超原子価ヨウ素化合物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/10/17 09:07 UTC 版)
Jump to navigation Jump to search超原子価ヨウ素化合物(ちょうげんしかヨウそかごうぶつ、英: hypervalent iodine compounds)は、超原子価ヨウ素を含む化合物である。
これらの化合物中のヨウ素原子は、オクテット則が要する8個より多くの電子をもつため、超原子価となっている。ヨウ素が塩素のような一座配位性の電気陰性な配位子と錯体を形成するとき、酸化数+3のヨウ素(III) λ3-ヨーダン、もしくは+5のヨウ素(V) λ5-ヨーダン の化合物が生じる。ヨウ素自身は7個の価電子をもち、λ3-ヨーダンではヨウ素をデセット (英: decet) 構造にする配位子によってさらに電子3個が供与される。λ5-ヨーダンはドデセット (英: dodecet) 分子である。
ヨードベンゼンのような通常のヨウ素化合物の価電子数は、予測されたように8である。このような1価のヨウ素化合物から3価や5価の超原子価ヨウ素化合物を得るためには、まず酸化により2個、もしくは4個の電子を除去し、配位子はそのヨウ素に2対または4対の電子対を供与して配位結合を形成する必要がある。L-I-N で、L は供与される電子の数、N は配位子の数を表す。
ペルヨージナン化合物
ペルヨージナン (英: periodinane) は、ヨウ素(V)を含む化合物の慣用名である。超原子価ヨウ素の概念は1969年に J.J. Musher によって確立された。超原子価化合物中の過剰な電子に対応するため、電子不足化合物で見られる三中心二電子結合に類似した三中心四電子結合が導入された。そのような1本の結合がヨウ素(III)化合物に、2本の結合がヨウ素(V)化合物に存在する。
最初の超原子価ヨウ素化合物、(ジクロロヨード)ベンゼン C6H5Cl2I は、冷却したヨードベンゼンのクロロホルム溶液に塩素を通じることで、1886年に Conrad Willgerodt によって合成された[1]。
この反応において中間体 A として示されるヒドロキシヨーダンは、ヒドロキシルアミン基を順番にナイトレニウムイオン B に変換する犠牲触媒 mCPBA を伴うヨウ化アリールの酸化によって生じる。このナイトレニウムイオンは、エノン基とラクタムを形成している芳香環へのイプソ付加における求電子剤である。
注釈
- ^ 電気陰性な置換基がアピカル位を優先的に占めるという位置選択性。
出典
- ^ C. Willgerodt, Tageblatt der 58. Vers. deutscher Naturforscher u. Aertzte, Strassburg 1885.
- ^ J. G. Sharefkin and H. Saltzman. “Benzene, iodoso-, diacetate”. Organic Syntheses .; Collective Volume, 5, pp. 660
- ^ Sharon R. Neufeldt and Melanie S. Sanford Acc. Chem. Res, 2012, 45, 936, DOI: 10.1021/ar300014f
- ^ J. G. Sharefkin and H. Saltzman. “Benzene, iodoxy-”. Organic Syntheses .; Collective Volume, 5, pp. 665
- ^ H. Saltzman and J. G. Sharefkin. “Benzene, iodoso-”. Organic Syntheses .; Collective Volume, 5, pp. 658
- ^ Robert K. Boeckman, Jr., Pengcheng Shao, and Joseph J. Mullins. “1,2-Benziodoxol-3(1H)-one, 1,1,1-tris(acetyloxy)-1,1-dihydro-”. Organic Syntheses .; Collective Volume, 10, pp. 696
- ^ Daniel B. Dess, J. C. Martin, J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 7277
- ^ Diaryliodonium Salts: A Journey from Obscurity to Fame Eleanor A. Merritt and Berit Olofsson Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48 doi:10.1002/anie.200904689
- ^ C. Hartmann, V. Meyer, Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1894, 27, 426.
- ^ Hypervalent iodine(V) reagents in organic synthesis Uladzimir Ladziata and Viktor V. Zhdankin Arkivoc 05-1784CR pp 26-58 2006 Article
- ^ Dohi, Toshifumi; Maruyama, Akinobu; Minamitsuji, Yutaka; Takenaga, Naoko; Kita, Yasuyuki (2007年). “First hypervalent iodine(iii)-catalyzed C–N bond forming reaction: catalytic spirocyclization of amides to N-fused spirolactams”. Chem. Commun. (12): 1224–1226. doi:10.1039/B616510A. ISSN 1359-7345.