自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 経緯

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/08 05:01 UTC 版)

経緯

  • 2013年平成25年)
    • 4月12日:閣議決定、第183回国会に法案提出
    • 11月5日:第185回国会衆議院本会議で可決
    • 11月20日:参議院本会議で可決、成立
    • 11月27日:公布
  • 2014年(平成26年)5月20日:法施行(初回)[5]
  • 2020年令和2年)
    • 6月5日:令和2年改正法が可決成立
    • 6月12日:令和2年改正法公布
    • 7月2日:令和2年改正法施行[1][2][3][4][注 3]

犯罪類型と罰則

危険運転致死傷罪

(第二条)下記の行為を行い、よって人を死傷させた者

  1. アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
  2. その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
  3. その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
  4. 人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  5. 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
  6. 高速自動車国道[注 4]又は自動車専用道路[注 5]において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行[注 6]をさせる行為
  7. 赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  8. 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

(第三条)下記の行為を行い、よって人を死傷させた者

  • アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてアルコールまたは薬物の影響により、正常な運転が困難な状態に陥ったもの
  • 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてその病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの(適用対象となる病気は後述)

発覚免脱罪

(第四条 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)

アルコールまたは薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコールまたは薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、さらにアルコールまたは薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコールまたは薬物の濃度を減少させること、その他その影響の有無または程度が発覚することを免れるべき行為をした場合。
これはひき逃げの「逃げ得」を防止するため、当該運転者を重く処罰する規定である。事故発生までのアルコール・薬物の摂取の証跡を隠秘する目的で、現実の事故発生後に改めてアルコール・薬物を摂取したり、事故現場から逃走し隠秘したりするなどの行為が該当するが、前述の目的があれば他の手段[注 7]であっても該当する。なお、逃走した場合には救護義務違反の罪も成立し、これは発覚免脱罪とは併合罪の関係にある(後述の「罪数論」を参照)。

過失運転致死傷罪

(第五条)自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる(裁量的免除)。

刑法の旧規定(第211条の2)に自動車運転過失致死傷罪として規定されていたものである。軽傷時の刑の免除は裁量的免除であり、軽傷だから必ず免除される訳ではない。

無免許運転による加重

第六条。本法律各条(第2条から第5条まで)罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、刑を加重するとする規定。無免許運転であることと事故(死傷)の間に因果関係は不要である。なお、運転技能を有しない状態で運転する行為については第2条で評価される。

法定刑

有期刑の上限は20年(刑法第12条1項)。ただし、他の罪が併合罪加重として適用される場合や再犯加重の場合などは30年(刑法第14条同第47条)。危険運転致死罪は裁判員裁判での審理対象となることがある。

なお、故意性が極めて強いと判断される危険運転致死は、自動車運転処罰法ではなく刑法第199条の殺人罪で処断される。殺人罪は暴力団幹部など一部の例外を除き必ず裁判員制度の対象となり、法定刑が死刑無期または5年以上の有期懲役となる。

罪状 一般 無免許
危険運転致死罪 1年以上の有期懲役 加重なし(同左)
  準酩酊・準薬物・病気運転 15年以下の懲役 6月以上の有期懲役
危険運転致傷罪 15年以下の懲役 6月以上の有期懲役
  未熟運転 15年以下の懲役 加重なし(同左)
  準酩酊・準薬物・病気運転 12年以下の懲役 15年以下の懲役
発覚免脱罪 12年以下の懲役 15年以下の懲役
過失運転致死傷罪 7年以下の懲役もしくは禁錮、
または100万円以下の罰金
10年以下の懲役

罪数論

本法律の各罪と道路交通法違反の各罪(救護義務違反の罪を含む)とは、下記の関係にある。

  • 危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪とは、法条競合の関係にある。
  • 過失運転致死傷罪と道路交通法違反の罪(酒気帯び運転ほかの交通違反)とは、併合罪の関係にある[注 8]
  • 発覚免脱罪と危険運転致死傷罪も、併合罪と評価される可能性がある[注 9]
  • 発覚免脱罪と過失運転致死傷罪とは、併合罪の関係にある[注 10]
  • 救護義務違反の罪と他の罪とは、原則として併合罪の関係にある(ひき逃げの項を参照)。
  • 無免許運転により本法律の罪が加重された場合、道路交通法による無免許運転罪と、加重された本法律の罪とは、法条競合のうち結合犯の関係にある[注 9]

道路外致死傷への適用

この法律の罪は、次の部分を除き、道路外致死傷(道路以外の場所において自動車等をその本来の用い方に従って用いることにより人を死傷させる行為)にも適用される。ただし、適法に開催された自動車競技、オートレース等、正当行為と判断される場合に限っては、この限りではない。

  • 通行禁止道路運転致死傷(第2条第6号)
  • 無免許運転による加重(第6条)

注釈

  1. ^ 本法律に言う「自動車」とは、道路交通法に規定される自動車および原動機付自転車のことである(第1条第1項)ため、三輪・四輪の自動車のほか、オートバイ小型特殊自動車も含まれる。自転車馬車などの軽車両、および、路面電車トロリーバスは対象外である。以下同じ。
  2. ^ なお、危険運転致死傷罪については一時期「四輪以上」とされ、二輪または三輪の自動車オートバイ原動機付自転車は除外されていた。
  3. ^ なお、あおり運転に関する道路交通法の改正(妨害運転)の施行は2020年(令和2年)6月30日である。
  4. ^ 高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。
  5. ^ 道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。
  6. ^ 自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。
  7. ^ たとえば、大量に水分を摂取し、それによって大量に排尿することで、血液中のアルコール・薬物を尿中に排泄してしまう方法(これは急性アルコール中毒の治療法のひとつでもあり、強制利尿と呼ばれる)などが考えられる。
  8. ^ 道路交通法上の酒酔い運転の罪と業務上過失致死罪(当時)とは併合罪となる(最大判昭和49年5月29日、刑集28巻4号114頁)。
  9. ^ a b 学説、判例不明[要出典]
  10. ^ 法務省の解説ページにはそれを前提とする記述があるが、学説、判例不明。[要出典]

出典






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