マッドサイエンティスト 歴史

マッドサイエンティスト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 13:26 UTC 版)

歴史

ゲーテ作 「魔法使いの弟子」の挿絵

マッドサイエンティストのステレオタイプは、19世紀の文学作品において科学の危険性あるいは、科学への恐怖を表現するために作り出された。

近代まで宗教下において管理され、行使されてきた科学的技術が、その管理と無関係に、しかも急速に発達していく中、見慣れない新しい人工物を社会にもたらし、社会生活や伝統的価値観を変容させていくことに対して大衆が持つ不安や不快感を、人間の姿を借りて擬人化したものと言える。いわば科学進歩と宗教やモラルの論争が、初期ステレオタイプの特徴である。

前史

神話に見られるマッドサイエンティストとしては、古代ギリシアの神話のプロメテウスが知られる。彼は、現在のフィクションの登場人物のように風変わりではないものの全知全能の神ゼウスに挑戦するという常軌を逸した人物として描写される。また後世の神を出し抜こうとした知恵者として危険な行為を冒す科学者の代名詞ともなった。中国の神話には、蚩尤が登場した。彼は、最初の武器の発明者であり天界の支配者黄帝に反乱を起こして敗れた最初の反逆者として描写された。ただしプロメテウスと蚩尤は、どちらも神であり知恵だけでなく超人的な能力も備えていたが、ギリシア神話のイカロスは、蝋で固めた翼で空を飛び、太陽の熱で蝋が解けて墜落死するという結末を辿った。彼らは、卓越した頭脳、自身の能力への傲慢な自信、自身の行動の結果を予測できない危険な行為など、現在のマッドサイエンティストに通じる部分も持つ。

このように神話のマッドサイエンティストは、知力を過信する人間の傲慢さを戒める訓話だった。

中世の騎士道物語では、マーリンなどの魔法使いが登場する。彼らは、主人公である騎士の助言者であったり不思議な力で問題を解決できる物語のキーパーソンを務めた。日本神話の塩土老翁など神話にもルーツを見ることが出来る。悪役ではないマッドサイエンティストを含めフィクションの科学者は、彼らの現代的にアレンジされた姿と言える。

マッドサイエンティストの登場

マッドサイエンティストの原型とされるのは、1818年メアリー・シェリーによる小説『フランケンシュタインあるいは現代のプロメテウス』(Frankenstein, or the Modern Prometheus)(フランケンシュタイン)に初登場する人造人間を作ったヴィクター・フランケンシュタインである。同情するべき点もあるもののフランケンシュタインは、軽率かつ結果を顧みずに"越えてはならない境界"を越えて、禁じられた実験を行うという決定的な要素が提示されている[3]

生命創造、操作に対するマッドサイエンティストの挑戦は、その原型を錬金術や多くの伝説に見ることができる[9]。フランケンシュタイン博士による人造人間の創造は、そのテーマを確立した。しかし現代では、その描写が人々にとってよりリアルなものとなった。かつて想像の産物であったクローン遺伝子操作、ロボット、AI技術などが現実となった。一方、様々な議論がそれに追いついているとは言い難い。そのため「技術だけが進みすぎている」という漠然とした恐怖を背景にマッドサイエンティストの暴走が、よりリアルなものとして描かれるようになってきた。映画『ジュラシックパーク』では、遺伝子技術によって現代に恐竜を再生させる物語が描かれた[10]

孤独な人物としてのマッドサイエンティストの立場は、自然や法律を犯しても利益を得ることを企む企業や組織の幹部に置き換わっていく傾向にある。これは、科学技術が複雑化・専門化し、天才であっても一人で発明をするという設定が説得力を失ったからと考えられる。彼らは、歪んだ欲望を追求するために専門家たちを雇い、アゴで使う。漫画『スーパーマン』の宿敵レックス・ルーサーは、初期の設定から大企業の社長に変わり、研究開発部門の重要な役職を務め、果ては大統領になるなどこのような変化の典型である。しかしなお、このポーズは読者の興味を引くために人気のサイエンスライターによって気ままに使われている(どういう訳か、危険かつ過激である程により興味を引くものとなる)。イアン・フレミングの小説『007』シリーズでは、スペクターと呼ばれる犯罪専門のマッドサイエンティスト集団まで登場する。

第二次世界大戦後の大衆文化では、取り分け核兵器に関するマッドサイエンティストが盛んに見られるようになる。ナチス・ドイツにおける生物兵器化学兵器アメリカ合衆国による原子爆弾の開発・成功と日本への原子爆弾投下核保有国核兵器配備は、科学技術が制御を失った力、それらを産み出した科学技術の更なる進展は、第三次世界大戦地球の壊滅的破壊や人類滅亡さえ出来る力を持ちえる様になったことで深い恐怖を惹起した[11]。映画『博士の異常な愛情』は、ブラックコメディではあるものの制御を失った核兵器の恐怖を究極の形で表した一つと言える[5]







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