アウトウニオン・レーシングカー 設計

アウトウニオン・レーシングカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 14:18 UTC 版)

設計

アウトウニオン・レーシングカーが採用したミッドシップ・レイアウトは戦後クーパー・カー・カンパニーによって再び注目を集めたが、戦前のレースカーでは極めて異例な設計だった。前から順にラジエーター、ドライバー、燃料タンク、エンジンという構成で並ぶレイアウトだった。

アウトウニオン・タイプCに搭載されたV型16気筒エンジン

ミッドシップ設計を採用するに当たっては当時のラダーフレームシャシーとサスペンションの低い剛性が問題になった。エンジンを車体の中心付近に搭載したことでシャシーへの負荷が増大した結果、旋回時にターニングアングル(左右前輪の切れ角)が変化することになり、オーバステアを引き起こした。 フロントサスペンションは全てのモデルで独立懸架式であり、平行する2本のトレーリングアームとトーションバースプリングを組み合わせた上下2段式トレーリングアーム・サスペンションを搭載した。 初期のモデルではリアサスペンションに当時最新鋭だったスイングアクスル式サスペンションを採用したが、これはオーバーステア特性を改善する為のフェルディナント・ポルシェによるアイディアだった。

後期モデルであるタイプDのリアサスペンションにはメルセデス・ベンツのマシンに倣ってド・ディオンアクスルが採用されたが、タイプDのスーパーチャージャー付V12エンジンの出力は最終的に550馬力に達し、オーバーステア特性を悪化させた。 アウトウニオン・レーシングカーのオリジナルのエンジンはフェルディナント・ポルシェが設計したV16エンジンだったが、1938年のレギュレーション改定でスーパーチャージャー付エンジンの最大排気量が3.0Lに制限されたことを受けて新開発のV12エンジンに変更された。

タイプAのエンジンは本来6.0L V16エンジンとして設計されたが、実際に搭載されたエンジンは排気量4,358 cc のV16エンジンで295 bhp (220 kW)を発生した。2つのシリンダーブロックはバンク角45度で配置された。このエンジンでは1本のカムシャフトが32のバルブ全ての開閉を行い、半球状シリンダーヘッド内の吸気バルブはロッカーアームで直接カムシャフトに接続されたが、排気バルブ側のロッカーアームはスパークプラグの上を通るパイプ内のプッシュロッドを介してカムシャフトと接続された。構造上このエンジンは3つのヘッドカバーを持つことになった。 アウトウニオン・レーシングカーのV16エンジンは低回転域から充分なトルクを発生したが、その柔軟なトルク特性はベルント・ローゼマイヤーニュルブルクリンクで1つのギアのみで走行してみせたことで実証された。

ボディー開発は現存する科学研究機関であるドイツ航空宇宙センター風洞を利用して行われた。燃料タンクは車体の中央、ドライバーの着座位置直後に設置されていたが、これはレース中の燃料消費による前後の重量バランスの変化が起きないという利点をもたらした。(この点から燃料タンクは現代のフォーミュラカーでも同様の位置に設置される。)初期のモデルではシャシーフレームの鋼管を通してラジエーターからエンジンに冷却水を送る設計になっていたが、冷却水の漏洩が発生するこのシステムは最終的に放棄された。


  1. ^ 原文では4,385ccだが誤植と思われる。3.14159×(6.8/2)×(6.8/2)×7.5×16=4,358.013648。
  2. ^ いずれ6,000rpmに向上させるとしていた。
  3. ^ 原文では4,360ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(6.8/2)×(6.8/2)×7.5×16=4,358.013648。
  4. ^ 原文では4,950ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.25/2)×(7.25/2)×7.5×16=4953.89473125。
  5. ^ 原文では6,010ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.5/2)×(7.5/2)×8.5×16=6,008.290875。
  6. ^ 原文では6,330ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.7/2)×(7.7/2)×8.5×16=6,333.0056174。
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 『F.ポルシェ その生涯と作品』pp.83-90「アウト・ウニオン・レーシングカー」。
  2. ^ Auto Union Racing Cars”. BBC. 2009年6月20日閲覧。
  3. ^ THE GOLDEN ERA – OF GRAND PRIX RACING”. kolumbus.fi. 2016年12月18日閲覧。
  4. ^ Damon Lavrinc RSS feed (2008年6月24日). “Audi to debut Auto Union "Silver Arrow" Type D reconstruction at Goodwood”. Autoblog.com. 2011年12月13日閲覧。
  5. ^ a b c Auto Union Type C”. seriouswheels.com. 2009年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月20日閲覧。
  6. ^ Van onze verslaggever Theo Stielstra. “Miljoenen voor 'Hitlers Porsche' – Economie – de Volkskrant” (オランダ語). Volkskrant.nl. 2011年12月13日閲覧。
  7. ^ “'World's most valuable car' fails to sell - CNN.com”. CNN. https://edition.cnn.com/2007/AUTOS/03/10/auto_union_dtype_no_sale/index.html 2010年4月26日閲覧。 
  8. ^ Lewis, Simon (2009年6月20日). “The fast and the Führer: Own Hitler's car for £5.5m”. London: Daily Mail. オリジナルの2009年6月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090605094226/http://www.dailymail.co.uk/home/moslive/article-1188977/The-fast-F-hrer-Own-Hitlers-car-5-5m.html 2009年6月20日閲覧。 
  9. ^ Bonhams Auctioneers. “1939 Auto Union 3-liter 'D-Type' V12 Grand Prix Racing Single-Seater Chassis no. '19' Engine no. 17”. Bonhams.com. 2012年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月13日閲覧。
  10. ^ Frank Filipponio RSS feed. “Monterey 2009: Auto Union is a no-sale at Bonhams”. Autoblog.com. 2011年12月13日閲覧。
  11. ^ Audi Rebuilds Historic Auto Union Wanderer Streamline Specials”. Worldcarfans.com (2004年3月31日). 2011年12月13日閲覧。
  12. ^ Sensational Comeback of the Wanderer Streamline Special”. Worldcarfans.com (2011年12月9日). 2011年12月13日閲覧。
  13. ^ Rare 'Streamline Special' Wanderers back on the road following Audi Tradition restoration”. Classicdriver.com. 2011年12月13日閲覧。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アウトウニオン・レーシングカー」の関連用語

アウトウニオン・レーシングカーのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アウトウニオン・レーシングカーのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアウトウニオン・レーシングカー (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS