ゲジ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 09:00 UTC 版)
分布と分類
現生のゲジは世界中の熱帯と亜熱帯地域にかけて生息し、オセアニア・東アジア・東南アジア・南アジア・中東・アフリカ・地中海沿岸・南アメリカ北部・中央アメリカ・北アメリカ南部に自然分布する種類が知られている[29]。日本では和名がゲジ(Thereuonema tuberculata)とオオゲジ(Thereuopoda clunifera)の2種が知られ[7]、アメリカとイギリスでは数種が人為移入される[14]。
系統位置
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ムカデにおけるゲジの系統位置 |
ムカデ(ムカデ綱/唇脚綱 Chilopoda)の中で、ゲジ(ゲジ目 Scutigeromorpha)と他の現生ムカデの目、いわゆるイシムカデ(イシムカデ目 Lithobiomorpha)・ナガズイシムカデ(ナガズイシムカデ目 Craterostigmomorpha)・オオムカデ(オオムカデ目 Scolopendromorpha)・ジムカデ(ジムカデ目 Geophilomorpha)との類縁関係については、古くから様々な説を提唱された。主な2説があり、増節変態な発生様式や15対の脚を基にイシムカデやナガズイシムカデと共に改形類(改形亜綱/ゲジ亜綱 Anamorpha, =Triakontapoda)としてまとめられ、もしくは気門の違いを基に背気門類(背気門亜綱 Notostigmophora)として他のムカデ(側気門類/側気門亜綱 Pleurostigmophora)から区別される。他にも発達した生殖肢を基に Gonopodophora(ゲジ+イシムカデ)、変則的な背板を基に Heteroterga(ゲジ+イシムカデ+ナガズイシムカデ+オオムカデ)に分類されることがある[63][64][65]。
21世紀以降では、背気門類/側気門類説の方が形態学と分子系統解析の両方に広く認められる[66][67][65][68][69][70]。この系統関係を踏まえて、ゲジは現生群のうち最初に分岐した基盤的なムカデで、そのいくつかの性質(複眼・ドーム状の頭部・上下に動く細長い顎肢・左右分節した顎肢基胸板など)と改形類全般の共通点(増節変態・側頭器官・環状の顎肢腿節と脛節・15対の脚・曳航肢の coxal organ など)は、側気門類(複眼の欠如・平たい頭部・癒合した顎肢基胸板)と整形類(増節変態と側頭器官の欠如・半環状の顎肢腿節と脛節・21対以上の脚)で失ったムカデの祖先形質だと考えられる[23][25][26][38]。背気門類と側気門類の気管系については、それぞれ別起源、もしくは相同でそのいずれかがムカデの祖先形質だと考えられる。もし側気門類の気管系が祖先形質の場合、そのような対になる気管系が背気門類に至る系統で左右癒合し、ゲジの背面中央一例の気管系に進化したと考えられる[17]。
下位分類
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Giribet & Edgecombe 2013 に基づいたゲジの属までの内部系統関係[71] |
ゲジは約100種が記載され、ムカデの目の中ではナガズイシムカデ(2種[72])の次に種が最も少ない[8]。現生種は3科に含まれ、そのうち Psellioididae科は基盤的、Scutigerinidae科とゲジ科(Scutigeridae)は姉妹群、ゲジ科の種類は大きく Scutigerinae亜科と Thereuoneminae亜科に分かれている。この系統関係は形態学と分子系統解析の両方に支持される[34][73][29][71]。
絶滅した化石群まで範囲を広げると、シルル紀の Crussolum は単調な歩肢跗節と数多くの剛毛をもつ顎肢基胸板前縁を基に、どの現生科よりも基盤的なゲジだと考えられる[1]。石炭紀の Latzelia は有脚胴節の比較的短い第4背板により、基盤的なゲジの可能性も示唆されるが、それ以外の性質は現生種とよく似ている[1]。
ゲジの属までの下位分類は次の通り[3](属より上位の分類群は太字、絶滅群は「†」、ジュニアシノニムは「=」、現生種のみ知られるものは地質時代特記なし)。
- ゲジ目 Scutigeromorpha(古生代シルル紀 - 現世)
- †(科) Crussolidae(古生代シルル紀 - デボン紀)
- †(科) Latzeliidae(古生代石炭紀)
- (科) Psellioididae
- (科) Scutigerinidae
- ゲジ科 Scutigeridae(中生代白亜紀 - 現世)
- (属)Allothereua
- (属)Ballonema
- (属)Ballonemella
- (属)Brasiloscutigera
- (属)Dendrothereua
- (属)Diplacrophor
- †(属)Fulmenocursor(中生代白亜紀)[75]
- (属)Gomphor
- (属)Microthereua
- (属)Parascutigera
- (属)Pesvarus
- (属)Phanothereua
- (属)Pilbarascutigera
- (属)Podothereua
- (属)Prionopodella
- (属)Prothereua
- (属)Scutigera(新生代始新世 - 現世)[1]
- (属)Seychellonema
- (属)Sphenodonema
- (属)Suctigerina
- (属)Tachythereua
- (属)Thereuella
- ゲジ属 Thereuonema
- オオゲジ属 Thereuopoda
- (属)Thereuopodina
- (属)Thereuoquima
- (属)Theuronema
主な種類
- Scutigera coleoptrata
- ゲジ Thereuonema tuberculata
- オオゲジ Thereuopoda clunifera
- 体長4cm以上。背面は黒く、気門周辺はオレンジ色。日本では関東地方以南に分布する[80]。かつて同属別種とされたカマクラオオゲジ(Thereuopoda ferox)とヤマシナオオゲジ(Thereuopoda jamashinai)[81]は本種のジュニアシノニム(無効の異名)とされる[82]。
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