ベンガル文字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/29 10:08 UTC 版)
特徴
ベンガル文字はデーヴァナーガリーと同様に北方ブラーフミー系文字であるシッダマートリカー文字から発達した文字で、明らかにデーヴァナーガリーとよく似た文字(ন na や ব ba など)もあるが、大きく異なる字形を持つ字も存在する。文字の形はデーヴァナーガリーが曲線的であるのに対して尖っている。また e/ai の母音記号はデーヴァナーガリーでは子音の上に書かれる(े、ै)のに対し、ベンガル文字では南インドの文字と同様に左に書かれる(ে、ৈ)[2]。
歴史的な音韻変化の結果、vaはbaと同音になり、文字の上で区別されない。/w/は存在するが専用の文字はなく、uまたはoの後ろに母音字を加えることで表される[3]。また ya(য)も ja(জ)と同音になったが、語源に従って書き分けられる。/j/(≒ ヤ行音)は、yaの字に点を加えた専用の文字で表記される(য়)。
他のインドの文字と同様に、子音が母音記号をつけずに書かれた場合は随伴母音 a を伴うが、この a は実際には /ɔ/、/o/、またはゼロのいずれかに発音される。3種類のうちどの読みになるかは、語中における位置、語源、母音調和などの複雑な要素によって決定され、つづりから発音が常に判断できるわけではない[4][5]。同様に/æ/と/e/も表記上は区別されない[4][6][注 1]。
ベンガル文字の特徴として、つづりが非常に保守的であることがあげられる。ベンガル語はほかの新インド・アーリヤ語にくらべても大幅な音韻的変化を経ているにもかかわらず、復古的なつづりを使用している。このため、チベット語やフランス語の正書法と同様につづりと発音の関係が複雑なものになっている[4]。たとえば、母音iやuの長短は現在のベンガル語では区別されないにもかかわらず、つづりの上では書き分けられる。また、歯擦音 ś শ্・ṣ ষ্・ s স্ も同音になっている(通常は /ʃ/、ただしそり舌以外の舌頂音が後続するときには /s/)が、書き分けられる[6]。
子音結合はデーヴァナーガリーと同様に結合文字を使うか、hasanta(ヴィラーマ)記号を加えることで随伴母音がないことを表す。ただし、子音の後ろの y のための専用の形があり、また随伴母音のないtを表す特別の文字(ৎ khaṇḍa-ta)がある[4]。実際のベンガル語では子音結合の多くは長子音か単純な子音に変化し、後続の母音に影響が及ぶこともあるが、つづりの上では変化する前の形で書かれる。したがって、পদ্ম padma〈ハス〉は実際には/pɔddo/と発音される[6]。লক্ষ্মী lakshmī〈ラクシュミー〉は /lokkhi/に[4]、বৃক্ষ br̥ksha〈樹木〉は /brikkʰo/ に[7]、সত্য satya〈真実〉は /ʃottɔ/ となる[8][9]。
注釈
- ^ /æ/は e(ে)のほかに ya(্য)または yā(্যা)とも表記される
結合文字の使用例
- ^ অক্টোপাস akṭopāsa /okʈopaʃ/〈オクトパス〉[11]
- ^ রক্ত rakta /ɾɔktɔ/〈血; 赤〉
- ^ পক্ব pakva〈熟した〉
- ^ ক্লান্ত klānta /klantɔ/〈疲れた〉[13]
- ^ ক্ষমা kshamā /kʰ(w)ɔma/〈許し〉; বৃক্ষ br̥ksha /brikːʰo/〈樹木〉
- ^ অগ্নি agni /ɔɡni/〈火、アグニ〉
- ^ যুগ্ম yugma /ɟuɡːɔ̃/〈つがい〉[14]
- ^ গ্লানি glāni /ɡlani/〈気だるさ〉[13]
- ^ ব্যাঘ্র byāghra /bæɡʱɾɔ/〈虎〉
- ^ শঙ্খচূড় śaṅkhacūṛa /ʃɔŋkʰɔcuɽ/〈キングコブラ〉[15]
- ^ চ্যুতি cyuti /cjuti/〈脱落〉[12]
- ^ বজ্র bajra /bɔɟɾɔ/〈雷電〉[16]
- ^ কাঞ্চন kāñcana /kancɔn/〈黄金〉[11]
- ^ বাঞ্ছনা bāñchanā /bancʰɔna/〈望み〉[11]
- ^ পঞ্জিকা pañjikā /pɔnɟika/〈暦〉[11]
- ^ আড্ডা āḍḍā /aɖːa/〈溜まり場〉[17]
- ^ কণ্ঠস্বর kaṇṭhasvara /kɔnʈʰɔʃwɔɾ/〈声〉[17]
- ^ অরণ্য araṇya /ɔɾonːo/〈森林〉
- ^ a b অশ্বত্থ aśvattha /ɔʃwɔtːʰɔ/, /ɔʃːɔtːʰɔ/〈インドボダイジュ〉
- ^ আত্মহত্যা ātmahatyā /atːwɔhɔtːæ/, /atːõhotːæ/〈自殺〉
- ^ সত্য satya /ʃotːɔ/〈真実〉
- ^ সদ্ভাব sadbhāba /ʃɔdbʱab/〈親睦〉[17]
- ^ পদ্ম padma /pɔdːɔ/, /pɔdːɔ̃/〈蓮〉
- ^ ধ্বনিতত্ত্ব dhvanitattva〈音韻論〉
- ^ ঘন্টা ghanṭā /ɡʱɔnʈa/〈鐘〉[17]
- ^ বৈকুন্ঠ baikunṭha /boi̯kunʈʰɔ/〈ヒンドゥー教における極楽〉[17] (< 梵: vaikuṇṭha-)
- ^ পাষন্ড pāshanḍa /paʃɔnɖɔ/〈暴漢〉[17]
- ^ গ্রন্থ grantha /ɡɾontʰɔ/〈書籍〉
- ^ a b স্বপ্ন svapna /ʃwɔpnɔ/〈夢〉[12]
- ^ প্লাবন plābana /plabɔn/[13]
- ^ ফ্ল্যাগ phlyāga /flæɡ/〈フラッグ〉[13]
- ^ অব্জ abja〈睡蓮; 法螺貝〉
- ^ শব্দ śabda〈語〉
- ^ ক্ষুব্ধ kshubdha /kʰubdʱɔ/〈不安になった〉
- ^ ব্ল্যাক blyāka /blæk/〈ブラック〉[13]
- ^ আম্র āmra /amɾɔ/〈マンゴー〉
- ^ ম্লেচ্ছ mleccha /mlɛcːʰɔ/〈野蛮人〉[13]
- ^ ন্যায্য nyāyya /næɟːɔ/〈公正な〉[18]
- ^ a b স্পর্শ sparśa /ʃpɔrʃɔ/, [spɔrʃɔ]〈接触〉[19]
- ^ কিঞ্জল্ক kiñjalka〈花糸〉
- ^ গল্প galpa /ɡɔlpo/〈お話〉
- ^ বিল্ব bilva /bilːɔ/〈ベルノキ〉
- ^ শিশ্ন śiśna〈陰茎〉
- ^ শ্বাস śvāsa /ʃwaʃ/〈息〉[12]
- ^ শ্মশ্রু śmaśru /ʃwɔʃɾu/, /ʃõsʃɾu/〈鬚〉
- ^ শ্লথ ślatha /ʃlɔtʰ/〈たるんだ〉[13]
- ^ কৃষ্ণ kr̥shṇa /kɾiʃnɔ/, /kɾiʃʈɔ̃/〈黒; クリシュナ〉
- ^ পুষ্প pushpa /puʃpɔ/〈花〉
- ^ গ্রীষ্ম grīshma〈夏〉
- ^ স্কন্ধ skandha [skɔndʱɔ]〈肩〉[19]
- ^ স্খলন skhalana [skʰɔlɔn]〈滑落〉[19]
- ^ স্টেশন sṭeśana /ʃtɛʃɔn/〈ステーション〉[19]
- ^ স্নায়ু snāẏu /snaju/〈神経〉[12]
- ^ স্ফটিক sphaṭika /ʃpʰoʈik/, [spʰoʈik]〈水晶〉
- ^ স্মরণ smaraṇa /ʃwɔɾɔn/〈回想〉[12]
- ^ স্লেজ sleja [slɛɟ]〈スレッジ〉[13]
- ^ চিহ্ন cihna〈印〉
- ^ জিহ্বা jihvā〈舌〉
- ^ ব্রহ্মা Brahmā /bɾɔhma/〈ブラフマー〉[11]
- ^ দাহ্য dāhya /daɟːɔ/〈可燃性の〉[18]
- ^ হ্রস্ব hrasva〈小さい〉
- ^ কহ্লার kahlāra〈白い睡蓮〉
出典
- ^ “Bengali”. Ancient Scripts. 2008年2月2日閲覧。
- ^ Salomon (2007) p.80
- ^ Bagchi (1996) p.399
- ^ a b c d e f Salomon (2007) p.82
- ^ Bagchi (1996) pp.399-400
- ^ a b c Bagchi (1996) p.401
- ^ Bhattacharja (2007:138, 214, 227).
- ^ দাস, জ্ঞানেন্দ্রমোহন (1937). “সত্য”. বাঙ্গলা ভাষার অভিধান (2nd ed.). কলিকাতা: দি ইণ্ডিয়ান্ পাব্লিশিং হাউস. p. 1992(ベンガル語)
- ^ Beena & et al. (2000:62).
- ^ Salomon (1998) p.41
- ^ a b c d e Beena & et al. (2000:69).
- ^ a b c d e f g h i j Beena & et al. (2000:66).
- ^ a b c d e f g h i Beena & et al. (2000:67).
- ^ দাস, জ্ঞানেন্দ্রমোহন (1916). “যুগ্ম”. বাঙ্গলা ভাষার অভিধান. ইণ্ডিয়ান প্রেস & ইণ্ডিয়ান্ পাব্লিশিং হাউস্. p. 1260(ベンガル語)
- ^ Beena & et al. (2000:70).
- ^ Beena & et al. (2000:63).
- ^ a b c d e f Beena & et al. (2000:71).
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- ^ a b c d e f g h Beena & et al. (2000:68).
ベンガル文字と同じ種類の言葉
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