予防接種法 予防接種法の概要

予防接種法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/02 04:28 UTC 版)

予防接種法

日本の法令
法令番号 昭和23年法律第68号
種類 医事法
効力 現行法[1]
成立 1948年6月28日
公布 1948年6月30日
施行 1948年7月1日
主な内容 予防接種について
関連法令 感染症法地域保健法など
条文リンク 予防接種法 - e-Gov法令検索
ウィキソース原文
テンプレートを表示
世界の予防接種制度英語版
  接種義務国
  接種勧奨国
  義務ではないが進学時に接種証明が必要
  未確認

予防接種には「定期接種」、「臨時接種」[2]、および「任意接種」[3]の3種類があり、このうち前二者(定期および臨時)が予防接種法とその関連法令で規定されている[3]。2020年1月現在、予防接種法および関連法令が定める予防接種の対象(以下「法定接種」と表記)は、A類疾病として14の感染症が、また接種努力義務がないB類疾病として2の感染症が定義されている[注 2]。これら法定接種の多くが乳幼児や児童を対象としており[3]、予防接種した者は、国・地方自治体からの全部あるいは一部費用補助が受けられる[5][6]。また法定接種によって副作用が生じた際には、予防接種法を根拠として被害者と家族に損害補償される健康被害救済制度が運用されている[7][5]

予防接種が奏功して、日本における感染症の罹患者・死亡者数は1960年代以降に減少したものの[8]、その一方で予防接種による副作用も一部で見られ、国への損害賠償請求や合憲性を問う訴訟も複数件起こっている[9][10]。このような社会背景を受け、1948年成立当初の予防接種法は「罰則規定ありの義務接種」であったが、1976年には義務接種は維持しつつも罰則規定が外されると同時に、健康被害救済制度が整備された。1994年にはさらに強制力が緩和されて、定期接種は「努力義務」に改正されている[8]。この反動で各種接種率が年々低下し、感染症のぶり返し流行が問題となっている[11]。また世界の先進国と比較して、日本は新規ワクチンや混合ワクチンの導入が遅れる傾向にあることから、この問題は批判的に「ワクチン・ギャップ」とも呼ばれている[12][13]

現在の予防接種法は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(1998年制定、旧・伝染病予防法結核予防法などを統合)と補完関係にある[注 3]。感染症法は、罹患(またはその恐れのある)者に対して検査や入院勧告、就業制限などを課す施策の法的根拠となっている一方、予防接種法はこのような感染症が社会に広がらぬよう、予防の観点から制定されている[注 4]


注釈

  1. ^ a b 第1次改正: 1951年(昭和26年)、第2次改正: 1958年(昭和33年)、第3次改正: 1961年(昭和36年)、第4次改正: 1964年(昭和39年)、第5次改正: 2001年(平成13年)、第6次改正: 2013年(平成25年)。これら以外にも技術的改正が複数回発生している[1]
  2. ^ 内訳であるが、予防接種法 第2条にて、A類疾病が11、B類疾病が1[2]。内閣が制定する政令である予防接種法施行令の第1条にて、予防接種法とは別にA類疾病が3、B類疾病が1[4]
  3. ^ たとえば予防接種法 第4条第3項(個別予防接種推進指針)は、感染症法を法参照している[14]。予防接種法の前身としては種痘法(1909年制定・1948年廃止)が過去には存在したほか[15]伝染病予防法(1897年制定・1998年廃止)[16]結核予防法(1951年制定・2007年廃止)[17]といった関連法も予防接種法と一時期併存していた。伝染病予防法や結核予防法はその後、感染症法(1998年制定・現行法)に統合されている[1][18]
  4. ^ 予防接種法がA類疾病として規定している結核を例にとると、結核予防法が2007年に廃止され、その内容の多くが感染症法に統合されたものの、予防の観点のみ予防接種法に吸収される形で統廃合がなされた[18]
  5. ^ A類疾病のみ死亡一時金が、B類疾病のみ遺族年金又は遺族一時金が用いられ、その他はA類とB類共通[20]
  6. ^ 「予防接種禍事件」[22]とも呼ばれる。また、1991年(平成3年)4月19日の最高裁判決では二審の札幌高裁に差し戻す判決を下しており[23]、これを「予防接種禍集団訴訟」と呼ぶこともある[24]
  7. ^ 社会法典の内容については、正井章筰『ドイツの社会保障制度― 改革と現実―』(早法 86巻4号(2011))などが詳しい。

出典

  1. ^ a b c 予防接種法(昭和23年6月30日法律第68号)”. 日本法令索引. 国立国会図書館. 2020年2月9日閲覧。 “「成立年月日:昭和23年6月28日、公布年月日:昭和23年6月30日、効力:有効」”
  2. ^ a b c d e f 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第2条: 定義”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2013年11月27日). 2020年2月10日閲覧。 “薬事法等の一部を改正する法律(平成25年11月27日法律第84号)に基づく予防接種法改正版を閲覧”
  3. ^ a b c d e f g 日本小児科学会 2018, p. 1.
  4. ^ a b c d e f g 予防接種法施行令(昭和二十三年政令第百九十七号)第1条: 政令で定めるA類疾病、第1条の2: 政令で定めるB類疾病、第1条の3: 市町村長が予防接種を行う疾病及びその対象者”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2018年3月30日). 2019年10月29日閲覧。 “平成三十年政令第百六号改正、2018年4月1日施行分を閲覧”
  5. ^ a b c 日本小児科学会 2018, p. 2.
  6. ^ a b 予防接種とは?”. 公益社団法人 東京医師会. 2020年2月10日閲覧。
  7. ^ a b 予防接種健康被害救済制度”. 厚生労働省 (2019年10月1日). 2020年2月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月9日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g PhRMA 2014, p. 14.
  9. ^ a b c 高木 1986, pp. 71–72.
  10. ^ PMRJ 2016, p. 284.
  11. ^ PhRMA 2014, pp. 15, 17.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l 齋藤昭彦(新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野 教授) (2014-01-06). “過去・現在・未来で読み解く,日本の予防接種制度”. 週刊医学界新聞 (医学書院) (3058). https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03058_02. 
  13. ^ a b c d e PhRMA 2014, p. 17.
  14. ^ 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第4条: 個別予防接種推進指針”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2013年11月27日). 2020年2月10日閲覧。 “薬事法等の一部を改正する法律(平成25年11月27日法律第84号)に基づく予防接種法改正版を閲覧”
  15. ^ a b 種痘法(明治42年4月14日法律第35号)”. 日本法令索引. 国立国会図書館. 2020年2月9日閲覧。 “「成立年月日:明治42年3月20日、公布年月日:明治42年4月14日、効力:効力なし、廃止:昭和23年6月30日法律第68号」”
  16. ^ a b 伝染病予防法(明治30年4月1日法律第36号)”. 日本法令索引. 国立国会図書館. 2020年2月9日閲覧。 “「成立年月日:明治30年3月24日、公布年月日:明治30年4月1日、効力:効力なし、廃止: 平成10年10月2日法律第114号」”
  17. ^ a b 結核予防法(昭和26年3月31日法律第96号)”. 日本法令索引. 国立国会図書館. 2020年2月9日閲覧。 “「成立年月日:昭和26年3月31日、公布年月日:昭和26年3月31日、効力:効力なし、廃止: 平成18年12月8日号外 法律第106号〔施行平成一九年四月一日〕 」”
  18. ^ a b 日本結核病学会用語辞典 2019, p. 126.
  19. ^ 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2013年11月27日). 2020年2月10日閲覧。 “薬事法等の一部を改正する法律(平成25年11月27日法律第84号)に基づく予防接種法改正版を閲覧”
  20. ^ 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第16条: 給付の範囲”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2013年11月27日). 2020年2月10日閲覧。 “薬事法等の一部を改正する法律(平成25年11月27日法律第84号)に基づく予防接種法改正版を閲覧”
  21. ^ 新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領” (PDF). 厚生労働省. 2021年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月17日閲覧。
  22. ^ 高木 1986, p. 71.
  23. ^ 検索結果詳細画面 | 最高裁判例 事件番号 昭和61(オ)1493、裁判年月日 平成3年4月19日、民集 第45巻4号367頁”. 日本国裁判所. 2020年2月12日閲覧。
  24. ^ IPSS 2015, p. 4.
  25. ^ PhRMA 2014, p. 15.
  26. ^ 菅谷 2002, pp. 9–10.
  27. ^ IPSS 2015, p. 6.
  28. ^ a b IPSS 2015, p. 13.
  29. ^ IPSS 2015, pp. 6, 10–11.
  30. ^ IPSS 2015, pp. 6, 8.
  31. ^ IPSS 2015, p. 11.
  32. ^ IPSS 2015, p. 17.
  33. ^ IPSS 2015, p. 9.
  34. ^ Sheikh et al. 2018, p. 4979.
  35. ^ IPSS 2015, p. 26.
  36. ^ a b IPSS 2015, pp. 26–27.
  37. ^ a b IPSS 2015, p. 29.
  38. ^ Sheikh et al. 2018, p. 4986.


「予防接種法」の続きの解説一覧




予防接種法と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「予防接種法」の関連用語

予防接種法のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



予防接種法のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの予防接種法 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS