脳血管内治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/05 02:34 UTC 版)
脳血管内治療(のうけっかんないちりょう)は、脳神経外科領域の病気に対して血管中からカテーテルを使用し行う治療法である。一般的な開頭手術に比べて低侵襲であり、近年急速に広まっている[1]。
概要
脳の血管をカテーテルと造影剤を使って撮影する検査である脳血管撮影から発展した手術法。血管内治療のうち、特に脳内の治療を指す。1990年代以降カテーテルやステントなどの医療器具の改良に伴い急速に広まり、2025年現在、日本全体では年間1万件以上の脳血管内治療が行われている。脳の疾患に対して、開頭することなく、血管の中からアプローチする手術法で、治療成績の向上と共に急速に広まった。超急性期脳梗塞に対する血栓回収治療や脳動脈瘤に対するコイル塞栓術、頚動脈狭窄等の血管が細くなった部分を拡張しステントを留置する治療などがある[2][1]。
様々な疾患が血管内治療の対象となるが、脳動脈瘤、脳の血管奇形など主に金属コイル・接着剤などを使用し病変部を閉塞し、出血を予防する手術と、狭窄した血管を拡げ血流を改善させ脳梗塞を防ぐ手術に大別される[2]。
手術法
心臓のカテーテル検査同様に足の付け根や肘の内側の血管など、体の表面近くを通る太い血管からカテーテルを挿入し、大動脈を経由し脳の血管までカテーテルを進める。動脈は比較的体内の深部を走行するが、手首・肘・太ももの付け根では動脈が浅い部分を走行しているため、そうした場所から動脈の中にカテーテルを挿入することで、体の様々な末端の場所に誘導できる[3]。
手術の際は検査用のカテーテルの中に、さらに細いカテーテルを入れ、首や頭の中の血管など疾患の発生している部位まで進めていき、各種器具や薬品を用いて病気を治療する。最初に足の付け根か、肘の内側の動脈にシースと言われる短いチューブを入れ、その中に直径3mm程度のガイドカテーテルと呼ばれるチューブを首の動脈まで誘導し、さらにガイドカテーテル中に1mm強のマイクロカテーテルを通して、脳の病変部に到達させ、金属コイル等を挿入して病変部を閉塞する。血管内にはカテーテルから造影剤が注入され、造影剤の流れはエックス線装置により画像化し、その画像をガイドとして治療用器具を誘導する。血管の拡張の必要がある場合は、マイクロカテーテルではなく、拡張用の風船の付属したカテーテルや、金属製の筒であるステントを病変に置き血管を拡げる[2][4]。治療に用いる器具は非常に繊細であるため、高性能のX線透視装置が必要である。さらに、複雑に走行する脳血管に対しては高精細なナビゲーションシステムが必要となる[3]。
以前は脳動脈瘤に対しては、直達手術の開頭による脳動脈瘤頚部クリッピング術が主流で、その歴史は1930年頃までさかのぼる。当初は肉眼で手術が行われていたが、1960年代に入ると手術用顕微鏡が用使用されるようになり、1mm以下の微細な血管を温存しつつ、安全な手術が実現した。このため、最近までは脳動脈瘤に対する標準治療は、この手法が主流となった。近年に至り、さらに優れた手術方法が模索され、脳動脈瘤に対する血管内治療として脳血管内治療である脳動脈瘤内コイル塞栓術(コイリング)が考案された。入院期間は大幅に短縮され、退院の翌日には退院し仕事にも復帰できる。しかしカテーテル治療は何らかのトラブルが発生した際に重篤化しやすい傾向があるというデメリットは残るため、直達手術と脳血管内治療のどちらを採用すべきかは専門的な判断が必要になる[3]。
脚注
- ^ a b “脳血管内治療外来”. 地方独立行政法人大阪府立病院機構. 2025年10月1日閲覧。
- ^ a b c “脳血管内治療”. 日本脳神経外科学会. 2025年10月1日閲覧。
- ^ a b c “血管内治療外来”. 東京大学脳神経外科. 2025年10月1日閲覧。
- ^ “脳神経血管内治療について”. 慶應義塾大学医学部外科. 2025年10月1日閲覧。
関連項目
外部リンク
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