法科大学院
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/02 16:26 UTC 版)
法科大学院課程の法的基準
法科大学院課程の法的基準は、専門職大学院設置基準(平成15年文部科学省令第16号)に規定されている。標準修業年限は3年(18条2項)で、法科大学院において必要とされる法学の基礎的な学識を有すると認める者(法学既修者)は、修業年限を2年とすることができ、30単位を超えない範囲で法科大学院が認める単位を修得したものとみなすことができる(25条)。必要単位数は93単位以上とされている。
細目は、専門職大学院設置基準第5条第1項等の規定に基づく専門職大学院に関し必要な事項(文部科学省告示第53号)に規定されている。実務家教員はおおむね2割以上(2条3項)が要求され、他学部出身者や社会人の入学者が3割以上となるよう努めるもの(3条1項)とされる。
法律基本科目(憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法に関する分野の科目)、法律実務基礎科目(法曹としての技能及び責任その他の法律実務に関する基礎的な分野の科目)、基礎法学・隣接科目(基礎法学に関する分野又は法学と関連を有する分野の科目)、展開・先端科目(先端的な法領域に関する科目その他の実定法に関する多様な分野の科目)を設けること(5条)、法律基本科目は50人を標準として授業を行うこと(6条)、年間登録単位の上限が1年につき36単位を標準として定める(7条)、とされる。
入学試験(法学既修者・未修者)
法科大学院の入学試験は、法科大学院ごとの個別試験(筆記試験及び面接試験)からなる。なお、従来は、法科大学院ごとの試験に先立ち、共通試験としての法学既修者試験(廃止済み)及び法科大学院適性試験(実質的に廃止済み)が行われていた。
各法科大学院の個別試験は、2年制の法学既修者コースと3年制の法学未修者コースの試験の2種類を同時あるいは前後にずらして実施するところ(多数)と、未修者を前提とする試験を実施して入学者を選抜した後に、その合格者を対象にさらに法学既修者認定試験を課すところ(早稲田大学の冬入試、名古屋大学など)がある。
司法試験合格率や合格者数、修了年数との関係で、学部生(法学部に限らず)の多くは法学既修者コースを第一志望とし、その抑えとして法学未修者コースを併願する場合が多い。人気校においても、入学の実質的難易度は、法学既修者コースと法学未修者コースとで大きく乖離しているのが現状である。もっとも、既修者コースにおいても、入学難易度において、法科大学院ごとに大きく乖離している(詳細は、以下「#未修と既修の学力格差」を参照)。
多くの大学院では、出願時において、適性試験の成績証明書、自己推薦書・志望理由書(100 - 5000字程度のステートメント)、学部の成績証明書、卒業(見込み)証明書(大学院によってはTOEICやTOEFL、中国語検定等の外国語試験の成績)の提出を義務付けるとともに、任意提出書類として大学教員等の推薦書や、自己推薦書の内容を補強する資料としての賞状や証書等を指定している。
かかる書類の審査を経た後、大学院ごとに筆記試験が課される。
法学既修者コースにおいては、大学院により異なるものの、原則として憲法・民法・刑法・刑事訴訟法・民事訴訟法・商法・行政法の法律基本科目の中から、5〜7科目の論文式試験が課される。論文式試験の内容は、大学により異なるものの、司法試験を見据えた高度なものが多く、試験時には参照用に1人1冊の六法が配布されることが多い。
他方、法学未修者コースにおいては、法律科目は課されず、論理的思考力や文章表現力、読解力を測るための小論文試験、及び面接試験が課されるのが一般的である。なお、一部の大学では既修者コースにおいても面接試験を課すことがある。既修者コースの面接においては、多少の法的知識が問われる場合もあるが、少数派である。
いずれの大学院においても、以上によって得られた資料を総合的に判断して合否を決めるとされ、同一大学の学部生を優遇する等の、いわゆる推薦入試等は一切行われない(書類審査や面接において、出身学部等が特に有利に斟酌される場合はあり得る)。なお、いかなる資料をどの程度重要視するかは、大学院ごとに異なるものの、一般的には筆記試験の成績が最も重要視されていると言われている。
授与される学位
日本の法科大学院課程を修了すると、「法務博士(専門職)」の学位が得られる。他の専門職学位は「○○修士(専門職)」だが、法科大学院で取得できる学位は、J.D.(en:Juris Doctor)の和訳がそのまま充てられて、「法務博士(専門職)」と表示され、「博士」の文字を含む。しかし、修士や博士の学位とは異なり、司法試験の受験資格を得られる(但し、法科大学院修了後又は予備試験合格後「5年間で5回」の制限がある[13])という点が最大の特徴であり存在意義である[14]。「法務博士(専門職)」は、前述のように「博士」の文字を含むものの、通常の大学院の課程で研究業績に対して授与される「修士」(この場合は修士論文の執筆が要求される)相当[要出典]の学位である[14][15][16][17]。修士号を取得するために必要な修士論文の執筆をすることなく、所定の単位数を取得すれば、法務博士の学位を取得できる。アメリカのロー・スクールでも、優秀な学生の中には、Juris Doctorの学位を取得した後、さらに、アメリカのロースクールの学位のうち最も高い学位Doctor of Juridical Scienceの取得を目指す者も見受けられる。日本では、法務博士(専門職)は、法学研究大学院の博士課程後期課程の入学資格を認められるが、博士前期課程をへて修士論文を執筆していないため、入学審査において別途、リサーチペーパーなど何らかの学術的業績を要求されることがある(他の専門職学位と共通する特典については、「専門職学位#専門職学位の意義」を参照)。
- ^ 現実に、制度がスタートした2004年5月には、島根大学において学部レベルの法律学担当教員不足が文部科学省から指摘されて発覚するという不祥事が発生している。
- ^ a b 予定を含む。
- ^ 桐蔭法科大学院に統合。
- ^ 内訳は、
- 法学既修者コースが2,179人(37.7%)、法学未修者コースが3,605人(62.8%)。
- 社会人が、既修コースに718人、未修コースに1,207人、合計1,925人。
- 出身学部別では、
- 法学系学部は既修コースに1,868人、未修コースに2,282人、合計 4,150人。
- 文系(法学系以外)は既修コース246人、未修コース892人、合計1,138人。
- 理系は既修コース34人、未修コース292人、合計326人。
- その他が既修コース 31人、未修コース139人、合計170人。
- ^ 入学定員に関しては、平成18年度当時、
- 国立 23大学 1,760人
- 公立 2大学 140人
- 私立 40大学 3,925人
- 合計 65大学 5,825人
- ^ 「慶應義塾大法科大学院」p3, 慶應義塾大学大学院法務研究科 2018年
- ^ 「LL7とは」先導的法科大学院懇談会
- ^ 外部リンク webcache.googleusercontent.comからのアーカイブ、10 Jan 2018 06:24:19 UTC
- ^ 第151回国会法務委員会第20号 平成13年6月20日(水曜日)
- ^ a b 『次世代法曹教育の調査研究とフォーラムに出席して』 東京大学法学部教授 高橋宏志
- ^ 「司法制度改革推進計画」(平成14年3月19日閣議決定)
- ^ 規制改革・民間開放推進会議第6回規制見直し基準ワーキンググループ議事資料「法曹人口の拡大等に関する問題意識」
- ^ 2009年2月26日 読売新聞教育ルネサンス(10)「同志社大法科大学院教授コリン・ジョーンズさんに聞く」
- ^ 2009年2月28日 読売新聞教育ルネサンス(12)「理想の司法 議論続く」
- ^ 河井克行「司法の崩壊」(PHP研究所、2008年)49 頁 ISBN 978-4-569-70313-8
- ^ a b 河井克行「司法の崩壊」(PHP研究所、2008年)79 頁
- ^ 「法学部「3年卒」検討 法科大学院「失敗」に危機感」毎日新聞2018年5月18日
- ^ 司法試験三振...。諦めるのはまだ早い!三振後の進路とは|MS Agent by MS-Japan 2022年6月閲覧
- ^ a b 管理部門の転職支援 法学博士と法務博士の違いとは?|MS Agent by MS-Japan 2022年6月閲覧
- ^ 例えば、早稲田大学2016年博士後期課程9月入学入試出願資格では、修士、修士(専門職)、法務博士(専門職)の学位を有する者又は得る見込のある者は、博士後期課程に出願する資格があるとして、同列に扱う。
- ^ 「法務博士は取得学位が博士号であると誤解されたとしてもその誤解を解く必要はないのか?」2016年08月30日|弁護士ドットコム
- ^ 資料3 大学院修士課程と専門職大学院との制度比較|文部科学省
- ^ 姫路独協大:来年度入試、法科大学院合格ゼロ 厳格化方針に従い 毎日新聞 2010年2月9日
- ^ 本学の法科大学院法務研究科の学生募集停止について 姫路獨協大学 2010年5月27日
- ^ a b 『司法制度改革「法曹養成制度」に関するコメント』 日本経団連 2002年6月7日
- ^ 参照:愛知県弁護士会会報「SOPHIA」平成19年11月号[1]
- ^ 2009年2月21日 読売新聞教育ルネサンス(8)「答案練習予備校頼み」
- ^ 2009年2月20日 読売新聞教育ルネサンス(7)「授業と試験対策にズレ」
- ^ 司法試験管理委員会「平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見」
- ^ 新第60期司法修習生考試における不可答案の概要
- ^ 2009年2月11日 読売新聞教育ルネサンス(1)「理想の教育合格率の現実」
- ^ 毎日新聞2008年9月10日
- ^ “第57回司法制度改革審議会議事録”. www.kantei.go.jp (2001年4月24日). 2019年3月27日閲覧。
- ^ “司法試験予備試験制度に関するアンケート(2013年)”. webcache.googleusercontent.comからのアーカイブ. 2018年1月10日閲覧。
- ^ a b 「法科大学院の撤退止まらず 国立、有名私大で募集停止」東京新聞2017年8月15日
- ^ 「苦境の法科大学院「採算取れる学校、ほとんどないはず」」朝日新聞デジタル2017年7月31日08時39分
- ^ [2]産経WEST
- ^ 2009年2月25日 読売新聞教育ルネサンス(9)「修了者増え 就職厳しく」
- ^ “法科大学院等別合格者数等”. 2023年2月17日閲覧。
- ^ “法科大学院等特別委員会(第108回)配布資料1-2”. 2023年2月18日閲覧。
- ^ “アメリカ留学の基礎知識”. www.fulbright.jp. 日米教育委員会. 2021年9月9日閲覧。
- ^ 平成19年度法科大学院入学者選抜実施状況の概要 文部科学省
- ^ “Coordinated JD/PhD Program”. hls.harvard.edu. hls.harvard.edu. 2021年7月7日閲覧。
- ^ 法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会、2009年4月17日
- ^ 平成21年4月中央教育審議会法科大学院特別委員会報告を踏まえた各法科大学院の改善状況(まとめ) (PDF) 、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会第3ワーキンググループ、2010年1月22日
- ^ 各法科大学院の改善状況に係る調査結果 (PDF) 、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会第3ワーキンググループ、2011年1月26日
- ^ 各法科大学院の改善状況に係る調査結果 (PDF) 、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会第3ワーキンググループ、2012年3月7日
- ^ “法学部+法科大学院5年一貫の法曹養成で文科省が連携の申請受け付け”. between.shinken-ad.co.jp. Between情報サイト. 2020年5月22日閲覧。
- ^ “文部科学大臣認定を受けた法曹養成連携協定一覧”. www.mext.go.jp. www.mext.go.jp. 2021年7月6日閲覧。
- ^ https://www.moj.go.jp/content/000006407.pdf
- ^ https://www.moj.go.jp/content/000006450.pdf
- ^ 2009年3月19日朝日新聞
- ^ 2009年4月11日朝日新聞
- ^ 2009年4月17日付け産経新聞
- ^ 2009年6月9日付け読売新聞
- ^ 法曹養成制度についての中間提言 自民党政務調査会司法制度調査会(2013年6月18日)
- ^ “静大法科大学院、3月末で廃止 14年間の歴史に幕”. 静岡新聞 (2019年3月9日). 2019年3月10日閲覧。
- ^ “教育機構について”. 中京大学法務総合教育研究機構 (2018年10月25日). 2019年8月16日閲覧。
- ^ 『III司法制度を支える法曹の在り方』「司法試験制度改革審議会意見書」平成13年6月12日
- ^ 集中審議(第1日)議事録 司法制度改革審議会 平成12年8月7日
- ^ 『法科大学院と司法試験の現状と課題〜データ分析を中心に〜』14頁
- ^ 『読売新聞』2009年9月23日、東京版朝刊、27面。
- ^ 『新旧司法試験合格者数に関する声明』 首都圏法科大学院関係者有志 2004年10月28日
- ^ 『法科大学院と司法試験の現状と課題〜データ分析を中心に〜』15頁の表1
- ^ 『法科大学院と司法試験の現状と課題〜データ分析を中心に〜』16頁
- ^ 総務省資料
- ^ "本学の法科大学院法務研究科の学生募集停止について(在学生の皆様へ)" (Press release). 姫路獨協大学. 27 May 2010. 2012年7月6日閲覧。
- ^ "2013 年度新入生の募集停止について" (PDF) (Press release). 明治学院大学大学院法務職研究科教授会. 28 May 2012. 2012年7月6日閲覧。
- ^ "学生募集停止について" (Press release). 大宮法科大学院大学. 1 June 2012. 2012年7月6日閲覧。
- ^ "実務法学研究科(法科大学院)2013年度新入生の募集停止について" (PDF) (Press release). 神戸学院大学. 4 July 2012. 2012年7月6日閲覧。
- ^ "駿河台大学法科大学院の2013年度の学生募集停止について" (PDF) (Press release). 駿河台大学. 6 July 2012. 2012年7月6日閲覧。
- ^ 『東北学院大学法科大学院の学生募集停止について』(プレスリリース)東北学院大学、2013年3月7日 。2013年4月7日閲覧。
- ^ 『大阪学院大学法科大学院の学生募集停止について』(プレスリリース)大阪学院大学、2013年6月3日 。2013年4月28日閲覧。
- ^ 『島根大学大学院法務研究科(山陰法科大学院)の組織見直しについて』(プレスリリース)島根大学、2013年6月17日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『東海大学法科大学院学生募集停止について』(プレスリリース)東海大学、2013年10月17日 。2013年4月28日閲覧。
- ^ 『大東文化大学大学院法務研究科(法科大学院)の学生募集停止について』(プレスリリース)大東文化学園、2013年12月19日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『信州大学大学院法曹法務研究科(法科大学院)の学生募集停止について』(プレスリリース)信州大学、2014年2月12日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『関東学院大学法科大学院学生募集停止について』(プレスリリース)関東学院大学、2014年3月14日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『新潟大学大学院実務法学研究科(法科大学院)の学生募集停止について』(プレスリリース)新潟大学、2014年3月17日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『龍谷大学法科大学院の学生募集停止について』(プレスリリース)龍谷大学、2014年3月28日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『香川大学大学院香川大学・愛媛大学連合法務研究科の学生募集停止について』(プレスリリース)香川大学、2014年5月20日 。2014年5月21日閲覧。
- ^ 『久留米大学法科大学院の学生募集停止について』(プレスリリース)久留米大学、2014年3月31日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『大学院司法政策研究科(法科大学院)学生募集停止について』(プレスリリース)鹿児島大学、2014年4月25日 。2014年4月28日閲覧。
- ^ 『広島修道大学大学院法務研究科の学生募集停止にあたって』(プレスリリース)広島修道大学、2014年5月27日 。2014年6月4日閲覧。
- ^ 『獨協大学法科大学院の学生募集停止について』(プレスリリース)獨協大学、2014年6月17日 。2014年6月29日閲覧。
- ^ 『白鷗大学院法務研究科(法科大学院)の学生募集停止について』(プレスリリース)白鷗大学、2014年6月26日 。2014年6月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 中教審法科大学院特別委員会H29.5.17資料
- ^ 中教審法科大学院特別委員会H30.5.14資料
- ^ 「青山学院大学法務研究科の学生募集停止について」青山学院大学
- ^ 横浜国立大19年度に募集停止」神奈川新聞2018年6月5日
- ^ 「横浜国立大法科大学院の募集停止 19年度から」毎日新聞2018年6月5日
- 法科大学院のページへのリンク