核分裂反応 核分裂生成物

核分裂反応

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/22 09:55 UTC 版)

核分裂生成物

原子力発電所におけるウラン235とプルトニウム239、およびトリウム燃料サイクルにおけるウラン233の核分裂生成物の収率のグラフ。横軸が質量数、縦軸が収率。赤がウラン235の収率、青がプルトニウム239の収率、緑がウラン233の収率である。

核分裂の過程で原子核が分裂してできた核種を核分裂生成物という。核分裂片ともいう。分裂するときに魔法数に近い安定な原子核になろうとするため通常二等分になることはなく、質量数140程度と95程度の核に分裂することが多い。

核分裂生成物がどの核種になるかはある確率で決まる。この確率を収率という。核分裂する核種によって異なる収率分布をもっているので、核分裂生成物を分析すれば核反応を起こした親核種が判る。 例えばウラン235が核分裂を起こした場合その核分裂生成物は80種類程度生じ、質量数は72から160と広範囲に分布している。これらは質量数90と140付近のピークを中心として鞍型の分布をなしている。

核分裂生成物は様々な核種の混合物であるが、総じて陽子数と中性子数との均衡を欠いており放射能を持つ。これらの放射性同位体は、陽子と中性子の均衡が保てるところまで壊変(主にベータ崩壊)を繰り返す。 核分裂生成物の中には中性子を吸収すると比較的安定な核種になる物質が含まれる。このような物質は、原子炉に蓄積して核分裂連鎖反応を阻害するため、毒に例えて中性子毒あるいは単に毒物質と呼ばれる。原子炉を停止したり出力を変えた場合、放射性の毒物質の存在量は時間とともに変化するため、原子炉の挙動を不安定にする要因となる。

これらの崩壊速度は様々で、数秒から数ヶ月でほぼ崩壊しつくす短寿命の核種、100年単位の中寿命の核種、そして半減期すら20万年を超える長寿命の核種が知られている。放射性物質は基本的には寿命が短いほど少量でも放射能が強いものの短期間ですぐに減衰するが、逆に長寿命であれば放射能は少量ならば弱い(大量にあれば当然強い)が、時間が経ってもなかなか減らないという性質を持っている(比放射能も参照)。

短・中寿命核種は盛んに放射線を放って崩壊するため少量でも放射能が大きく、例えば1945年原子爆弾の被害を受けた広島市長崎市では、被爆者だけでなく家族や知人の行方を捜すため爆心地周辺に後日立ち入った人々が重篤な放射線障害を受けた原因となっている。

一方、長寿命核種は放射能は小さいが寿命が数万年以上に達するものもあり、大量に存在すると人間社会の尺度では半永久的に放射線を放ち続けることになる。このことは原子炉の使用済み核燃料の処分において重大な課題であり、ガラス固化体に加工したのちに地中深くに保管する地層処分などの手段が検討されている。

このように多数の核種から構成されている核分裂生成物であるが、核分裂が起こってからt分経過した後の全ての核分裂生成物の合計の放射能の強さの減衰は一定であり、

で与えられる。ここでA0t = 0 つまり核分裂が起こった時点の放射能の強さ、αは定数であり1.2である[10]

核分裂収率の一覧

以下では熱中性子によるウラン235およびプルトニウム239のおもな核分裂生成物の表を与える[11]。軽水炉等では熱中性子により核分裂を起こすため、原子力事故等で放出される核種は熱中性子による核分裂生成物となる。高速中性子による核分裂での収率は異なるため、高速増殖炉の事故や原子爆弾の爆発などでは、核分裂生成物の収率は異なる。

ウラン235・プルトニウム239の熱中性子による核分裂で生じる主な核分裂生成物
生成物 ウラン235の収率 プルトニウム239の収率 半減期 備考
セシウム133 6.70% 7.02% 安定 一部は中性子捕獲により半減期約2年のセシウム134になる
ヨウ素135 6.28% 6.54% 6.57h 崩壊で生成するキセノン135は原子炉でもっとも主要な毒物質で10-50%が中性子捕獲によりキセノン136になり、残りは半減期9.14hでセシウム135になる。
ジルコニウム93 6.30% 3.80% 1.53My
セシウム137 6.19% 6.61% 30.17y
テクネチウム99 6.05% N/A 211ky
ストロンチウム89 4.73% 1.72% 50.53d
ストロンチウム90 5.75% 2.10% 28.9y
ヨウ素131 2.83% 3.86% 8.02d
プロメチウム147 2.27% N/A 2.62y
サマリウム149 1.09% 1.22% 安定 主要な毒物質のひとつ
ヨウ素129 0.543% 1.37% 15.7My
キセノン133 6.70% 7.02% 5.2475d

注釈

  1. ^ 核分裂反応は確率的に起こるため、他の核種を生成することもあり、反応はあくまで一例にすぎない。
  2. ^ 実際の反応ではウラン235だけでなく核分裂生成物による二次的な核反応等が複数起きるため、必ずしもこの通りの値にはならない。

出典

  1. ^ 小田稔ほか編、『理化学英和辞典』、研究社、1998年、項目「nuclear fission」より。ISBN 978-4-7674-3456-8
  2. ^ 三澤毅ほか、『原子炉物理実験』付録1A「原子炉物理の基礎知識」より。京都大学学術出版会 ISBN 978-4-87698-977-5
  3. ^ 山本義隆『新・物理入門 増補改訂版』駿台文庫、2004年、319頁。ISBN 978-4-7961-1618-3  C7342
  4. ^ 2017年度の家庭のエネルギー事情を知る ~家庭でのエネルギー消費量について~”. 環境省. 2021年4月29日閲覧。
  5. ^ E. Rutherford (1911). “The scattering of α and β particles by matter and the structure of the atom”. Philosophical Magazine 21 (4): 669–688. Bibcode2012PMag...92..379R. doi:10.1080/14786435.2011.617037. http://web.ihep.su/dbserv/compas/src/rutherford11/eng.pdf. 
  6. ^ Cockcroft and Walton split lithium with high energy protons April 1932”. Outreach.phy.cam.ac.uk (1932年4月14日). 2012年9月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月4日閲覧。
  7. ^ Chadwick announced his initial findings in: J. Chadwick (1932). “Possible Existence of a Neutron”. Nature 129 (3252): 312. Bibcode1932Natur.129Q.312C. doi:10.1038/129312a0. http://web.mit.edu/22.54/resources/Chadwick.pdf.  Subsequently he communicated his findings in more detail in: Chadwick, J. (1932). “The existence of a neutron”. Proceedings of the Royal Society A 136 (830): 692–708. Bibcode1932RSPSA.136..692C. doi:10.1098/rspa.1932.0112. http://www.chemteam.info/Chem-History/Chadwick-1932/Chadwick-neutron.html. ; and Chadwick, J. (1933). “The Bakerian Lecture: The neutron”. Proceedings of the Royal Society A 142 (846): 1–25. Bibcode1933RSPSA.142....1C. doi:10.1098/rspa.1933.0152. 
  8. ^ E. Fermi, E. Amaldi, O. D'Agostino, F. Rasetti, and E. Segrè (1934) "Radioattività provocata da bombardamento di neutroni III," La Ricerca Scientifica, vol. 5, no. 1, pages 452–453.
  9. ^ Richard Rhodes (1986). The Making of the Atomic Bomb, Simon and Schuster, pp. 267–270, ISBN 0-671-44133-7.
  10. ^ Hunter, H F, and Ballou, N E. FISSION-PRODUCT DECAY RATES. N. p., 1951. Web.
  11. ^ 日本アイソトープ協会 編『アイソトープ手帳11版』丸善、2011年、126-127頁。ISBN 978-4-89073-211-1 


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