せん断写像
平面において、水平せん断(または、x 軸に平行なせん断)とは、座標で表される点をに写す変換である。ここでは定数で、せん断因子と呼ばれる。
この写像により、任意の点はその座標に比例して水平に移動する。軸より上にある点は、ならば右に(座標が増加する方向に)移動し、ならば左に移動する。軸より下にある点はこれとは逆に移動し、軸上の点は動かない。
軸と平行な直線はそのままだが、それ以外のすべての直線は軸との交点を中心にして様々な角度に回転する。特に、鉛直線は傾きの斜線に代わる。すなわち、せん断因子は鉛直線が傾く角度(せん断角という)の余接である。
点の座標が列ベクトル(2×1行列)の形で書かれているとき、せん断写像は次のように2×2行列を左からかける形で表すことができる。
鉛直せん断(または、軸に平行なせん断)も同様にして、とを取り換えることで定義される。行列による表現は先の行列の転置行列となる。
鉛直せん断により軸より右側の点はの符号に応じて上または下に移動する。鉛直線は動かないが、それ以外の直線は軸との交点を中心に傾く。特に水平線は、傾きがになるようなせん断角だけ傾く。
一般せん断写像
ベクトル空間 V とその部分空間 W について、W を保つせん断は任意のベクトルを W に平行に動かす写像である。
より正確には、V を W と W′ の直和であるとし、任意のベクトルvを
- v = w + w′
と書くとき、W を保つせん断 L は
- L(v) = (w + Mw′) + w ′
で定められる写像である。ただし、M は W′ を W の中へ移す線型変換とする。したがって、区分行列の記法を用いると L を表す行列は
と書ける。すなわち、対角線部分は 単位行列 I 、上半部分は M 、下半部分は0となる行列である。
応用
以下の応用例はウィリアム・クリフォードによるものである。
- 「せん断により、直線で囲まれた任意の図形をそれと面積の等しい三角形にすることができる。」
- 「...任意の三角形はせん断により面積を変えずに直角三角形にすることができる。したがって任意の三角形の面積は、底辺が同じで、高さが底辺から対角へ立てた垂線の長さに等しい長方形の面積の半分である。」[2]
せん断写像の面積を保存する性質から、面積に関する様々な結果が得られる。たとえばピタゴラスの定理が成り立つことは、せん断写像を用いて図示することができる。[3]
Alan W. Paethによるアルゴリズムでは、デジタル画像を任意の角度だけ回転させるために、水平、鉛直、水平の3回のせん断を用いる。このアルゴリズムは実装が容易でありながら、各ステップで一度に1行(あるいは1列)のピクセルしか処理しないために、非常に有用なアルゴリズムである。[4]
参考文献
- ^ この定義は Weisstein, Eric W による。 Shear From MathWorld - A Wolfram Web Resource
- ^ ウィリアム・クリフォード (1885) Common Sense and the Exact Sciences, 113ページ
- ^ Mike May S.J. Pythagorean theorem by shear mapping, (セントルイス大学; 要 Java および GeoGebra。 "Steps"をクリックしていくとステップ5および6でせん断が用いられている。
- ^ Alan Paeth (1986), A Fast Algorithm for General Raster Rotation. Proceedings of Graphics Interface '86, 77-81ページ.
- Weisstein, Eric W. "Shear" from Mathworld, A Wolfram Web Resource.
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