ザイフェルト曲面
(結び目の種数 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/05/01 17:15 UTC 版)
ザイフェルト曲面またはザイフェルト膜とは、結び目(あるいは絡み目、以下同様)を境界に持つような向き付け可能(つまり表裏のある)曲面である。より正確には以下の通りである: R3(または S3 など)内の境界を持つコンパクトかつ向き付け可能な二次元曲面 Ω が結び目 K のザイフェルト曲面であるとは、∂Ω = K、すなわち Ω の境界が結び目 K になっているときをいう。例えば円盤D2 は自明な結び目のザイフェルト曲面である。併し(一回半ひねりの)メビウスの輪は三葉結び目を境界に持つ曲面であるが、向き付け可能でないため、これはザイフェルト曲面ではない。さらに結び目 K に向きを込めて考えているときの K のザイフェルト曲面とは、実際に向きを付けられた曲面 Ω であって、その境界 ∂Ω が( Ω 自身の向きから自然に誘導される)向きを込めて K と一致しているものをいう。
どのような結び目に対しても、そのような曲面が存在することを最初に証明したのはフランクル-ポントリャーギン(1930年)であるが、後に実際にそのような曲面を構成するアルゴリズムを見付けたザイフェルト(1934年)に因んで、ザイフェルト曲面と呼ばれる。
ザイフェルトのアルゴリズム
任意の有向絡み目の射影図に対して、以下のようにしてその絡み目のザイフェルト曲面を構成することができる。
- ステップ1
- 与えられた有向絡み目の射影図に対して平滑化(smoothing)と呼ばれる操作を行う。つまり、有向絡み目の射影図の交点は必ず下図の図1か図2のようになっているので、それらを図3のように置換する。平滑化によって射影図の全ての交点は消去され、図には(向き付けられた)有限個の円周が残る。これらの円周をザイフェルト円周またはザイフェルト周という。
- ステップ2
- 各ザイフェルト円周に対して、その円周を境界に持つような円板を張る。ただし、元の射影図によってはあるザイフェルト円周の内部に別のザイフェルト円周が入っている場合がある。そのような場合は、内側の円周を外側の円周より少しだけ上に持ち上げてから円板を張ることにする。このようにしてザイフェルト円周の個数と等しい、互いに交わらない円板ができる。
- ステップ3
- 最後に、ステップ1の平滑化で消去した各交点のところで、両側の円板を180°ひねった帯で連結させる。このときの帯のひねり方は、ステップ1で平滑化する前の交点の上下と、ひねった帯の境界(両側)の上下が一致するようにする。
以上で、与えられた有向絡み目を境界に持つ曲面を構成できた。この方法をザイフェルトのアルゴリズムという。ザイフェルトのアルゴムリズムで構成された曲面は向き付け可能になっているため、ザイフェルト曲面である。ステップ2で円板を貼るとき、ザイフェルト円周が時計回りに向き付けられていれば円板の上側を表・下側を裏とし、円周が反時計回りのときは上側を裏・下側を表と定めておけば、平滑化するときに交点の両側の円周の向きが逆になっていることから、180°ひねった帯で連結させたときに片方の円板の表が他方の円板の表に、裏は裏につながっていることがわかる。
ザイフェルト曲面の存在とザイフェルト行列
存在とは、すべての絡み目に、ザイフェルト曲面が伴っているという定理である。この定理は、最初にフェリックス・フランクル(Felix Frankl)とレフ・ポントリャーギン(Lev Pontryagin)により1930年に出版された[1]。別の証明がヘルベルト・ザイフェルト(Herbert Seifert)により1934年に出版され、この証明はザイフェルトのアルゴリズムと現在呼ばれているものに依存している。このアルゴリズムは、問題の与えられた結び目や絡み目の射影が与えられると、ザイフェルト曲面 を作りだすアルゴリズムである。
絡み目が m 個の成分(m = 1 が結び目)を持っていて、(射影された)図が d 個の交点をもってて、交叉が f 個の円(結び目の向き付けを保つ)として解消しているとすると、曲面 は d 個の帯のついた f 個の交点を持たない円板から構成される。ホモロジー群
は 2g 個の生成子をもつ自由アーベル群である。ここに
は の種数である。
上の交叉形式 Q は、反対称行列で、2g 個のサイクル
の基底が存在し、行列
は、
.
の g 個のコピーの直和である。
結び目種数
ザイフェルト曲面は、すべてが一意的とは限らない。種数 g のザイフェルト曲面 S とザイフェルト行列 V は手術(surgery)により変形することができる。この変形は、種数 g+1 のザイフェルト曲面 S' とザイフェルト行列
に置き換えることにより変形される。結び目 K の種数は結び目不変量であり、K のザイフェルト曲面の最小な種数により定義される。
たとえば、
- 自明な結び目は、種数 0 である。定義により円板の境界である。さらに、自明な結び目は、唯一の種数 0 の結び目である。
- 三葉結び目は種数 1 である。八の字結び目も同様である。
- (p, q)-トーラス結び目(torus knot)の種数は、(p − 1)(q − 1)/2 である。
- アレクサンダー多項式の次数は、結び目種数の 2倍に下界を持つ(2倍よりも大きい)。
種数の基本的性質は、結び目の連結和に関して加法的である。このことはシューベルトにより示されている。
関連項目
参考文献
- C・C・アダムス著、金信泰造訳 『結び目の数学』 培風館、1998年、94-99頁。ISBN 978-4563002541。
- 村杉邦男 『結び目理論とその応用』 日本評論社、1993年、63-67頁。ISBN 978-4535781993。
- 鈴木晋一 『結び目理論入門』 サイエンス社、1991年、41-44頁。ISBN 978-4781906331。
- W. B. R. リコリッシュ 『結び目理論概説』 シュプリンガー・フェアラーク東京、2000年、21-26頁。ISBN 978-4431708599。
- ^ Frankl, F.; Pontrjagin, L. (1930). "Ein Knotensatz mit Anwendung auf die Dimensionstheorie". Math. Annalen 102 (1): 785–789. doi:10.1007/BF01782377.
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