タイムカプセル タイムカプセルの問題点

タイムカプセル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 12:03 UTC 版)

タイムカプセルの問題点

内容物の保存状態

内容物の保存状態にまつわる問題は少なくない。しかし、これらの多くは開封時まで気付かれないことも多い。

タイムカプセルを未来の所定の期日まで開封することなく確実に破損の無いそのままの状態で保管しようと本格的に保存処理をするならば、実際には温度や湿度を管理・検査するための様々な設備や、これら設備を稼働させる電力が必要である。埋設後も相応の維持費用や専門的な技術者による定期的なメンテナンスが必要になり、それを誰が負担しまた開封まで負担し続けることを確実に保証できるのかという問題も生じてくる。実際、封緘して埋設後は数十年間放置されただけで、管理と一口に言っても実際には公園や庭園などの片隅で簡素な目印程度のものが置かれただけという経緯を辿ったタイムカプセルでは、少なからぬケースで開封後の確認時に地下水や地面に浸透した雨水の侵入、タイムカプセル設計時の熱容量への配慮不足による排熱の失敗などが要因となって内容品の破損・汚損が発覚している。

例えば米国・オクラホマ州タルサ市で将来的なオクラホマ州合衆国加入100周年記念行事の一環として、加入50年目の1957年に設置された「核攻撃にも耐える」堅牢な地下室構造のタイムカプセルが建設され、当時の人気自動車プリムス・ベルヴェデアの他、これの燃料として50年後の石油資源の枯渇やガソリン車の衰退の可能性も考慮しガソリンの缶詰、更には「女性のカバンの中身」という趣向から化粧品、そしてビールなども納められ、華々しい式典が行われる中、埋設された。これは50年後の2007年、同州の合衆国加入100周年記念式典にあわせて開封されるものとされ、当時募集された「2007年のタルサ市の人口を当てるクイズ」の最近似値の回答者本人ないし子孫などの血縁者に開封時に贈られるという企画になっていたが、いざ実際に2007年に地下室から取り出された自動車は原型こそ保たれていたが往時の見る影もなく鉄屑も同然に赤錆びており、タイヤの空気が完全に抜け、動作するとは到底考えられない朽ち果てた状態に劣化しており、修復が試みられたが断念される有様であった。これは地下室に人間などが入れない様に封印はされていたが気密性が低く、長い年月の間に徐々に地下水が地下室に染み込んでゆき、これが原因で腐食してしまったものであった[11]

開封後に、紙や各種金属製品にまつわる酸化による劣化に伴う状態不良が判明することも多く、究極的には地球上にごくありふれた酸素でさえ、長期保存を行うタイムカプセルの内容物にとっては重大な脅威である。 収蔵品の中には、埋設当時アスベスト等の化学物質を原料としたものもあり、保存途中で生体への有害が指摘され生産が禁止されたものも含まれている。

機械類にまつわる問題

マイクロフィルム、磁気テープDVDブルーレイなど記録する媒体自体が時間と共に劣化し再生できなくなることと、これらの媒体内にあるデータを読み取る機器や規格が廃れる可能性[12]などの問題、記録した言語が滅びてしまう問題、数千年先の未来まで一度も開けないと途中の世代がその中身の読み方を忘れてしまい、価値も分からなくなり結局無価値になるという問題・批判も指摘されている[13]

管理

タイムカプセルの管理にまつわる問題もある。上述した様に、本格的に管理をするとなにかにつけて費用が発生するし、実質的に放置状態の場合にはいざ掘り返して開封という段になって問題が発覚することも少なくない。

十数年程度での開封を予定しているものですら、適切な管理がされていなかった場合、埋設地の目印の腐朽や紛失、周辺の建築物や構造物の改築などにより埋めた場所が特定できなくなるケースは少なくない。当時は植込みなどの一角に埋設されたカプセルの存在が忘れられて、後年にその場所が駐車場道路として舗装されてしまったり、直上に建物などの構造物が建てられてしまったケースもある。

特に、教育機関や公共施設、企業では、人事異動や退職の際にタイムカプセルの件について引き継ぎがされず、やがて埋設の当時を知る職員がいなくなり、目印が撤去されたり施設が改築されるなどした結果、埋めた場所が判然としなくなり、いざ開封という段になってから行方不明になっていることが判明し、金属探知機や埋設物調査の会社を投入して探索が行われるということや、当時の曖昧な記憶だけを頼りにあちこちを掘り返して無駄な労力や費用を使うというケースも少なくない[14]

少子化に伴う学校統廃合などにより施設が廃止され、その跡地が企業に売却されたり住宅用地として分譲されるケースもあり、この場合、タイムカプセルの扱いが問題となる、あるいはその時点では存在が忘れ去られており後年になってから騒動となるケースもある。

建物を造る際にたまたま発見されたこともあり、誰が埋めたかなどが特定しにくいこともある。

過疎地域である場合、埋めたものの廃校や高齢化、さらなる過疎化の進行などの影響で地域のコミュニティ自体が事実上崩壊し、施設の管理者のみならず埋めた当事者自体もいなくなってしまうという形で、そのまま忘れ去られてしまう可能性もあり、実際に千葉県大阪府では「引継ぎされなかった」、「忘れた」で紛失が発覚し、京都府京都市では「誤って廃棄」もされたことがある[15]

盗掘リスク

イベントなどで埋設されるタイムカプセルの多くは耐久性とセレモニーで用いられるデザイン性の両立が考慮され、埋設管も含めて変質しにくい材料で堅牢な構造で、なおかつ上述の様に内容物の破損を防ぐため気密が長期間維持される様にしなければならない。カプセル本体についてはちょっとした大きさがあるものだとの材料としてだけでも数十キログラムからそれ以上の重量となり、素材としてアルミ・ステンレスなどの金属が用いられることも多い。また、熱容量などの関係からも安易に軽量化はできず見た目のサイズの割には重い物になりがちで、大型イベントにまつわるものでは数トン規模の重量になることもある。カプセル本体を保護する埋設管がある場合も同様の金属類が使われることが多い。

このため、金属価格が著しく高騰すれば、タイムカプセルの中身ではなく、タイムカプセルや埋設管の素材として用いられている金属類をスクラップにしての転売を狙った盗掘などのリスクも、管理者は考えなければならなくなる。

タイムカプセルそのものに対する批判

タイムカプセルには未来の人類に対するメッセージとしての夢もある一方、批判も少なからず存在している。

歴史学者ウィリアム・ジャーヴィス(William Jarvis)は「こうして意図的に作られたタイムカプセルは役立つ歴史的資料を残さない」と述べている。これに対し、突然の火山噴火によって埋もれたポンペイ遺跡のような「意図せざるタイムカプセル[2]は、暮らしぶりを描いた壁画や家々の壁に書かれた選挙の候補者を宣伝する落書き、家財道具、いろりに放置された食べ物、灰に埋まった人の跡にできた空洞など、古代ローマの日常生活について知る手がかりが豊富に残されている。歴史家の中には、作った人の日常生活が分かるもの、たとえば日記帳、スナップ写真、書類などを入れればタイムカプセルの歴史的価値が上がるだろうと示唆している者もいる[2]


  1. ^ このカプセルは2つあり、一つは2000年に点検のため開封された。内容の確認後再度埋められ、100年ごと(世紀末の年)に開封される予定となっている(次回は2100年の開封を予定している)。
  2. ^ a b c William Jarvis (2002)
  3. ^ 経塚 - コトバンク
  4. ^ 万博とテクノロジー 久島伸昭、日本計算工学会誌「計算工学」7号、2002年
  5. ^ Princeton University Library - G. Edward Pendray Papers, 1829-1981 (bulk 1923-1971)”. 2010年3月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年6月28日閲覧。
  6. ^ New York Times, August 19, 1938, page 21
  7. ^ 趣旨(タイム・カプセルEXPO'70概要)
  8. ^ 主要事項一覧
  9. ^ 定礎箱の中身と定礎式
  10. ^ a b c 柳田一成「なぜ学校でタイムカプセルを埋めるのか〜タイムカプセルから見る日本現代史〜」(九州産業大学商学部観光産業学科 平山ゼミナール 平成28年度卒業論文)
  11. ^ A 50-Year-Old Time Capsule Sees Daylight, but Will It Start? ニューヨーク・タイムズ
  12. ^ 現実に光磁気ディスクが、1988年に登場したものの、ドライブの方が2000年代で生産を打ち切られた
  13. ^ なおこの点については企業などが行う大規模なタイムカプセルなどでは再生機器の製造方法や規格自体を記載した手順書を同梱し厳重な封印を施すことによりある程度の対応/配慮が見られる
  14. ^ 重機投入もカプセル発掘また不発”. 福井新聞 (2019年7月28日). 2019年7月31日閲覧。
  15. ^ 追憶のタイムカプセル、うっかり廃棄 開封心待ち400人”. 京都新聞 (2019年7月5日). 2019年7月31日閲覧。






タイムカプセルと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「タイムカプセル」の関連用語

タイムカプセルのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



タイムカプセルのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのタイムカプセル (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS