痩果 痩果が関わる偽果

痩果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/29 01:58 UTC 版)

痩果が関わる偽果

果実は基本的に雌しべ子房に由来する器官であるが、それに花托花被など子房以外の部分に由来する構造が多く加わることもあり、このような果実は偽果とよばれる[2]ロウバイロウバイ科; 下図6a)やキンミズヒキ(下図6b)、ワレモコウバラ科)、グミ属グミ科; 下図6c)などでは、子房に由来する部分は痩果となり、これが花托または萼筒に囲まれて偽果を形成している[10]。上記のバラ状果もこのタイプの偽果である。また上記のイチゴ状果は、花後に花托が大きく成長し、その表面についた多数の子房が痩果になった偽果である。ドクウツギドクウツギ科; 下図6d)やイシミカワ(下図6e)、イタドリ(上図3c)(タデ科)などでは、子房は痩果(または小堅果)となり、これが花被で包まれている[10]カヤツリグサ科スゲ属では、痩果(または小堅果)が特殊化した葉である果胞(perigynium)に包まれている[13][注 10]

6a. ロウバイロウバイ科)の偽果とそれに含まれる痩果(下)
6b. キンミズヒキ属バラ科)では子房は痩果となり、縁に多数のトゲをつけた花托筒(萼筒)で包まれている。
6c. ナツグミグミ科)の果実は赤く発達した筒に包まれている。
6d. ドクウツギ属ドクウツギ科)の果実は肉質の花被で包まれる。
6e. イシミカワタデ科)の果実は肉質の花被で包まれる。

クワ(下図7a)やカジノキ(下図9e)、ヒメコウゾクワ科)では多数の雌花が集まってつくが、それぞれの花の雌しべが痩果となり、これが肉質になった花被で包まれて偽果となる。さらにこれが多数密集してクワ状果とよばれる複合果(多花果)になる[2][4][10][7][8]イチジク属(クワ科)では茎の先端が壷状になり、この中に小さな花(雄花、雌花)が多数ついている(花嚢、隠頭花序)。個々の雌花は痩果を形成するが(下図7b)、花床は肉質化して壷状の花序全体が偽果となり、イチジク状果(syconium[注 11])とよばれる[2][4][7][8](下図7c)。オナモミ属キク科)ではふつう2個の雌花が総苞に包まれており(下図7d)、それぞれ痩果を形成、表面に多数のトゲをもつ総苞(果苞)が発達して痩果を包み、偽果となる[10][22](下図7e)。

7a. クロミグワクワ科)のクワ状果
7b. イチジククワ科)の痩果
7c. イチジクのイチジク状果(左)とその断面(右): 果梗 (p)、頂孔 (aa)、花床 (r)、痩果 (aq)
7d. オオオナモミキク科)の雄花(上)と雌花(下)
7e. オオオナモミの偽果の断面(2個の痩果を含む)

注釈

  1. ^ 複数形は achaenia[1]
  2. ^ 複数形は acheniums または achenia[1]
  3. ^ カヤツリグサ科の果実は、堅果(小堅果)とされることもある[2][13]
  4. ^ タデ科の果実は、堅果(小堅果)とされることもある[2]
  5. ^ 複数形は cypselae または cypselas[15]
  6. ^ 複数形は caryopses または caryopsides[16]
  7. ^ 複数形は samaras または samarae[17]
  8. ^ 複数形は cynarrhodia[19]
  9. ^ 複数形は cocci[20]
  10. ^ このような果実は胞果(嚢果、utricle)ともよばれるが[5]胞果(utricle)はふつうヒユ科などに見られる果皮種子をゆるく包んだ果実を意味しており[2]、果実が果胞で包まれたスゲ属のものとは構造的に異なる。
  11. ^ 複数形は syconia[21]

出典

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