ソリッドステートドライブ 概要

ソリッドステートドライブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 03:54 UTC 版)

概要

ハードディスクドライブ (HDD) が機械的な原理で動作しディスクに磁気的に記録するためにディスクを回転させヘッドと呼ばれる部分を物理的に移動させているのに対し、SSDはデータ記録原理が根本的に異なり半導体で行っているので、振動に強く、データへのアクセス時に音がせず、ハードディスクドライブよりも消費電力が少なく、軽量というメリットのみならず[1]、データの転送速度もシリアルATAで内部接続されたHDDの概ね5倍程度というメリットもある(2024年時点。詳細な数値の比較は後述)。

SSDのデメリットや課題としては、ひとつは同じブロックへの書き換え可能回数は数万回程度という制限があることであり、これに関しては各SSDメーカーはそのコントローラーを工夫することで、SSDメモリー全体を均等に書き換えるようにし、特定のブロックばかりが繰り返し書き換えられないようにするなどの対策をしている[1]。またフラッシュメモリ方式のSSDは、根本原理がフラッシュメモリであるので、フラッシュメモリそのものの欠点があり、記憶が保持される年数が決して永久ではなく、MicroSDカードなどのフラッシュメモリ類が全く通電せずに引き出しの中などに放置しておくと7年から8年程度で記憶のごく一部から徐々に蒸発するように消えてゆくのと同様に、(最近は5年程度はほぼ大丈夫なように改良されてきているが)SSDもあまりに長い間通電せずに放置しておくと、徐々に記憶の一部から蒸発するように消えてゆくという欠点(宿命)がある(したがって、学術目的などで、大学図書館や美術館のバックヤードのキャビネット内などに保管・放置してデータを完全な状態で10年後や20年後のために長期保存する目的ではSSDは使えない)。特に、書き換え可能回数に達したSSDを電源をOFFにした状態で40°C以上の状態で放置してしまうと、蒸発が始まる時限が極端に短くなり、わずか数か月程度でデータの一部が消えはじめる[2]

インタフェース

さまざまなインタフェースのものがある。PC内蔵用ではシリアルATA (SATA)、M.2PCI Expressのものなどがあり、外付け用ではUSBThunderboltのものがある。

外形

さまざまな外形のSSDが販売されている。

ハードディスクドライブに合わせたもの
ハードディスクドライブの形状に合わせたSSDは既存のデバイスに使用できるため、安価な置き換え手段となる可能性がある。
基板状のもの
ノートPCやタブレットなどスペースの制約があるデバイスに内蔵するためにいくつかの規格が標準化されており、M.2やmSATAのものがある。
BGAパッケージ
BGAパッケージのSSDはそのデバイスのシステムボードに直接はんだ付けされる。このような組む込みタイプのものはeMMCやeUFS規格に対応したものが多い。
持ち運びを想定したもの
拡張カード型のもの、USB接続のSSDでは(上に写真も掲載した、ストラップを通して首にぶらさげられるような、ケースに穴のついた)ポータブルSSDもあり、さらに(写真は未掲載だが)USB接続の「スティック型SSD」というUSBスティックメモリをひとまわり大きくした程度のかなり小型のものも2020年以降販売されている(バッファロー製。500GBや1TBなど)。

転送速度

転送速度は、たとえば2009年の第二四半期の東芝製SSDでは、読み出しが200MB/s、書き込みが240MB/sで、HDDの約5倍となっていた。2014年にはSATA 6Gbpsのほぼ上限で転送できるものも開発された[3]。インターフェースにM.2及びNVMeが採用されてからはさらに高速化の一途をたどり、2016年には読み出し3,500MB/s[4]PCI Express Gen4となった2019年には5,000MB/s[5]、翌2020年には7,000MB/sに達している[6]。これらは研究室レベルの発表ではなく、2018年時点で読み書きともに2,000MB/sを超えるNVMe製品も広く使われている[7]

その他の記録媒体との区別

同様にフラッシュメモリを使っているものとしてUSBメモリメモリカード等がある。また、USBメモリと同様の形状をしたSSDも存在する。PC上でリムーバブルディスクとして認識されるものは通常SSDには分類されない[8]

eMMCもSSDと同様にフラッシュメモリを使用した記憶装置であり、コンピュータ上ではどちらも通常のディスクとして認識される。2022年現在、速度やインタフェースの違いなどで両者は販売店などでは区別されている[9][注釈 1]

HDDとフラッシュメモリの双方の長所を取り入れたもの、つまりHDDをベースにフラッシュメモリをキャッシュとするものは、あくまでSSDではなく、ハイブリッドHDDと分類される。

また、ソフトウェアによるエミュレートもあくまで別物であり、SSDには分類されない。

利用される状況

データアクセスが高速で、PC類の電源投入時のOS類の起動に必要な時間が数分の一にまで短縮されるので、それを求めてさかんに導入されている。SSDの価格性能比が向上しHDDに近づくにつれ、ストレージのHDDからSSDへの転換は、2010年代後半から20212022年ころまでにかなり進んだ。

2010年代後半には既存のPC(ユーザがすでに使用しているPC)の内蔵HDDをSSDに換装するということが広く行われるようになった。

PCの新規販売(新品販売)では、2019年時点ですでに、購入時に「SSDだけ」か「HDDだけ」のどちらかを選択して購入する方式のPCや、HDDとSSDを同時に搭載するPC[10]などが販売されていた。2022年現在では世界的にシェアの高いHPDellの直販サイトでは「SSDだけ搭載」が第一選択肢になっている[11][12]

データセンターでも2011年頃から、高スループットと低消費電力という利点のため、HDDに替わってサーバに採用されつつある[13]

放送用ビデオサーバなどの業務用専用装置でも、さらに大容量化したものの使用例があり、その場合HDDと比較してビット当たり単価は高いものの、より優れた高速性・高信頼性を生かして利用されている(HDDのほうも、スピードは劣るが、SSDよりも信頼性が高く、長期保存に向くストレージとして使われ続けている)。

PlayStationシリーズに関しても、起動時間の短縮やゲーム内のマップ上の移動時間の短縮などが実現するために、2010年代後半からPlayStation 4内蔵のHDDをSSDに換装することが多くのユーザによって行われるようになり、2020年11月に発売されたPlayStation 5では最初からSSDが搭載された。

一部のカーナビビデオカメラPNDでもSSDが使われ始めている[14]

フラッシュメモリ方式とRAMディスク方式の比較

メモリに不揮発性メモリであるフラッシュメモリを用いた場合、電源切断後も内容を長期にわたり保持できる[注釈 2][15]。対して、メモリとしてRAMを用いるRAMディスク(ハードウェア方式)は、揮発性メモリを使用するため、バックアップ電源を持たないと電源の切断によって記憶内容が消えてしまうという大きな欠点がある。

なお2010年時点で、シーケンシャルアクセスの転送速度と比較した場合、一般的にフラッシュメモリを用いた製品よりも、RAMディスクのほうが高速ではある。ただし、技術革新によりRAMディスクとフラッシュメモリの差は年々近づいている。


注釈

  1. ^ ただし、電気的に接続することでリムーバブルディスクとして認識させることも可能である
  2. ^ ただし2015年現在、データの保持可能期間は概ね、HDDのそれよりも大幅に短い
  3. ^ Samsungの技術者によるとコントローラの設定で同じセルをSLCにもMLCにも使用することが可能で、製品に両方を設定しSLC部分をキャッシュとしてMLC部分を主記憶部分とするEVOシリーズがある
  4. ^ Samsung SSD 980など[23]
  5. ^ SATA3での転送速度
  6. ^ PCIe 4.0での転送速度

出典

  1. ^ a b コトバンク、SSD
  2. ^ Vättö, Kristian (2015年5月13日). “The Truth About SSD Data Retention” (英語). AnandTech. 2023年5月25日閲覧。
  3. ^ 株式会社インプレス (2014年8月7日). “PLEXTOR、“SATA 6Gbpsの上限性能”に達したSSD「M6 PRO」”. PC Watch. 2018年12月29日閲覧。
  4. ^ 再び常識を破ったSSD - リード最大3,500MB/sの第2世代M.2 NVMe「Samsung SSD 960 PRO」を検証(1)”. マイナビニュース (2016年10月19日). 2022年9月25日閲覧。
  5. ^ 株式会社インプレス (2019年5月30日). “【イベントレポート】 1,500万ドル超を投じて9カ月で完成させたPhisonの世界初PCIe 4.0 SSDコントローラ”. PC Watch. 2022年9月25日閲覧。
  6. ^ 実測7,000MB/sec超え。CFDの第2世代PCIe4.0 SSD「PG4VNZ」シリーズ徹底検証”. エルミタージュ秋葉原. 2022年9月25日閲覧。
  7. ^ 株式会社インプレス (2018年8月27日). “アプリ起動もデータコピーも超高速!最新NVMe SSD注目7製品一斉比較 〜気になる発熱とサーマルスロットリングもテスト”. PC Watch. 2018年12月29日閲覧。
  8. ^ 【特集】「USBメモリ」と「USBメモリ型SSD」は何が違うのか? - PC Watch”. 2022年6月17日閲覧。
  9. ^ eMMCとは? SSDとの違いを比較しながら解説”. 2022年6月17日閲覧。
  10. ^ 例:マウスコンピューター m-Book F シリーズの一部モデル、ドスパラ GALLERIA GCF1070NF
  11. ^ デル公式サイト、ノートパソコン
  12. ^ HP公式サイト
  13. ^ 高速ストレージ「SSD」が主流に、価格性能比でHDDをしのぐ”. 日経 xTECH(クロステック) (2011年1月19日). 2018年2月17日閲覧。
  14. ^ a b c d e 佐伯真也、大石墓之著 『どう付き合うかSSD』 「日経エレクトロニクス」 2009年4月20日号 日経BP社発行 p.29 - 51
  15. ^ a b c d JEDEC SSD Specifications Explained - Alvin Cox [Compatibility Mode] 0” (PDF). JEDEC. 2012年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月22日閲覧。
  16. ^ [1]
  17. ^ [2]
  18. ^ 3次元構造を採用したNAND型フラッシュメモリの新技術を開発(東芝プレスリリース 2007年6月12日)
  19. ^ a b 3次元メモリ:TビットNANDフラッシュに道、チップ上でメモリ・セルを積層 木村雅秀=日経エレクトロニクス
  20. ^ a b https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1205/08/news057.html
  21. ^ ハイエンド・ストレージの世界もSSD、アメリカ・EMCが大手ベンダー初の製品発表 マイコミジャーナル
  22. ^ SunもSSD製品投入へ、ハイエンドサーバの世界で急速に広がるSSD マイコミジャーナル
  23. ^ 【Hothotレビュー】エントリー向けSSDの新定番になるか?「Samsung SSD 980」を試す - PC Watch”. 2022年6月17日閲覧。
  24. ^ 参照外部リンク
  25. ^ 【特集】Windowsでストレージの空きが足りなくなったときに試すこと PC Watch
  26. ^ ARROWS Tab Q508/SB 仕様
  27. ^ Windows 7のSSD対応追加情報 - インプレス
  28. ^ 進歩する Linux カーネル 2009年03月24日 IBM
  29. ^ SPARC/Solarisへの投資継続を表明、オラクル 「Solaris OSではSSDを統合してI/O性能を劇的に向上するファイルシステム「ZFS」を持つ」
  30. ^ イノベーションの歴史 - サンディスク(日本法人)Webサイトより
    《2014年4月29日閲覧(→アーカイブ) 当該ページ内に設置されている西暦年タグで「'91」タグを選択することで閲覧可能》
  31. ^ a b c 福田昭「【IMW 2011レポート】NANDフラッシュメモリの過去、現在、未来」『PC Watch』、Impress Watch Corporation、2011年5月31日、2014年4月29日閲覧 →アーカイブ
  32. ^ SSDってなに? - 東芝セミコンダクター&ストレージWebサイトより《2014年4月29日閲覧 →アーカイブ
  33. ^ [3]
  34. ^ Crucial「RealSSDC300」300MBsec超の速度を誇る超高速SSD PC Watch
  35. ^ [4]
  36. ^ [5]
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  38. ^ 株式会社インプレス (2018年7月24日). “Samsung、2018年内に容量32TBのSSDを投入”. PC Watch. 2019年1月1日閲覧。
  39. ^ “ついに「1GB=1ドル」を切り、SSDは本格普及へ向かう”. ChinaSourcing(中華人民共和国商務部主催). (2012年12月26日). オリジナルの2014年4月29日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140429081108/http://jp.chinasourcing.org.cn/content2.jsp?id=11267 2014年4月29日閲覧。 
    上記記事のオリジナル:Lucas Mearian (2012年12月18日). “ついに「1GB=1ドル」を切り、SSDは本格普及へ向かう”. COMPUTERWORLD (IDG). https://web.archive.org/web/20121230213337/http://www.computerworld.jp/topics/561/205925 2014年4月29日閲覧。 ※現在はインターネットアーカイブに残存
  40. ^ 株式会社インプレス (2012年3月9日). “Western Digital、日立HDD事業の買収を完了 〜現金と株式で約48億ドル”. PC Watch. 2018年12月29日閲覧。
  41. ^ Taniguchi, Munenori. “サンディスクがHDD大手ウェスタンデジタルによる買収手続き完了を発表。WDはストレージ全体の最大手企業に - Engadget Japanese”. Engadget JP. 2016年5月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月29日閲覧。
  42. ^ Micron、読み込み/書き込み速度が250MB/secの高速SSD PC Watch
  43. ^ WD Blue PC Hard Drive Series Distribution Specification Sheet
  44. ^ SanDisk ウルトラ3D SSD
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  47. ^ 速い。長い。SSDモデルなら約10秒の高速起動 ジャケットスタイルモバイル レッツノートJ10
  48. ^ MtronとSuper Talentが高性能/高信頼性をアピール PC Watch
  49. ^ Super Talent's MasterDrive MX series Data Sheet
  50. ^ SSDにデータを書込みまくり再起不能に追い込む耐久試験で分かった信頼性に関する真実とは? GIGAZINE、2015年3月16日
  51. ^ 制御ICで決まるSSD、微細化進展で信頼性確保が課題に EE TIMES Japan
  52. ^ DOS/V POWER REPORT 2018年10月号 p58
  53. ^ M.2 SSDは冷却が必要?・・・・・・など、“ストレージのギモン” 3点を解決
  54. ^ よく冷える最速クラスのNVMe SSD「Plextor M9Pe(Y)」の実力をテスト
  55. ^ 最新SSD完全解説 | SSD完全攻略マニュアル | DOS/V POWER REPORT
  56. ^ PCの動作が突然止まってしまう!SSDの謎の不具合「プチフリ」の原因と対策は?”. 2020年2月15日閲覧。
  57. ^ 『Intel SSD 320』“8MB病”に対処するファームウェアをアップデート





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