磁気浮上
磁気浮上(じきふじょう、英: Magnetic levitation, maglev, magnetic suspension)は、磁力のみによって物体を空中浮揚させる方法を指す。マグレブとも。重力に抗する力として電磁気力が用いられる。
いくつかの場合には、浮上のための力としては磁気浮上を用いるものの安定化のために微小な力を加える支持機構が用いられる。これは擬似磁気浮上(英: pseudo-levitation)と呼ばれる。
安定性
アーンショーの定理により、静的・巨視的・「古典的」な電磁場のみによる安定な浮上は実現できない事が証明されている。物体に加わる重力や静電場・静磁場からの力をどのように組み合わせても、物体の位置は不安定となる。しかし、実用的な浮上を実現するための可能性はいくつかある。例えば、電気回路による安定化や反磁性の利用などである。
方法
磁気浮上にはいくつかの方法がある。磁気浮上式鉄道に用いられる代表的な方法は、サーボ安定化電磁吸引支持方式、電磁誘導浮上支持方式、そして(将来的には)インダクトラックである。
束縛機構(擬似磁気浮上)
わずかな数の安定化用機構によって、擬似磁気浮上は比較的容易に実現できる。
(例えば糸などの)1つの鉛直な軸上に2個の磁石を束縛し、互いに強く反発し合うようにすると、片方が他方の上に浮上することになる。
別の例としては、ジッペ式遠心分離機(英: Zippe-type centrifuge)が挙げられる。これは、磁石の下に磁力で吊り下げられた円柱を下から針状の軸受けで支えた構造となっている。
反磁性による直接の浮上

反磁性体は磁場に反発する。どんな物質でも反磁性を有しているものの、その効果は非常に弱いため、通常はより強く異なった効果を持つ常磁性や強磁性によって打ち消される。3種類の磁性のうち反磁性が最も強いものであれば何でも(力は通常それほど強くないものの)磁石に反発する。
アーンショーの定理は反磁性体には適用されない。通常の磁性とは逆の性質は、比透磁率 μr が μr < 1 となっているために起こる。
反磁性による浮上は、熱分解炭素やビスマスの非常に軽い小片を適度に強い永久磁石の上に浮上させるのに用いることができる。水は反磁性の効果が強いため、同様の方法で水滴や、バッタやカエルなどの生物を生きたまま浮上させることさえできる(ちなみにこの実験は、そのユーモラスさから2000年にイグノーベル賞を受賞している)。ただし、そのために必要な磁場の強さは非常に大きく、典型的には 16 T 程度であり、実験装置の近くに強磁性体があると大きな問題を引き起こす。
反磁性による浮上のための条件は
磁気浮上技術の大半はさまざまな複雑な問題点を抱えている。
- 能動的浮上方法の多くは安定な領域が非常に狭い。
- そもそも磁場は振動を排除するようになっていない。このため物体が安定領域から外れる原因となる振動モードが存在しうる。渦電流は導体が適切な形状であれば安定となる。また、その他の機械的・電気的な防振技術が使われる場合もある。
- 重量物を持ち上げるには、必要な磁場を電磁石で作るために大電力・大電流が要求される。
- 超電導は極低温を必要とし、ヘリウム冷却が使われる場合も多い。
用途
磁気浮上式鉄道や磁気軸受等で使用される。一部を除いて実用化された例は限られている。また、免震装置としての研究も進められている。[8]
利用例
歴史
- 1839年 アーンショーの定理が静電場による浮上は不可能であると証明し、後に他者によって静磁場による浮上にもこの定理の適用が拡大された。
- 1912年 エミール・バチェット (英: Emile Bachelet)は1912年3月に電磁式浮上システムによる"浮上式輸送装置” (特許番号. 1,020,942)の特許を取得した。
- 1934年 ヘルマン・ケンペル (独: Hermann Kemper)は“無車輪式モノレール”の特許を取得した。ドイツ特許番号 643316
- 1939年 Braunbeck達は反磁性体で磁気浮上が可能である事を示した。
- 1961年 ジェームズ・ポーウェルとBNLの同僚のゴードン・ダンディーは超伝導磁石によって電磁式浮上を行った。
- 1970年代にRoy M. Harriganによって 回転安定式磁気浮上(Harrigan top)が出来た。
- 1974年 マグネティック・リバーがEric Laithwaiteと他者によって開発された。
- 1979年 トランスラピッドが乗客を輸送した。
- 1984年 低速の磁気浮上車両がバーミンガムでEric Laithwaiteと他者によって設置された。
- 1999年 永久磁石を使用した磁気浮上であるインダクトラックがゼネラルアトミック社によって開発された。
- 2000年 アンドレ・ガイムは生きた蛙を反磁性によって浮上させ、イグノーベル賞を受賞した。
関連項目
- 磁気浮上式鉄道
- インダクトラック - ハルバッハ配列を用いる。
- トランスラピッド - 上海トランスラピッド
- HSST - 愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)
- 超電導リニア
- Launch loop
- 音響浮上(英: Acoustic levitation)
- 空力浮上(英: Aerodynamic levitation)
- 電気浮上(英: Electrostatic levitation)
- 光学浮上(英: Optical levitation)
- サイクロトロン - 荷電粒子を磁場中で浮上させ周回運動させる粒子加速器。
- リニアモーター
- 磁気軸受
- Levitron
- ジッペ式遠心分離機(英: Zippe-type centrifuge) - 針状軸受により安定化した磁気浮上を用いる。
出典
- ^ Diamagnetically stabilized magnet levitation
- ^ アメリカ合衆国特許第 4,382,245号、1983年5月3日、Roy M. Harrigan、Levitation device
- ^ U-CASの物理
- ^ [1]
- ^ Eddy current magnetic levitation, models and experiments by Marc T. Thompson
- ^ Levitated Ball-Levitating an 1cm aluminum sphere
- ^ a b Attractive levitation for high-speed ground transport with largeguideway clearance and alternating-gradient stabilization Hull, J.R. Magnetics, IEEE Transactions on Volume 25, Issue 5, Sep 1989 Page(s):3272 - 3274 Digital Object Identifier 10.1109/20.42275
- ^ 磁気浮上型超電導免震・免振システムに関する研究
外部リンク
- Maglev Trains Audio slideshow from the National High Magnetic Field Laboratory discusses magnetic levitation, the Meissner Effect, magnetic flux trapping and superconductivity
- Magnetic Levitation - Science is Fun
- Magnetic (superconducting) levitation experiment (YouTube)
- Maglev video gallery
- How can you magnetically levitate objects?
- Levitated aluminum ball (oscillating field)
- Instructions to build an optically triggered feedback maglev demonstration
- Videos of diamagnetically levitated objects, including frogs and grasshoppers
- Larry Spring's Mendocino Brushless Magnetic Levitation Solar Motor
- A Classroom Demonstration of Levitation...
- 25kg MAGLEV suspension setup
- 25kg MAGLEV suspension control via Classical control strategy
- 25kg MAGLEV suspension via State feedback control strategy
- Frogs levitate in a strong enough magnetic field
- Magnetic Levitation - Science is Fun - ウェイバックマシン(1999年10月12日アーカイブ分)
- 磁気浮揚のページへのリンク