アウトウニオン・レーシングカー 現存車両

アウトウニオン・レーシングカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 14:18 UTC 版)

現存車両

インゴルシュタットのアウディ博物館に展示される1938年型V16エンジン搭載タイプC/D

当時のレーシングカーが保存されることは非常に稀であり、一線を退いた旧型車両の構成部品は必要に応じて後のモデルの部品として流用されたり、修理に使用されたりすることで失われていた。旧型車両の一部が残ったとしても不要になった車両は開発資金の補填のためにスクラップにされた上で売却されるのが常だった。

第二次世界大戦末期には推定で18台のアウトウニオン・レーシングカーが、アウトウニオンのレース車両製造所があったザクセン州ツヴィッカウ郊外の炭坑内に隠された。しかし1945年に赤軍がドイツに侵攻すると秘匿されたマシンは発見され、戦利品として接収された。ツヴィッカウは戦後の東ドイツ内に位置していたため、アウトウニオンの残された数少ないマシンはソビエト連邦に送られ、研究の為にNAMI (中央自動車研究所)英語版をはじめとする科学研究機関や自動車製造業者に分配されることとなった。アウトウニオン社自体も西ドイツに移転することを余儀なくされ、1949年にインゴルシュタットで再結成された新生アウトウニオンは最終的に今日のアウディに発展していった。

今日ではソビエト連邦に接収されたマシンの大部分はスクラップにされていると考えられ、タイプA及びタイプBは現存していないとされる。現存しているのは1台のタイプCと3台のタイプD、そしてヒルクライム仕様のタイプC/Dの混成モデルが1台のみとされる。

唯一現存する1台のタイプCはローゼマイヤーの死後、タイプCが2、3台しか現存しなくなったことを受けてアウトウニオンがドイツ博物館に寄贈したものだった。車体には戦中の爆撃で受けた損傷の跡があり、今でも確認できる。1979年から1980年にかけてアウディはこのマシンのレストア作業を外部に委託する形で行い、車体とエンジン、トランスミッションに保存状態を維持できる範囲でのオーバーホールを実施した。

ミュンヘンドイツ博物館に展示されるオリジナルのタイプC

接収された内の1台は技術分析を目的としてモスクワに送られた。1976年にはジルの工場でスクラップの為の解体作業を待っていたこの車両は、破壊される前にラトビア・アンティーク自動車クラブ会長のヴィクトル・クルベリによってリガ自動車博物館に移された。

リガ自動車博物館に展示される1938年型タイプC/Dのレプリカ

ソビエト連邦の崩壊後、アウディの技術者はこの車両が16気筒エンジンのヒルクライム用タイプC/D混成モデルであることを確認し、アウディはこの車両をそのレプリカと引き換えに入手した。オリジナルの車の再生産不可能な部品が全て保存されていること、レプリカは再生産可能な部品とアウディが既に製作していたレプリカマシンの部品を利用して製作することが取引の条件だった。アウディがこの取引で費やした資金額は公開されなかった。1997年にはイギリスのバックステッドに拠点を置くクロスウェイト&ガーディナーと、同じくイギリスのオワーに拠点を置くローチ・マニュファクチャリングがアウディから依頼を受けてこの車両のレストアを行い、同時にレプリカも製作した。アウディ博物館に展示されているオリジナルの車両はモーターショーで展示される他、アウトウニオンのドライバー、ハンス・スタックの息子で自身も長年アウディのレースカーをドライブしたハンス=ヨアヒム・スタックがレースイベントの際にデモンストレーション走行を披露することもある。一方、レプリカ車両は2007年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで初めて公開され、ピンク・フロイドニック・メイスンの手でデモンストレーション走行を行った。[4]現在このレプリカはリガ自動車博物館に展示されている。[5]

アメリカの自動車愛好家ポール・カラシックはシャシー番号19の車体がロシアにあることを突き止め、入手したそのシャシーに別のタイプDの残骸から回収したエンジンを組み合わせたものをクロスウェイト&ガーディナー社に持ち込んでレストアを依頼した。レストアされた車両は2007年2月にパリクリスティーズでオークションにかけられることになっていた。[6] 自動車オークションにおける史上最高の落札価格(1200万ドル以上)が予想されたが、この封印入札方式でのオークションでは1人も買い手を見つけることができなかった。シャシーとエンジンが同一の車体からのものではなかったこと、シャシーとエンジンの型番がこの車両であるとされていたオリジナルのマシンのものと一致しないことが発覚したのが原因だった。[7]

この車両は2009年8月に再びオークションにかけられ、オークションハウスのボナムス英語版は落札額を最低550万ポンドと見込んだ。[8][9]入札額は600万ポンドで滞り、このオークションは流札となった。[10]

レプリカ

インゴルシュタットのアウディ自動車博物館に展示されるタイプCストリームライナーのレプリカ

2000年にアウディはタイプC・ストリームライナー(流線型モデル)のレプリカの製作を依頼し、2000年5月には完成したレプリカがフランスのリナ・モンレリ英語版の有名なバンクコースを走行した。アヴスで行われたオリジナル車両の初走行でベルント・ローゼマイヤーが380 km/h (236 mph)を記録してから63年が経過していた。[5] 現在この車両はインゴルシュタットのアウディ自動車博物館に展示されているが、世界各地で行われる自動車関連イベントに参加することもあり、アウディの100周年を記念して2008年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにも姿を見せた。[5]

2004年にはアウトウニオン・ヴァンダラー・ストリームラインスペシャルのレプリカが生産されることが発表され、3台の車両がレストア業者のヴェルナー・ジンケGmbHによって製作された。これを記念してアウディ・トラディションはカーナンバー17番の車両の43分の1スケールモデルを製作した。[11] 製作された車両はオリジナルの車両も65年前に参戦したレース、リエージュローマリエージュにも参加した。[12] 2台の車両はインゴルシュタットのアウディ博物館に展示されており、残る1台はベルギーのアウディ輸入業者ディエトラン英語版が所有している。[13]


  1. ^ 原文では4,385ccだが誤植と思われる。3.14159×(6.8/2)×(6.8/2)×7.5×16=4,358.013648。
  2. ^ いずれ6,000rpmに向上させるとしていた。
  3. ^ 原文では4,360ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(6.8/2)×(6.8/2)×7.5×16=4,358.013648。
  4. ^ 原文では4,950ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.25/2)×(7.25/2)×7.5×16=4953.89473125。
  5. ^ 原文では6,010ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.5/2)×(7.5/2)×8.5×16=6,008.290875。
  6. ^ 原文では6,330ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.7/2)×(7.7/2)×8.5×16=6,333.0056174。
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 『F.ポルシェ その生涯と作品』pp.83-90「アウト・ウニオン・レーシングカー」。
  2. ^ Auto Union Racing Cars”. BBC. 2009年6月20日閲覧。
  3. ^ THE GOLDEN ERA – OF GRAND PRIX RACING”. kolumbus.fi. 2016年12月18日閲覧。
  4. ^ Damon Lavrinc RSS feed (2008年6月24日). “Audi to debut Auto Union "Silver Arrow" Type D reconstruction at Goodwood”. Autoblog.com. 2011年12月13日閲覧。
  5. ^ a b c Auto Union Type C”. seriouswheels.com. 2009年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月20日閲覧。
  6. ^ Van onze verslaggever Theo Stielstra. “Miljoenen voor 'Hitlers Porsche' – Economie – de Volkskrant” (オランダ語). Volkskrant.nl. 2011年12月13日閲覧。
  7. ^ “'World's most valuable car' fails to sell - CNN.com”. CNN. https://edition.cnn.com/2007/AUTOS/03/10/auto_union_dtype_no_sale/index.html 2010年4月26日閲覧。 
  8. ^ Lewis, Simon (2009年6月20日). “The fast and the Führer: Own Hitler's car for £5.5m”. London: Daily Mail. オリジナルの2009年6月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090605094226/http://www.dailymail.co.uk/home/moslive/article-1188977/The-fast-F-hrer-Own-Hitlers-car-5-5m.html 2009年6月20日閲覧。 
  9. ^ Bonhams Auctioneers. “1939 Auto Union 3-liter 'D-Type' V12 Grand Prix Racing Single-Seater Chassis no. '19' Engine no. 17”. Bonhams.com. 2012年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月13日閲覧。
  10. ^ Frank Filipponio RSS feed. “Monterey 2009: Auto Union is a no-sale at Bonhams”. Autoblog.com. 2011年12月13日閲覧。
  11. ^ Audi Rebuilds Historic Auto Union Wanderer Streamline Specials”. Worldcarfans.com (2004年3月31日). 2011年12月13日閲覧。
  12. ^ Sensational Comeback of the Wanderer Streamline Special”. Worldcarfans.com (2011年12月9日). 2011年12月13日閲覧。
  13. ^ Rare 'Streamline Special' Wanderers back on the road following Audi Tradition restoration”. Classicdriver.com. 2011年12月13日閲覧。





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