甲を着た古墳人 出土状況

甲を着た古墳人

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/22 01:15 UTC 版)

出土状況

「甲を着た古墳人」は、31号溝の底から発見された。溝の底で膝を曲げて腕を地につけ、うつ伏せにうずくまるように倒れていた。胴体には、短冊状の小鉄板である小札(こざね)を紐で縅した(連接した)「小札甲」(挂甲とも[注 1])を身に付けていた。

31号溝の遺構内部を満たす覆土はHr-FAテフラで充填されており、「甲を着た古墳人」が火砕流が襲来した際に溝の底にうつぶせ、そのまま直撃を受けて埋没したことは確実である[1]

古墳人の遺体周囲には、同時に火砕流に巻き込まれた同人物の所持品とみられる遺物なども埋没していた。古墳人の所持品とみられるものとして鉄鏃(束にした)が検出された。矛は刃部~袋部(木柄を差し込み接続するソケット状の部分)と把部との境目付近に鹿角(ろっかく:シカ)製の装飾が付けられているものであった[5]。鹿角製の装具を伴う矛の出土例は、熊本県宇城市の国越古墳出土例・福岡県行橋市の稲童21号墳出土例がある[6]

鉄鏃にも鹿角製の装飾が付けられており、他の事例では大阪府羽曳野市峯ヶ塚古墳出土例があるが、極めて少ないうえ、当時古墳人が1度に装備していた矢の全てに鹿角装が付けられていた事例は、本遺跡が初であった[5]

他に古墳人が装着しているものとは別にもう1領分の小札甲(2号甲)が見つかった。これは鉄製ではない小札で構成されており、発見当初は骨製と報じられたが[3]、後に鹿角製と判明した。骨を使用した甲は大韓民国夢村土城で類例があるが、日本国内の、また鹿角を利用した小札甲は初の発見例となった[7]

このほか周囲では、首飾りをした女性人骨1体(首飾りの古墳人)、幼児人骨1体(幼児の古墳人)、乳児人骨1体(乳児の古墳人)が発見された。「首飾りの古墳人」は、火砕流の直撃を受けて左足を軸に回転するようにうつ伏せに倒れていた。「乳児の古墳人」は頭骨しか残存していなかったが、「幼児の古墳人」は手足を大の字に広げて倒れており、皆火砕流に巻き込まれた被災者であった[8]

同年12月13~14日に取り上げ作業が行われた。形状を崩さないために樹脂でコーティングし、周囲の地面ごと切り離して回収された[9]

特徴

周囲の地面ごと取り上げられた古墳人は、研究所で詳細な分析と、覆土の除去が行われた。その結果、四肢の骨は良好に遺存しており、甲以外にも刀子や提砥(さげと:砥石)を装備していることが確認された。身長は164センチメートルで、年齢は40歳代であった[8]。後頭部骨は圧潰していたが、顔面部分の骨は残存しており、慎重に取り出し作業が行われた。のちに、この骨から、この人物の顔面復原がなされ、渡来系の特徴があることが判明した[8]

後頭部が輪切りになっている件について、能登健は、一度目の火砕流で後頭部以外が埋もれたのち、後発の火砕流によって露出していた後頭部が削り取られたものと考察する[10]

また、CTスキャンの結果、うつ伏せになっている頭骨(顔面)の下に(兜)が埋没していることがわかった。画像分析により、冑は5世紀から出現する「横矧板鋲留衝角付冑(よこはぎいたびょうどめしょうかくつきかぶと)」と呼ばれる衝角付冑であることが判明した。横矧板による錣(しころ)と、小札からなる頬当(ほおあて)が装備されていた[11]


注釈

  1. ^ 1990年代以降、研究の進展により、「挂甲」という語が奈良時代の小札甲の一種を示す言葉であることが明らかとなってきて、2000年代ごろから古墳時代の小札で縅した甲に「挂甲」の語をあてるのは不適切であることが指摘され、現在の考古学界では「小札甲」や「札甲」と呼ぶようになってきている[4]

出典






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