グランドナショナル グランドナショナルの概要

グランドナショナル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 05:20 UTC 版)

グランドナショナル
Grand National Handicap Chase
2005年優勝馬ヘッジハンター
開催国 イギリス
競馬場 エイントリー競馬場
創設 1839年2月26日
2023年の情報
距離 障害芝34ハロン(4マイル2ハロン74ヤード)
(約6,907メートル)
格付け PrH[注釈 1]
賞金 1着賞金50万ポンド
賞金総額100万ポンド[1]
出走条件 7歳以上
負担重量 ハンデキャップ
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概要

距離は4マイルと2ハロンと74ヤード(約6,907メートル)、計16個設置されている障害を延べ30回飛越する。

イギリスでは最も人気のあるレースであり、馬券の売上額もダービーステークスチェルトナムゴールドカップを上回りイギリス国内最高を誇る。

ブックメーカーなどを含め、ベッティングに投じられた金額は、2007年で2.75億ポンド(約655億円)、2015年で3億ポンド(約540億円)に達すると推定されている。ロイターによると、2019年の売り上げは推定3億ポンド(約437億円)[2]である。年によっては世界一の馬券売上額を誇る日本有馬記念を上回ることもある。

この競走はグランドナショナルミーティングのメイン競走としてハンデキャップで行われる。

ほぼ毎年出走可能頭数の限界の40頭の出走馬を集めるが、年によっては完走頭数は10頭を切ることも珍しく無い事から世界一過酷な障害レースと言われている。

以前は発走の際スターティングバリアーの直後に整列していたが発走の遅延が絶えなかったため、2008年より他の競走同様にバリアー後方から整列せずにスタートを行う方式に変更されたが、2021年より再び発馬機を使用するスタートに変更された。

このレースに範を取った「グランドナショナル」という名の競走は世界各地で行われている。日本では伝統の障害重賞である中山大障害がこのレースに範を取ったものである。

2005年からはビール会社のジョン・スミスズ(John Smith's)がスポンサーとなっていたが、2014年に酒造会社のクラビーズ(Crabbie's)に代わり、さらに2017年からは、5年契約で化学検査会社のランドックス・ヘルス(Randox Health)がスポンサーとなった。

2017年現在の賞金総額は100万ポンドで[注釈 2]、障害競走としては世界最高の賞金額となっている。

出走馬は満7歳以上で、かつステープルチェイス競走で10勝以上の勝利があり、過去に3マイルのステープルチェイス競走で4着以内に入った実績を持つことが必要とされる(2012年より)。2011年までは年齢制限はなく、勝利数も「ハードル競走(en:Hurdling (horse race))を含めた障害競走で15勝以上」という基準だったが、同年のレースで2頭の馬がレース中に亡くなった事故を受けて、出走基準が厳格化された[3]

2022年まではグレード3[注釈 3]の重賞だったが、2023年からハンデキャップ重賞の「プレミアムハンデキャップ」の新設によりPrH重賞となっている。

コース

コースの形状

この競走ではエイントリー競馬場のナショナルコースという特別なコースを2周する。このコースは4月開催でトッパムチェイス、フォックスハンターズチェイス、グランドナショナルの3競走、11月開催でグランドセフトンチェイス、ビーチャーチェイスの5競走のみに使用される。1周2.25マイル(3,600メートル)の周回コースであり直線距離は494ヤード(451メートル)。全体として起伏は少なくほぼ平坦となっている。

障害の形状

コース

グランドナショナルに使用される障害は英愛で一般的なものと異なり、トウヒの枝を組み合わせて作られている。全部で16の障害が設けられ、ザ・チェアと呼ばれる障害と水濠障害を除いて2度飛越することになる。6番目(22番目)及び7番目(23番目)、8番目(24番目)、9番目(25番目)、15番目の障害にはそれぞれ固有の名称が付いており順にビーチャーズブルック(Becher's Brook)、フォイネイボン(Foinavon)、キャナルターン(Canal Turn)、バレンタインズブルック(Valentine's Brook)、そしてザチェア(The Chair)である。

最難関とされるのはビーチャーズブルックである。障害は踏み切り地点より着地側が低くなっているため、バランスを取ることが難しく毎年複数の馬が落馬する。またザチェアは踏み切り地点の乾壕をもち、そして最も高い障害である。そしてキャナルターンとフォイネイボンについては、前者は着地後に直角に曲がるコーナーがあり後者もカーブの途中に設置されているため馬が内側に密集しやすく年によっては多重落馬が発生している。

2001年のレースではキャナルターンで空馬が障害の手前を横切り、多重落馬が発生する大事故が起こった[注釈 4][4]。これ以降、キャナルターンの障害右手に退避通路が設置され空馬がレースの馬群に混ざらないように配慮されている。

全障害の規模

  • 第1・第17障害(THORN FENCE) 4フィート6インチ(約137センチメートル)
  • 第2・第18障害(FENCE) 4フィート7インチ(140センチメートル)
  • 第3・第19障害(WESTHEAD) 4フィート10インチ(147センチメートル) 飛越側に幅6フィート(182センチメートル)の乾壕
  • 第4・第20障害(PLAIN FENCE) 4フィート10インチ
  • 第5・第21障害(SPRUCE FENCE) 5フィート(152センチメートル)
  • 第6・第22障害(BECHER'S BROOK) 5フィート着地側は6フィート(213センチメートル)
  • 第7・第23障害(FOINAVON FENCE) 4フィート6インチ
  • 第8・第24障害(CANAL TURN) 5フィート
  • 第9・第25障害(VALENTINE'S BROOK) 5フィート
  • 第10・第26障害(THORN FENCE) 5フィート
  • 第11・第27障害(BOOTH) 5フィート 飛越側に幅6フィートの乾壕
  • 第12・第28障害(FENCE) 5フィート
  • 第13・第29障害(FENCE) 4フィート7インチ
  • 第14・第30障害(FENCE) 4フィート6インチ
  • 第15障害(THE CHAIR) 5フィート2インチ(157センチメートル) 飛越側に幅6フィートの乾壕
  • 第16障害(WATER JUNP) 2フィート9インチ(84センチメートル) 着地側に幅9フィート7インチ(297センチメートル)の水濠

障害の変遷

グランドナショナルのコースは初期に石壁障害が水濠障害に変更され、その後も幾度か障害の形状、大きさに変更が加えられている。初期は天然の障害も使用していたため18インチ(約46センチメートル)の土塁など小規模なものも存在した。1885年の時点では最後の直線の3つの障害などで3フィート6インチ(約107センチメートル)のハードルを7基使用し計11回飛越を行っていたほか、現在では全障害の中で最も低い4フィート6インチ(約137センチメートル)のフォイネイボンが当時は5フィート6インチ(168センチメートル)と最も高い障害だった。

1888年にハードルがフェンスに置き換えられ、そして20世紀を過ぎると大幅な変更は行われなくなった。しかし1961年に危険すぎるとの批判を受け、障害に傾斜そして踏み切り板を設けるなどの安全対策が行われた。その後も何度か障害の形状に変更が加えられ、1990年にはビーチャーズブルックの着地側のスロープが埋め立てられた(これは、1989年にビーチャーズブルックで2頭が死亡したことによる)。このため、ビーチャーズブルックをはじめ多くの障害がその難易度を低下させている。

チェッカーフラッグ

同じコースを2周するグランドナショナルだが2周目に入った際、1周目で多重落馬事故があり整理がつかない場所がある場合や故障した馬の処分をその場で行い、障害の飛越が危険であると判断された場合は障害前方で係員がチェッカーフラッグを振る。その場合は障害横の退避通路を通り、障害をパスする事が許される。2011年は2周目の20号障害・22号障害(ビーチャーズブルック)において故障馬が留まったため、ともにパスされている[5]


注釈

  1. ^ プレミアムハンデキャップの事。
  2. ^ イギリス障害競走で賞金総額第2位のチェルトナムゴールドカップは57万5,000ポンド。
  3. ^ イギリスの障害重賞は"group"でなく"grade"で表記される。
  4. ^ この落馬もあって1周目を終えた頃には僅か7頭のみとなり、2周目での更なる落馬の結果2頭のみが無事故で完走。他に2頭が落馬後再騎乗してゴールインし、計4頭が完走した。
  5. ^ 2019年2頭、2021年1頭、2022年2頭。
  6. ^ 第1障害で飛越に失敗して予後不良となったヒルシックスティーンを手掛けたサンディ・トムソン調教師は、発走が遅延している間にテンションが上がったと言い、抗議者たちの行動がヒルシックスティーンの競走歴初の飛越失敗の一員となったと感じた。

出典

  1. ^ ICSC 014 International Cataloguing Standards Book GREAT BRITAIN JUMP RACES 2014年11月11日閲覧。
  2. ^ [1]
  3. ^ New minimum age set for Grand National runners in safety review - The Guardian・2011年11月2日
  4. ^ 2001 grand national HQ
  5. ^ John Smiths Grand National Chase 2011
  6. ^ 『ディック・フランシス読本』早川書房編集部編、早川書房、1992年 83-85頁
  7. ^ Devon Loch Grand National Disaster, 1956
  8. ^ Foinavon Wins Grand National after Huge Pile Up Causes Race Shambles(1967)
  9. ^ NHK世界の競馬 1997年 ドバイワールドカップ』04分20秒〜05分55秒
  10. ^ 1993 Grand National
  11. ^ NHK『世界の競馬 1997年 ドバイワールドカップ』00分54秒〜04分11秒、06分07秒〜06分20秒
  12. ^ 世界一有名な障害戦グランドナショナルが中止決定 日刊スポーツ極ウマ・プレミアム 2020年3月17日
  13. ^ レイチェル・ブラックモア騎手、女性で初めてグランドナショナル優勝(イギリス)[その他]”. 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル. 2023年7月4日閲覧。
  14. ^ コーラックランブラーが優勝 動物愛護団体の妨害行為に大量逮捕者も/英グランドナショナル - 海外 | 競馬 : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2023年7月4日閲覧。
  15. ^ グランドナショナルでの抗議行動に対し競馬界は断固とした態度が必要(イギリス)[開催・運営]”. 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル. 2023年7月4日閲覧。


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