レンズ付きフィルム 構造

レンズ付きフィルム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/03 23:37 UTC 版)

構造

筐体・内部構造共々大部分がプラスチックで製作されている。カメラとしては、ごく簡易な固定焦点式がほとんどで、シャッタースピードも固定されている。露出調整は機械的な調整によらず、ネガフィルムそのものの広いラティチュードに頼り、絞りもあらかじめ絞られて(F11 - 16程度)固定焦点によりピント調節を省略している。このため、ユーザーは最小限のカメラ操作で簡単に写真を撮影することができる。

フィルムは一般的な市販品でも高感度寄りのISO400規格のものが多く用いられる。ISO400以上の高感度フィルムは、かつてポピュラーだったISO100クラスのフィルムに比べてシャッタースピードを速くできる優位があるが、反面、フィルム粒子の関係で画質が粗い傾向があった。しかし1980年代には技術・品質の向上により、画質のザラツキ感がさほど感じられないようになった。これにより、焦点固定・シャッター速度固定のカメラでも、手ぶれや露光不足などの問題を伴わずに満足しうる質の写真を撮影できるようになった。

また、同じ頃にプラスチックレンズの品質が向上し、なおかつ低コストで量産できるようになった。高価なガラスレンズを用いることなく、射出成型技術で生産できるプラスチックレンズで機能を満たせるようになったことは重要なブレークスルーである。さらに像面湾曲によるアウトフォーカスボケ軽減のため、ミノックスなどで知られる手法であるが、フィルム面を意図的に湾曲させる技法も導入されるようになった。

装填されたフィルムは、工場での装填時にパトローネから全部引き出された状態でスプロケットに巻かれており、パトローネ中に巻き戻しながら使う方式である。このため、ユーザーによるフィルムの動作方向は巻き上げ一方向のみとなり、撮影済み分のパトローネ収納と相まって簡易化・フィルム保護を同時に実現している。

フィルムの巻き上げは撮影1枚ごとに指の腹でダイヤルを回転させる手動式[注 1]で、使い切り式であるためフィルムの自在な巻き戻しや交換はできず、裏蓋もない。ただし、紙製の外装の下にはフィルムや電池の取出し口が存在する。

1群1枚のレンズであるが、非球面メニスカスレンズにすることで収差を抑えている。2群2枚としたものもある。

切替でピント・絞り・シャッター速度などを変更できる(だいたいこれらのどれかで、2種類のうちどちらかを選ぶ)製品も登場しているほか、フォトレジスタ式の光センサーを搭載して絞りを自動で行うものも登場している。

初期の製品は、フィルムの遮光に一般のカメラ同様モルトを使用していたが、1980年代後半よりモルトは不要になった。従来は高級なカメラでしか見られなかったような、壁が互い違いに高精度で重なる構造による遮光が、プラスチック部品の射出成型技術などの向上により安価にできるようになったためである。なおこの技術はコンパクトカメラでも大いに活用された。


注釈

  1. ^ 感覚的にはオリンパス・ペンなどに似ているが、ペンの巻き上げホイールはスプロケットギヤを駆動しているのに対し、「写ルンです」などの構造は単に巻き取り軸を回しているだけで別物である(カチカチと鳴るのは逆転防止ラッチ)。機構的にはペンよりリコーオートハーフに近い。
  2. ^ ただし、コダックEasy35 など宣伝広告上で「使いすて」の文言を使用した製品も存在する。
  3. ^ 2006年コニカミノルタが写真事業から撤退したことからDNPフォトマーケティング→DNPフォトルシオに事業継承され、海外メーカーのOEMによる「Torikkiri」シリーズとして引き継がれた。
  4. ^ 本物のパノラマではなく、25mm程度の広角レンズと、フィルムのコマの上下をカバーで覆って撮り、割増料金なしで幅広プリントのサービスが得られる、というもの。これは富士ではなくコダックがレンズ付きフィルムで先行し、コンパクトカメラにも広がるブームとなった。
  5. ^ ライカ判で焦点距離16mmという、超広角レンズが手軽に買えるとしてマニアの間では密かな人気機種であったが、メーカーはあえてそういう方向性の宣伝は避けていた。
  6. ^ 特に記念写真などで大人数を写す場合、全員をフレームに収めようとするとどうしても撮影者は後ろへ下がる必要があり、フラッシュ光が届かなくなりやすい。
  7. ^ 近年の製品では、夜景撮影時には絞りを開くといった機構を組み込むなどの露光不足対策が進み、露光不足を起こしにくくなった。
  8. ^ 後述のように通常の市販製品の乾電池のそれよりは少容量なのだが、それでも十分な余裕がある。マンガン電池としないのは容量だけでなく特性の問題がある。
  9. ^ 近年、一部のコンビニエンスストアでは、デジタルカメラ用のメディアや充電池代替となる乾電池を販売している店もあるが、多種多様なメディア種別・電池種別に対応できているわけではない。スーパーマーケットやホームセンターでも同様である。
  10. ^ 2009年シスコシステムズに買収された。
  11. ^ のちに発展し、Flip Video英語版として展開された。シスコ買収後の2011年に事業閉鎖され、展開終了。

出典

  1. ^ a b c 未来技術遺産登録記念「レンズ付フィルム展」”. 日本カメラ博物館. 日本カメラ財団. 2020年7月25日閲覧。
  2. ^ The First Disposable Camera”. 2016年6月22日閲覧。
  3. ^ a b c 月刊「家電批評」2017年4月号53ページ
  4. ^ みんなが海外旅行に持っていくカメラ! - モベルコミュニケーションズリミテッド 日本支店(2011年9月15日)
  5. ^ 旅行に持って行きたい使い捨てカメラ4選 - TABIPPO.NET(2017年9月24日)
  6. ^ カメラを持って海外旅行へ!持ち運びの注意点と目的別おすすめカメラ7選 - ガイドブックのような旅行お役立ちサイト IMATABI(株式会社VOYAGE MARKETING)
  7. ^ 健在「写ルンです」30歳…若者のおしゃれアイテム? - 読売新聞(2016年4月4日)
  8. ^ 石川直樹「いつでもどこでも写ルンです」展、“写ルンです”だから撮れた旅の記録 - IMA(2017年8月9日)
  9. ^ 第二回 レンズ付きフィルム - 石川直樹【ぼくの道具】
  10. ^ FUJIFILM SQUARE 開館10周年記念写真展 石川直樹 写真展「いつでもどこでも写ルンです」(2017年8月11日から24日に開催)
  11. ^ 八木山で 写真を撮ろう 現像しよう 八木山放送局Net(東北記録映画社) 2011年08月10日
  12. ^ “レンズ付きフラッシュメモリ”──三洋,旭光学らが使い切りデジカメをテスト販売”. ITmedia (2001年10月9日). 2020年7月25日閲覧。
  13. ^ 「3社共同でリユースデジカメ事業を試行」『日経デザイン』第173号、日経BP、2001年11月、29頁、ISSN 0913-3429 
  14. ^ a b Miyake, Kuriko (2001年10月11日). “Digital cameras go disposable” (英語). CNN.com. ワーナーメディア. 2020年7月30日閲覧。
  15. ^ 使い切り型デジタルカメラ「撮ってもEG」でデータ保存が可能に”. PC Watch. インプレス (2001年12月12日). 2020年7月25日閲覧。
  16. ^ AV・デジタル家電:『撮ってもEG(イージー)』(旭光学工業株式会社・アルテック株式会社・三洋電機株式会社)”. CNET Japan. NTTPCコミュニケーションズ. 2002年4月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月30日閲覧。
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  20. ^ a b 塩田紳二 (2004年10月15日). “【レポート】世界初の液晶付き使い切りデジカメ試用レポート”. デジカメ Watch. インプレス. 2020年7月25日閲覧。
  21. ^ Graham, Jefferson (2004年8月19日). “A disposable digital camera enters the market at $19.99” (英語). USA Today. https://www.usatoday.com/tech/news/2004-08-18-puredigital_x.htm 2020年7月26日閲覧。 
  22. ^ “使い切り”デジタルビデオカメラが登場”. ITmedia (2005年6月7日). 2020年7月25日閲覧。
  23. ^ 「使い切りデジカメ」先行販売 プラザクリエイト”. ITmedia (2008年8月13日). 2020年7月25日閲覧。
  24. ^ 「使い切りデジカメ」、初日でほぼ完売-次回は全国展開視野に”. 市ケ谷経済新聞. コムブリッジ (2008年9月3日). 2020年7月25日閲覧。
  25. ^ Oliver, Dave (2012年11月16日). “VistaQuest VQ10 disposable digital camera review” (英語). WIRED UK. Condé Nast Britain. 2020年7月30日閲覧。





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