法科大学院
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LL.M.コースなどを除き、法科大学院を修了すると、新司法試験の受験資格と「法務博士(専門職)」の専門職学位が与えられる。アメリカ合衆国のロー・スクールをモデルとした制度であることからロー・スクール(Law School, School of Law)と通称される。
大学院法学研究科の専攻部門ではなく、大学院法務研究科や高等司法研究科など独立した研究科として設置されている場合が多い。既存の研究科の専攻の一つとして設置している大学もある。
概説
法科大学院は「専門職大学院であって、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするもの」と、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律 第2条第1項」が定めている。法科大学院制度は、2004年(平成16年)4月に創設された。
法科大学院の課程の標準修業年限は、3年である。ただし、入学試験で各法科大学院で法学既修者の水準にあると認められた場合、2年とすることもできる(専門職大学院設置基準)。一般に、3年の課程を法学未修者課程、2年の課程を法学既修者課程という。
修了要件は、93単位以上の単位の修得である(専門職大学院設置基準)。修了者は、新司法試験の受験資格及び「法務博士(専門職)」の専門職学位を取得する(学位規則)。「既修」の課程(2年間)であっても、飽くまで標準修業年限は3年であるため、「法務博士(専門職)」となる。
かつての法科大学院修了者は、新司法試験の受験が5年以内に3回と制限されていた。2014年(平成26年)5月に改正司法試験法が成立して2015年から受験回数制限は撤廃されたが、修了後5年までとする制限が残存して事実上受験は5回までとなる。5回で新司法試験に合格しなかった場合、再度新司法試験を受験するためには、再度法科大学院に入学し修了するか、司法試験予備試験に合格して別途の受験資格を充足する必要がある(司法試験法第4条)。
2011年(平成23年)から実施されている予備試験(司法試験法第5条)に合格した者は、法科大学院修了者と同等の資格・条件で新司法試験を受験することができる。
2017年(平成29年)に、京都大学大学院法学研究科、慶應義塾大学大学院法務研究科、神戸大学大学院法学研究科、中央大学大学院法務研究科、東京大学大学院法学政治学研究科、一橋大学大学院法学研究科、早稲田大学大学院法務研究科の東西7校が連携し、先導的法科大学院懇談会(LL7)を設立し、トップスクールの広報活動や法曹養成教育あり方の検討などにあたっている[1][2]。
法学部と直結した大学院の研究科は「法学研究科」であり、法科大学院は専門職大学院であるため、法学部と直結した関係とは言えない。
歴史
導入の経緯
法曹の質を維持しつつ、法曹人口拡大の要請に応える新しい法曹養成制度として導入された。従来の司法試験は、受験生が司法試験予備校に依存して受験技術を優先した勉強にで合格することが増えたとされ、受験のみに卓越した合格者の増加は法曹の質的低下につながると判断し、従来の大学における法学教育よりも法曹養成に特化した教育を行い、将来の法曹需要増大に対して量的質的に十分な法曹を確保する目的[3]で、導入された。
導入過程における問題点
司法試験予備校に対する認識
法科大学院制度は、司法試験予備校の弊害を指摘して導入された。
司法制度改革審議会会長で近畿大学教授の佐藤幸治は平成13年6月20日の衆議院法務委員会で、枝野幸男委員の「受験予備校等の実態についてどれほど調べたのか」の問いに、「(予備校が)実際にどういう実情にあるかというのは、私はつまびらかにはしませんけれども、私の関係した学生やいろいろなものを通じて、どういう教育の仕方になっておってどうかということは、ある程度は私個人としては承知しているつもりであります。」と答弁した[4]。枝野は「つまり、十分に御存じになっていなくてこういう結論を出しているわけですよ」として、法曹養成を審議する委員に予備校関係者が加わっていないことを指摘し、司法試験予備校の弊害を客観的に検証したか否かに疑問を呈している。財団法人日弁連法務研究財団が開催した「次世代法曹教育の調査研究とフォーラム」で若手弁護士らも同様の疑問を呈している[5]。
法曹需要増大の真偽
政府は2002年3月に閣議決定した「司法制度改革推進計画」で、新司法試験の合格者数を2010年頃に3,000人程度とすることを目指す、とした[6]。内閣府規制改革・民間開放推進会議の規制見直し基準ワーキンググループは2005年7月4日の第16回会議で、新司法試験の合格者数を9,000人まで増加させるべきである、と提案した[7]。実社会で弁理士や司法書士、税理士、社会保険労務士、行政書士が弁護士と一部業務が重複しているが、隣接業種を含めた法律家の需要について具体的な議論や検証が十分でないと批判があり[8]、法曹人口も法科大学院の定数も国民、学生不在の単なる数合せにすぎないとする向きもある[9]。
2006年12月1日現在の弁護士会登録人数は23,000名余だが、司法書士、弁理士等の隣接法律関連資格者数も広義の法曹に含めるべきであるとの意見も根強い。欧米諸国で司法書士等にあたる者はNotary(公証人)やSolicitor(事務弁護士)として法曹として扱われ、日本の弁護士の業務は、英国等における狭義の法廷弁護士(バリスター)が担当する業務に相当する。
司法制度改革審議会で司法制度改革と法曹養成制度に関する多くの慎重派の意見は省みられることなく、法科大学院制度は佐藤と中坊公平の主導による導入ありきの姿勢だった、と批判がある[10]。
法科大学院の設置目的は、受験予備校を悪と扱い、ロースクールの導入で新たな利権となる学者ポストの確保[11]である、と邪推する者もみられる。
政府・与党による弥縫策
法科大学院離れや予備試験人気が進んでいることを受けて、2018年に金田勝年前法務大臣や弁護士の大口善徳公明党国会対策委員長ら「法曹養成制度に関する与党検討会」は、「学校教育法を改正し法学部を3年で卒業できる法曹コースを導入することや、法科大学院在学中からの司法試験受験を可能にすることを、2019年度までにすべき」と緊急提言した[12]。
- ^ 現実に、制度がスタートした2004年5月には、島根大学において学部レベルの法律学担当教員不足が文部科学省から指摘されて発覚するという不祥事が発生している。
- ^ a b 予定を含む。
- ^ 桐蔭法科大学院に統合。
- ^ 内訳は、
- 法学既修者コースが2,179人(37.7%)、法学未修者コースが3,605人(62.8%)。
- 社会人が、既修コースに718人、未修コースに1,207人、合計1,925人。
- 出身学部別では、
- 法学系学部は既修コースに1,868人、未修コースに2,282人、合計 4,150人。
- 文系(法学系以外)は既修コース246人、未修コース892人、合計1,138人。
- 理系は既修コース34人、未修コース292人、合計326人。
- その他が既修コース 31人、未修コース139人、合計170人。
- ^ 入学定員に関しては、平成18年度当時、
- 国立 23大学 1,760人
- 公立 2大学 140人
- 私立 40大学 3,925人
- 合計 65大学 5,825人
- ^ 「慶應義塾大法科大学院」p3, 慶應義塾大学大学院法務研究科 2018年
- ^ 「LL7とは」先導的法科大学院懇談会
- ^ 外部リンク webcache.googleusercontent.comからのアーカイブ、10 Jan 2018 06:24:19 UTC
- ^ 第151回国会法務委員会第20号 平成13年6月20日(水曜日)
- ^ a b 『次世代法曹教育の調査研究とフォーラムに出席して』 東京大学法学部教授 高橋宏志
- ^ 「司法制度改革推進計画」(平成14年3月19日閣議決定)
- ^ 規制改革・民間開放推進会議第6回規制見直し基準ワーキンググループ議事資料「法曹人口の拡大等に関する問題意識」
- ^ 2009年2月26日 読売新聞教育ルネサンス(10)「同志社大法科大学院教授コリン・ジョーンズさんに聞く」
- ^ 2009年2月28日 読売新聞教育ルネサンス(12)「理想の司法 議論続く」
- ^ 河井克行「司法の崩壊」(PHP研究所、2008年)49 頁 ISBN 978-4-569-70313-8
- ^ a b 河井克行「司法の崩壊」(PHP研究所、2008年)79 頁
- ^ 「法学部「3年卒」検討 法科大学院「失敗」に危機感」毎日新聞2018年5月18日
- ^ 司法試験三振...。諦めるのはまだ早い!三振後の進路とは|MS Agent by MS-Japan 2022年6月閲覧
- ^ a b 管理部門の転職支援 法学博士と法務博士の違いとは?|MS Agent by MS-Japan 2022年6月閲覧
- ^ 例えば、早稲田大学2016年博士後期課程9月入学入試出願資格では、修士、修士(専門職)、法務博士(専門職)の学位を有する者又は得る見込のある者は、博士後期課程に出願する資格があるとして、同列に扱う。
- ^ 「法務博士は取得学位が博士号であると誤解されたとしてもその誤解を解く必要はないのか?」2016年08月30日|弁護士ドットコム
- ^ 資料3 大学院修士課程と専門職大学院との制度比較|文部科学省
- ^ 姫路独協大:来年度入試、法科大学院合格ゼロ 厳格化方針に従い 毎日新聞 2010年2月9日
- ^ 本学の法科大学院法務研究科の学生募集停止について 姫路獨協大学 2010年5月27日
- ^ a b 『司法制度改革「法曹養成制度」に関するコメント』 日本経団連 2002年6月7日
- ^ 参照:愛知県弁護士会会報「SOPHIA」平成19年11月号[1]
- ^ 2009年2月21日 読売新聞教育ルネサンス(8)「答案練習予備校頼み」
- ^ 2009年2月20日 読売新聞教育ルネサンス(7)「授業と試験対策にズレ」
- ^ 司法試験管理委員会「平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見」
- ^ 新第60期司法修習生考試における不可答案の概要
- ^ 2009年2月11日 読売新聞教育ルネサンス(1)「理想の教育合格率の現実」
- ^ 毎日新聞2008年9月10日
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- ^ a b 「法科大学院の撤退止まらず 国立、有名私大で募集停止」東京新聞2017年8月15日
- ^ 「苦境の法科大学院「採算取れる学校、ほとんどないはず」」朝日新聞デジタル2017年7月31日08時39分
- ^ [2]産経WEST
- ^ 2009年2月25日 読売新聞教育ルネサンス(9)「修了者増え 就職厳しく」
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- ^ 各法科大学院の改善状況に係る調査結果 (PDF) 、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会第3ワーキンググループ、2012年3月7日
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