アウトウニオン・レーシングカー
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概要
この車両には4種のモデルが存在するが、その内1934年から1937年にかけて使用されたタイプA、タイプB、及びタイプCはスーパーチャージャー付V型16気筒エンジンを搭載していた。一方で最後のモデルとなったタイプDは1938年導入の新レギュレーションに適合する約550馬力のV型12気筒エンジンを搭載しており、1938年から1939年にかけて使用された。
100 mph (160 km/h)の速度域でも発生するホイールスピンと、開発が進んでも解決されることは無かった著しいオーバーステアにより、アウトウニオン・レーシングカーは操縦が非常に困難なマシンになった。6L V16エンジンの代わりにV12エンジンを搭載したタイプDはエンジン出力が抑えられ、更にエンジンが占有するスペースが半分程度になったことで他のモデルに比べて優れた操縦性を持っていた。アウトウニオンのマシンのナーバスな操縦特性は、4輪のタイヤサイズが全て同じであったことと、非常に重いエンジン重量(特にタイプCに搭載された6L V16エンジン)、そして当時のレーシングカーは全くダウンフォースを持っていなかったという事実に起因していた。この様な条件の下ではマシンのリアを安定させることは事実上不可能であり、オーバーステアを解消することも同様に不可能であった。
レーシングカーのパフォーマンスに関わる物理学的、空気力学的な知識は1960年代になるまで蓄積されることは無く、アウトウニオンの洗練されたサスペンションをもってしてもセットアップ調整によってオーバーステアを解消することはできなかった。当時のレースで使用された幅の細いタイヤもオーバーステアを悪化させる要因であり、当時のタイヤが持つグリップの限界を越えたことで生まれた劣悪な操縦性は時代の先を行く先進性を示すものでもあった。
1935年から1937年のグランプリ・シーズンでアウトウニオンは25のレースに勝利した。アウトウニオンチームに所属したドライバーはエルンスト・フォン・デリウス、タツィオ・ヌヴォラーリ、ベルント・ローゼマイヤー、ハンス・スタック、そしてアキーレ・ヴァルツィ等だった。アウトウニオンの主要なライバルはメルセデス・ベンツのチームだったが、1936年と1937年のグランプリ・シーズンでアウトウニオンのマシンは大きな成功を収めた。ドイツの2チームのマシンは シルバー・アロー と呼ばれグランプリ・レーシングを支配した。その支配的状況は1939年の第二次世界大戦勃発まで続いた。
750kgフォーミュラ
1932年10月にパリの国際スポーツ委員会は「自動車の総重量はオイル、水、タイヤ抜きで最高750kg」というレーシングカーの新しい規定を定めた[1]。これに興味を持ったフェルディナント・ポルシェは独自に設計を始め、カーレス、ローゼンベルガー、そして当時設計部長であったカール・ラーベらと討議して進め、1932年11月15日には算定書ができあがった[1]。その中にはシリンダー角45度、ボアφ68mm×ストローク75mmで4,358cc[注釈 1]、圧縮比7.0、最高回転数4,500rpm[注釈 2]のV型16気筒エンジンを搭載し最高速度294km/hというデータがあり、これは後のアウトウニオン・レーシングカーと極めて正確に一致している[1]。このレーシングカーを作り出すためにポルシェから独立し自らレース参加までできる前提で高性能車製作有限会社(Hochleistungsfahrzeugbau GmbH:HFB)が設立された[1]。
ポルシェにアウトウニオンから設計委託
1932年にアウトウニオンが成立すると、この750kg規定でレース参戦することを決定し、その設計を委託するため重役2人がポルシェを訪れた[1]。フェルディナント・ポルシェは「それならもう私のポケットに入っていますよ」と答えたという[1]。
設計はHFBからアウトウニオンに移管され、設計者フェルディナント・ポルシェの頭文字Pを取ってアウトウニオン・Pヴァーゲンと名付けられた[1]。ポルシェとしての製作番号は22である[1]。1933年3月にアヴスにてドイツ国民の前に姿を初めて現し、ハンス・スタックの運転で最初の記録走行が行なわれ、217.11km/hを記録した[1]。1933年から1934年にかけての冬にフェルディナント・ポルシェ立ち会いの元、最初のテスト走行がモンツァ・サーキットとイタリア高速道路で行なわれた[1]。最初の1-2年、750kg規定で行なわれたほとんどのレースにフェルディナント・ポルシェも立ち会い、ピットで2個のストップウォッチを操作して自らラップタイムを計測し、撮影し、レース展開に対し技術的指導をした[1]。
- ^ 原文では4,385ccだが誤植と思われる。3.14159×(6.8/2)×(6.8/2)×7.5×16=4,358.013648。
- ^ いずれ6,000rpmに向上させるとしていた。
- ^ 原文では4,360ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(6.8/2)×(6.8/2)×7.5×16=4,358.013648。
- ^ 原文では4,950ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.25/2)×(7.25/2)×7.5×16=4953.89473125。
- ^ 原文では6,010ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.5/2)×(7.5/2)×8.5×16=6,008.290875。
- ^ 原文では6,330ccだが四捨五入してあると思われる。3.14159×(7.7/2)×(7.7/2)×8.5×16=6,333.0056174。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 『F.ポルシェ その生涯と作品』pp.83-90「アウト・ウニオン・レーシングカー」。
- ^ “Auto Union Racing Cars”. BBC. 2009年6月20日閲覧。
- ^ “THE GOLDEN ERA – OF GRAND PRIX RACING”. kolumbus.fi. 2016年12月18日閲覧。
- ^ Damon Lavrinc RSS feed (2008年6月24日). “Audi to debut Auto Union "Silver Arrow" Type D reconstruction at Goodwood”. Autoblog.com. 2011年12月13日閲覧。
- ^ a b c “Auto Union Type C”. seriouswheels.com. 2009年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月20日閲覧。
- ^ Van onze verslaggever Theo Stielstra. “Miljoenen voor 'Hitlers Porsche' – Economie – de Volkskrant” (オランダ語). Volkskrant.nl. 2011年12月13日閲覧。
- ^ “'World's most valuable car' fails to sell - CNN.com”. CNN 2010年4月26日閲覧。
- ^ Lewis, Simon (2009年6月20日). “The fast and the Führer: Own Hitler's car for £5.5m”. London: Daily Mail. オリジナルの2009年6月5日時点におけるアーカイブ。 2009年6月20日閲覧。
- ^ Bonhams Auctioneers. “1939 Auto Union 3-liter 'D-Type' V12 Grand Prix Racing Single-Seater Chassis no. '19' Engine no. 17”. Bonhams.com. 2012年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月13日閲覧。
- ^ Frank Filipponio RSS feed. “Monterey 2009: Auto Union is a no-sale at Bonhams”. Autoblog.com. 2011年12月13日閲覧。
- ^ “Audi Rebuilds Historic Auto Union Wanderer Streamline Specials”. Worldcarfans.com (2004年3月31日). 2011年12月13日閲覧。
- ^ “Sensational Comeback of the Wanderer Streamline Special”. Worldcarfans.com (2011年12月9日). 2011年12月13日閲覧。
- ^ “Rare 'Streamline Special' Wanderers back on the road following Audi Tradition restoration”. Classicdriver.com. 2011年12月13日閲覧。
- 1 アウトウニオン・レーシングカーとは
- 2 アウトウニオン・レーシングカーの概要
- 3 設計
- 4 車両
- 5 AIACRヨーロッパ選手権成績
- 6 現存車両
- 7 技術仕様
- 8 出典
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