エヴェンキ語 音韻表

エヴェンキ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/07 03:09 UTC 版)

音韻表

中国のエヴェンキ語においては自らの文字を持たず、牧畜地区ではモンゴル文字による筆記[5]、農耕地区や森林地区では筆記方法は無く、漢文を用いる。語学研究資料及び教科書においては国際音声記号や中国が定めたラテン文字への転写法を採用した。一方ロシアにおいては1930年から1931年にかけてエヴェンキ語のラテン文字転写を始め、1936年から1937年にかけてキリル文字転写に改められた。

キリル文字転写
А а Б б В в Г г Д д Е е Ё ё Ж ж
З з И и Й й К к Л л М м Н н Ӈ ӈ
О о П п Р р С с Т т У у Ф ф Х х
Ц ц Ч ч Ш ш Щ щ Ъ ъ Ы ы Ь ь Э э
Ю ю Я я
ラテン文字転写
A a
/a/
B b
/b/
C c
/ts/
D d
/d/
E e
/ə/
Ē ē
/e/
F f
/f/
G g
/ɡ/

/ɣ/
H h
/x. h/
I I
/i/
J j
/dʒ/
K k
/k/
L l
/l/
M m
/m/
N n
/n/
Ng ng
/ŋ/, /ˠ/
Ɵ ɵ
/ɔ/
O o
/ʊ/
P p
/p/
Q q
/tʃ/
R r
/r/
S s
/s/
T t
/t/
U u
/u/
V v
/ɵ/
W w
/w/
X x
/ʃ/
Y y
/j/
Z z
/dz/

内モンゴル自治区輝河地域のエヴェンキ語の音韻

母音

エヴェンキ語内モンゴル自治区輝河地域の母音[6]
前舌 中舌 後舌
狭母音 i ʉ u
中央母音 e ə, ɵ o
広母音 ɑ

・短母音と長母音が弁別的である。

母音調和

母音調和が存在する。母音調和が発生するとき、調音器官の緊張の程度によって母音が男性母音、女性母音、中性母音の三つに分類できる。男性母音と女性母音は調和せず、中性母音はどちらにも調和する。

・同一の母音の短母音と長母音のみによってもまた調和が発生する[7]

男性母音 ɑ, ɑɑ, oo, u, uu
女性母音 ə, əə, ɵ, ɵɵ, ʉ, ʉʉ
中性母音 i, ii, e, ee

子音

以下の子音が存在する[8]

エヴェンキ語内モンゴル自治区輝河地域の子音
両唇音 歯茎音 硬口蓋歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音
無声音 無気破裂音 b[p] d[t] g[k]
有気破裂音 p[pʰ] t[tʰ] k[kʰ]
無気破擦音 dʒ[t͡ɕ]
有気破擦音 tʃ[t͡ɕʰ]
無気摩擦音 s[s] ʃ[ɕ] h[x]
有声音 鼻音 m[m] n[m]
接近音 w[β̞] y[j]
側面接近音 l[l]
震え音 r[r]


・全ての子音は長子音を持つ[9]。p, t, k, tʃでの出現が最も多く、次にb, d, g, dʒ、次にm, n, l、次にr, s, ʃ, w, さらにr, y, ŋと出現頻度がつづく。長子音は子音の逆行同化によっても出現する。

CC < rC

bb<rb e.g. dəbbə<dərbə「枕」

pp<rp e.g. sappa < sarpa「箸」

dd<rd e.g. əddə < ərdə「朝」

tt < rt e.g. səttə < sərtə「利口」

gg < rg e.g. əggigʉ < ərgigʉ「下」

kk<rk e.g. lakkiraŋ < larkiraŋ「投げる」

hh < rh e.g. ʃihhəg < ʃirhəg「細い糸」

dʒdʒ < rdʒ e.g. dədʒdʒə < dərdʒə「敷蒲団」

tʃtʃ < rtʃ e.g. sʉtʃtʃi < sʉrtʃi「厳しい」


CC < gC

dd < gd e.g. addaraŋ < ardaraŋ「楽しむ」

tt < gt e.g. ayitte < ayigte「古い」

nn < gn e.g. dʒannaraŋ < dʒagnaraŋ「怒る」

ll < gl e.g. nalla < nagla「手」

dʒdʒ < gdʒ e.g. dədʒdʒiŋ < dəgdʒiŋ「上っ調子」

tʃtʃ < gtʃ e.g. atʃtʃathi < agtʃathi「逆に」

mm < gm e.g. amma <agma「口」


CC < bC

tt < bt e.g. hattagga < habtarga「煙管」

kk < bk e.g. əkkərəŋ < əbkərəŋ「包む」

tʃtʃ < btʃ e.g. latʃtʃi < labtʃi「葉」


・12の複合子音を持ち、異音が出現する[10]

/nt/

/nd/

/rt/

/lt/

/ld/

/ŋtʃ/[nʲt͡ɕʰ]

/ŋdʒ/[nʲd͡ʑ]

/ŋg/

/ŋk/

/yg/[jɟ]

/yk/[jcʰ]

音節構造

以下の六つが存在する[11]

V

 oo「おしろい」, əhiŋ「姉」

VC

 ʉr「山」, əəŋ「薬」

VCC

 ald「尋ねる」, əndrəŋ「罠にかかる」

CV

 dʒʉʉ「部屋」, hahara「鶏」

CVC

 bəy「人」, taŋgursul「多い椀」

CVCC
 hiirt「瞬間」, dʒʉntrʉŋ「ばかになる」

アクセント[12]

・語の第二音節の母音にアクセントが一般には置かれる。強弱アクセントである。日本語のように意味の弁別には使われない。

aˈmiŋ「お父さん」, ʉˈnʉgʉŋ「乳牛」, pəˈsəglərəŋ「蹴る」, əˈləərəŋ「煮る」, təgˈgətʃtʃisəl「多い服」, dʒiˈriildʒirəŋ「魚が浮かび上がる」, oˈroottoloroŋ「草が生える」     ※(国際音声記号のアクセント記号ˈの使用法に準じて、アクセントをもつ音節開始時に第一アクセントの記号を置いた)


・第二音節以外の音節が長母音の場合、語のアクセントは長母音にうつることがある。

ˈsaadʒiraŋ「知っている」, suldʒiˈgeen「歪んだ角の牛」, dagaˈlaan「付近」, hʉgdʒiˈhəənəŋ「発展させる」

・語の第一音節と第二音節が全て長母音のときは、アクセントは第二音節に必ず置かれる。

baaˈmuuddi「両側だ」, uuˈtaahaŋka(ŋ)naŋ「緊張させる」

内モンゴル自治区輝河地域のエヴェンキ語の文法

概要

語順はSOVであり、膠着語である。

複数

接尾辞である。

下表の「略語」ではSは音節初頭子音、Vは母音(Vowel)、Cは子音(Consonant)、Aは短母音、Lは音節末のlを表している。下付き数字は出現する形式の数である。

内モンゴル自治区輝河地域のエヴェンキ語の複数接尾辞
用途 独自のグロス(「略語」) 活用語尾の形式 語例
通常の複数 SV6AL sal, səl, sol, sɵl, sul, sʉl

(の6形式)

adasal「姉達」həhəsəl「猫達」moosol「木木」

hɵɵggɵsɵl「指指」ʉldʉsʉl「肉肉」

親族の複数 NV5L nal, nəl, nol, nɵl, nel adanal「姉達」ənihə(ŋ)nəl「おばさん達」ami(ŋ)nel「父達」

hudugunol「親戚の伯母さん達」tʉgʉ(ŋ)nɵl「祖先達」

人名・地名・氏族や親族の呼称・職務や職業に関係する複数 CEN ʃeŋ ʃiŋaʃeŋ「シガ達(人名」imiŋʃeŋ「イミン地区(地名」

gatʃadaʃeŋ「村長達」tʃugaʃeŋ「軍人達」

通常の複数 C4C t, r, s, l 下記

子音による複数接尾辞は最も古い形態を残している[13]。niŋigt「真っ黒な野生の果物」

 →形が小さく、群れをなすものを-tは表す。

ninihi(ŋ)r「犬達」

 →動物呼称の語幹末に-rは現れる。

ʉr(ŋ)s「山山」

 →-sは自然物の複数概念を表す。

ninihi(ŋ)l「悪い犬たち」

 →-lによってマイナス評価(不満・冷淡・軽蔑)を表す。

名詞や代名詞でなく、形容詞や数詞も複数形となりうる。

honnoriŋ「黒い」→honnoriŋsol「黒いものたち」

antanʃi「甘い」→antanʃisal「甘いものたち」

nadan「七」→nadansal「七(人)たち」

namaadʒ「百」→namaadʒsal「百たち」

内モンゴル自治区輝河地域のエヴェンキ語の格接尾辞
定性 独自のグロス(「略語」) 活用語尾の形式 日本語訳の例
主格 ゼロ なし ~は、~が
属格 NI ni ~の
対格 C2CV6A ba, bə, bo, bɵ, bu, bʉ/wa, wə, wo, wɵ, wu, wʉ ~を
不定 C2GV6A a, ə, o, ɵ, u, ʉ/ya, yə, yo, yɵ, yu, yʉ ~(何)とかを
与格 SV2B du, dʉ ~に
処格 定(1) LV4A la, lə, lo, lɵ ~で、~に
定(2) LV4ALV4A dala, dələ, dolo, dɵlɵ ~で、~に
不定(1) LI li ~(何処)かに、~(何処)かで
不定(2) DV2BLI duli, dʉli ~(何処)かに、~(何処)かで
奪格 DIHI dihi ~から、~より
具格 JI dʒi ~で
共格 TE te ~と
方向格 THV4AHI thahi, thəhi, thohi, thɵhi ~へ
比較格 THI thi ~よりも
限定格 C2AV4AN haŋ, həŋ, hoŋ, hɵŋ/kaŋ, kəŋ, koŋ, kɵŋ ~だけが、~だけの
有格 CI ʃi ~を有する
所有格 TEEN teen ともにすべて

  1. ^ 2003年時点で32,600人


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