減価償却
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 19:20 UTC 版)
英語では、有形固定資産にかかるものを depreciation、無形固定資産にかかるものを amortization という。
概要
減価償却の本質
減価償却とは、一般に有形固定資産(固定資本)の価値の減価を測定し、その減価を帳簿から差し引くことをいう[1]。
これらの減価原因には次のようなものがある。
- 物質的減価(物理的摩滅) - 使用による損耗(wear and tear)や時の経過による自然損耗[2]
- 機能的減価(経済的減価) - 旧式化や陳腐化による減価(depreciation due to obsolescence)及び不適合[1][2]
- 災厄的減価 - 事故や災害による減価[1]
一部、特許権、商標権や漁業権、ソフトウェアなど各種権利の無形固定資産についても、減価償却を行うことがある。
なお、「償却」には、資産の原価を将来に渡って費用配分する、という意味がある。会計用語では、特に有形固定資産(Tangible assets)を償却することを「減価償却」(Depreciation)と呼び、無形固定資産(Intangible assets)を償却することを単に「償却」(Amortization)と呼んで区別している。
一方、貸倒損失を「貸倒償却」と呼ぶことがあり、減価償却や償却、貸倒償却を含めた広義の「償却」(Amortization)もあるので注意が必要である。
非減価償却資産
固定資産であっても減価償却しないものがある。減価償却しないものは非減価償却資産と呼ばれ、非減価償却資産は以下の様な時間によっても価値が減少するとは限らないものが該当する。
- 乳牛の子牛など生育中の生き物で成熟前のもの(成牛となった後は減価償却対象となる)
- 建設仮勘定(建物として引き渡された後は減価償却対象となる)
- 絵画、骨董、書画、彫刻などの美術品や古文書など
- 土地[3] および土地の上に存する権利(借地権、地上権など)
- 電話加入権[注釈 1]
また、株式などの有価証券も、減価償却資産とされない。
減価償却の計算要素
減価償却の計算の3要素として、取得価額、耐用年数、残存価額の3つがある[4]。
- 取得価額
- 減価償却資産の取得に関連して支出した費用で、資産の購入代価のほか、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などの付随費用を含める[4]。具体的には税法で取得価額に算入する範囲が規定される[4]。
- 耐用年数
- 建物、車両、運搬具、工具、器具、備品等のように一資産の種類ごとに定められている個別耐用年数と、機械装置のように設備の種類ごとに定められている総合耐用年数がある[4]。
- 残存価額
- 減価償却資産が耐用年数を経過して本来の用役が困難になった場合に、売却で得られるべき見積価額(処分価額)あるいは転用で得られるべき利用価額をいう[4]。残存価額も税法で資産の種類別に画一的に規定されている[4]。
4つの減価償却方法
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減価償却は、定額法、定率法、級数法(年数総和法)、生産高比例法の4つの方法がある。
いずれの方法も対象資産の取得価額から残存価額を引いた要償却額に対して、それぞれの方式ごとに異なった割合での比率によって、償却期間に配分される。減価償却は対象資産の取得月に起算され、月割りでの計算が行なわれる。
取得原価(Cost)にはその資産の代金だけでなく、運賃、手数料、保険料、登録料などの付随する全ての費用が含まれる。
多くの資産は耐用年数の期間だけ使用した後でも、まだ便益に供することが可能な状態であるために、そういった資産を耐用年数分の使用後に売却処分した場合に得られると予想される金額を残存価額(Salvage value)として設定している。取得原価から残存価額を差し引いた要償却額に対してだけ償却期間を通じた費用配分が行なわれる。
理論上の減価償却
「企業会計原則注解」[注20]では固定資産の減価償却の方法として、
- 定額法 固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法
- 定率法 固定資産の耐用期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法
- 級数法(年数総和法) 固定資産の耐用期間中、毎期一定の額を算術級数的に逓減した減価償却費を計上する方法
- 生産高比例法 固定資産の耐用期間中、毎期当該資産による生産又は用役の提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法
が例示されている。前者の3つは時間に基づいて減価償却するのに対して、生産高比例法は活動量に基づいて減価償却する方法である。また、定率法と級数法は加速度的償却法である。なお、日本では、無形固定資産の減価償却については定額法だけが認められている。
以下では、取得額をA0、耐用年数をu、残存価額をAu、償却率r とする。
定額法
定額法(Straight-Line method, SL)は、毎年一定の額を償却してゆく償却法。毎年の減価償却費を平準化できるという特徴がある一方、使用により、維持修繕費が逓増する場合には、耐用年数後半において費用負担が増大するという欠点がある。年間の減価償却費は、取得原価と残存価額との差額を耐用年数で除して求める。
償却率r を求める場合、原理的には、Au = (1-u r )A0 より、
で求められる。日本では残存価額Au = 0 として各耐用年数における法定償却率が定められている。
定率法
定率法は、毎年その期首の未償却残高に対して一定の率を償却してゆく償却法であり、加速度的減価償却法の一つである。投下資本の早期回収が可能であるが、取得原価の期間配分という点では非合理的である。年間の減価償却費は、取得原価と減価償却累計額との差額に償却率を乗じて求める。
償却率r を求める場合、原理的には、Au = (1 - r )u A0 から、
で求められる。残存価額Au = 0 のとき、定率法は適用できない。
定率法には、二倍定率法(Double-Declining Balance method, DDB)がある。償却期間の早い時期に大きく償却することで利益を圧縮できるという特徴がある。これは上記算式によらずに、定額法の償却率として定額法の償却率の二倍を用いる方法である。日本では上記算式によりAu = A0×10%として各耐用年数における法定償却率が定められていたが、平成19年(2007年)4月1日より250%定率法が採用され、平成24年(2012年)4月1日より200%定率法が採用された。
級数法(年数総和法)
級数法(Sum of the Years' Digits method, SYD)は、耐用年数から経過年数を差し引いた残存耐用年数を分子とし、その期までの残存耐用年数の合計(初項を1、項数と末項を残存耐用年数とした等差数列の総和のこと)を分母とした数値に、取得原価(Cost)から残存価額(Salvage value)を引いた要償却額を乗じて、その期の減価償却費を算出する償却法であり、加速度的減価償却法の一つである。
償却期間の早い時期に大きく償却することで利益を圧縮できるという特徴がある。 年間の減価償却費は、取得原価と減価償却累計額との差額に償却率を乗じて求める。
経過年数をn とすれば、減価償却費は以下の数式で求められる。
- 減価償却費 =
生産高比例法
生産高比例法(Productive output method)は、資産を使用して生産活動などを行なう場合に、予想される総活動量に対するその期の活動量の割合に応じて減価償却費を算出する方法である。予想される総活動量を分母に、当期の活動量を分子とした数値に、取得原価(Cost)から残存価額(Salvage value)を引いた要償却額を乗じて、その期の減価償却費を算出する。収益と費用の対応が合理的であるが、適用資産が鉱業用設備、航空機、自動車等に限られている。
減価償却費は以下の数式で求められる。
- 減価償却費 = (当期の活動量 / 予想される総活動量) × (取得原価 - 残存価額)
注釈
- ^ 2009年時点において、実際には市場価値が減少しているが、税法上の減価償却資産とされていない。
出典
- ^ a b c 村田直樹「減価償却の会計史」『経済集志』第87巻、日本大学経済学部、49-62頁。
- ^ a b 小林正人. “減価償却とは:定額法と定率法”. 駒澤大学. 2022年10月23日閲覧。
- ^ 阿部徳幸・松嶋康尚共著 『減価償却の実務がスラスラわかる本』 中経出版 2008年4月初版発行 ISBN 9784806129325
- ^ a b c d e f 畠中 瞳「減価償却の計算要素」『商経論叢』第35巻第4号、九州産業大学商学会、49-62頁。
- ^ a b “減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第十一”. e-Gov. 2020年1月25日閲覧。
- ^ a b “減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第七”. e-Gov. 2020年1月25日閲覧。
- ^ a b c “減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第十”. e-Gov. 2020年1月25日閲覧。
- ^ a b c d e f g 小森瞭一「戦後フィシカル・ポリシーとしての加速償却政策」『經濟學論叢』第58巻第1号、同志社大学経済学会、71-72頁。
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