指針(医療従事者向け)」難病情報センター。情報更新日2014年12月21日。2015年6月3日閲覧。
  4. ^ 『PDA版 イヤーノート2014』メディックメディア、2014年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン390, 提供日2014年3月10日。「自己免疫性溶血性貧血」の項目。
  5. ^ a b c d e f 『PDA版 内科学書改訂第7版』中山書店、2009年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン130, 提供日2009年11月10日。「後天性溶血性貧血」の項目。
  6. ^ a b c 『PDA版今日の臨床検査2011-2012』南江堂、2012年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン180, 提供日2012年01月18日。「Coombs, 抗グロブリン試験, 赤血球Coombs試験」の項目。
  7. ^ a b c d e f g h i j 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成22年度改訂版)」自治医科大学、2010年。2015年6月3日閲覧。
  8. ^ a b c d e 『改訂版ステロイドの選び方・使い方ハンドブック』羊土社、2011年。M2PLUS for AndroidOS, バージョン100, 提供日2012年11月22日。100-102頁。
  9. ^ 要約 赤血球濃厚液の適正使用」厚生労働省、2005年。2015年6月3日閲覧。






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