出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 13:41 UTC 版)
概要
接ベクトル空間は、多様体上の点ごとに定義されるベクトル空間である。接ベクトル空間の元を接ベクトルという。全ての点で接ベクトルが定まっているとベクトル場というものが定義できる。ベクトル場は多様体の形を調べたり、多様体上の粒子の運動を調べたりするのに非常に役立つ概念である。物理学でいえば電磁場や重力場などを記述でき、そのベクトル場の中に置かれた粒子はその点での接ベクトルの向いている方向に沿って移動していく。本項目で扱うのは、そのベクトル場の基礎となるある 1 点の上の接ベクトル空間である。
1 ≤ r ≤ ∞ とする。 m 次元 Cr 級多様体 M と、その中の Cr 級曲線
を考え ϕ(0) = p ∈ M とする。
p を含む座標近傍 (U; x1, …, xm) において ϕ(t) = (x1(t), …, xm(t)) を t で微分して、t = 0 を代入することにより曲線 ϕ の点 p での速度ベクトル
が求まる。 この速度ベクトルの成分は、座標近傍の局所座標系の表し方に依存する表示になっている。多様体の性質を調べる際には、局所座標系の取り方に依存しない性質を扱いたいという要請があるので、この速度ベクトルは多様体の性質を調べるのには不向きである。そこで M 上で定義された Cr 級関数
を利用することを考える。 f は 座標近傍 (U; x1, …, xm) においては、 m 変数の関数 f (x1, …, xm) として書かれている。この f を曲線 ϕ 上で調べる。 f(ϕ(t)) は局所座標系に寄らない関数
であり、これを t で微分した
もまた局所座標系に依存しない。
ところで f(x1(t), …, xm(t)) という表示にして t で微分してみれば、多変数関数の合成関数の微分 として連鎖律の公式から
となる。
先程の速度ベクトルの式と比べてみるとこれは、速度ベクトルと f の勾配
の内積と見ることができる。
つまり、速度ベクトルと f の勾配を組み合わせることによって、局所座標系に依存しないものが得られることになる。ここで、 f は M 上の Cr 級関数であり、定数関数かもしれないし、 x1 だけを変数にとるといったような必ずしも多様体 M の性質を反映しない関数かもしれないということを考えると先程の式は
のように関数 f とそれに作用する作用素とに分け、この作用素を接ベクトルと定義するのである。
すなわち、局所座標系に依存しない速度ベクトルのようなものを探し求めた結果
という形をした微分作用素の一次結合(接ベクトル)を用いることで解決できる事が分かる。この接ベクトルの全体を接ベクトル空間という。
- 作用素をベクトルと呼ぶために、少し抽象的でわかりにくい話になるが、そういう場合は関数 f に具体的な形をいくつか与えてみて多様体の形を感じ取るのがよい。