泥にまみれてとは? わかりやすく解説

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泥にまみれて

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 02:32 UTC 版)

泥にまみれて
作者 石川達三
日本
言語 日本語
ジャンル 長編小説
発表形態 雑誌連載
初出情報
初出 『ホーム』
1948年11月号 - 1949年9月号
出版元 ハンドブック社
刊本情報
出版元 新潮社
出版年月日 1949年10月
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泥にまみれて』(どろにまみれて)は、石川達三長編小説1948年(昭和23年)11月号から1949年(昭和24年)9月号にかけて雑誌『ホーム』で連載され、1949年10月に新潮社より単行本として刊行された。のち1954年(昭和29年)5月に新潮文庫として刊行され、1957年8月の『石川達三作品集』第8巻に収録されている[1]

文章は終始、母親である志乃が娘の園子に、自身と夫との20年以上にわたる夫婦生活を語る書簡体、あるいは独白体形式をとって記されている。

あらすじ

物語は、鶴岡夫妻の娘、園子が夫の不貞を責め、家出してきたのを、夫妻が追い返すところより始まる。そこから園子の母親である志乃による、夫の鶴岡知而(つるおか ともじ)との結婚生活の回想が語られる。

若い頃、志乃は社会主義に傾倒し、女子大学を退校させられていたが、その社会主義の研究会で夫となる3歳年上の鶴岡と出会い、その明るく闊達な性格に惹かれ、所帯を構えることになった。だが、結婚後ほどなくして鶴岡の知り合いと称する女性から訪問され、夫が自分と結婚以前に関係を持っていたことを知る。鶴岡はすべてを志乃に告白し、男は浮気をする存在であるが、必ず妻のもとに帰ってくるものだ、と志乃をなだめた。

その後、鶴岡は芝居の資金と称して貯金をすべて引き出し、志乃もその劇に参加することになるが、そんな中で、夫に好意を持っている女優の早川鏡子と知り合う。劇は当局に弾圧され、志乃は鶴岡ともども警察に捕まってしまう。志乃と鏡子は3日で釈放されたが、鶴岡は1週間たって、やっと志乃のもとに帰ってきた。それまで鶴岡と離婚しようと決意していた志乃の心は鶴岡からの慰安の言葉を聞いて氷解した。ところが、それから3日して早川鏡子が芝居の仲間と残念会を行うという名目で鶴岡を誘いに来て、鶴岡と一晩の関係を持ってしまった。志乃は今度こそ鶴岡と離婚をしようと思い、その決意を伝えるが、二度と同じ過ちは犯さないという鶴岡の謝罪の言葉を聞き、やがて鶴岡の作家としての真摯な性格にほだされ、彼を許してしまうのであった。

その後、鶴岡は友人の古沢の妻の友人である孤高のピアニスト、水野直子と知り合い、相思相愛に陥ってしまう。直子に鶴岡を託そうと決めた志乃は彼女の自宅を訪れるが、直子は、鶴岡の愛は志乃の方にある、鶴岡を誘惑してしまった、自分の一時の感情に負けた自分に責任がある、それでも鶴岡のことを忘れられないと涙ながらに訴えるのであった。その様子を見ているうちに、志乃は直子の中に鶴岡に執着する自分の姿を重ねあわせていき、夫との愛を許してしまった。

そんなおり、鶴岡の友人、古沢が昭和5年のナップ一斉検挙に巻き込まれ、逃走資金の工面を鶴岡に依頼しに来た。快く引き受けた鶴岡はしかし、関釜連絡船の中で逮捕され、鶴岡もその巻き添えを食って拘引されてしまった。これで水野直子に夫が会えなくなると喜んだ志乃であったが、面会した夫から直子の面倒と相談相手になることを頼まれ、直子が妊娠していることを告げられる。志乃はその辛い仕事を完全にやり遂げ、直子は鶴岡から離れて親子2人でひっそりと生きてゆくことを志乃に約束した。鶴岡は娘の園子に、直子にピアノの家庭教師になって貰うことで、直子の思いに報いようとした。

昭和12年、日中戦争が開始され、汪兆銘政権が成立後の情勢を見て、昭和14年、鶴岡は上海から南京への4ヶ月の旅行を決行した。そこで、鶴岡は落ちぶれた早川鏡子に再会し、日本へ連れ帰った。自宅に鏡子を泊めるという鶴岡に、志乃は不服を漏らしたため、鶴岡は鏡子を旅館を搜すことを約束した。ところが、鶴岡が帰ってきてから半月して、志乃は鶴岡経由で、鏡子の性病を感染させられたことに気づき、自殺を試みる。心から後悔した鶴岡は、志乃の完治を願った。回復した志乃に、鶴岡は自分は子供のように欲張りで、1つのものが欲しいと思ったら、どうしても手に入れずにはいられないと弁解した。

戦局の悪化して行く中、鶴岡は軍部を批判した戲曲を著し、昭和17年、またもや検挙されてしまった。釈放後、家族を守るために戦争が終るまでは遊んで暮らすと宣言した鶴岡は酒をいっそう嗜むようになり、志乃もいつしかそれにつきあうようになっていった。

昭和19年の正月、鶴岡は病に倒れ、太平洋戦争の激化により東京も空襲を受けるようになったため、友人の古沢の故郷である石和に疎開することになった。さらに甲府の県立病院に入院することになった鶴岡に、志乃は目が見えなくなるほどの輸血を繰り返す。そんな中、園子から事情を聞いた水野直子と再会した志乃は虫の知らせを感じ、すぐさま自分たちを退院させて、石和の疎開先へもどして欲しい、と嘆願する。果たして、鶴岡夫妻の退院後まもなく、甲府は空襲に見舞われ、県立病院も全焼してしまった。その後、二人は無事回復していった。

以上のような夫婦経歴を語った志乃は娘の園子に向けて、夫婦の戦いを終えた自分たちと違って、園子には園子の生き方や夫婦像があり、それを模索してゆくことが大事であること、人間の生き方に流行はないことを述べ、園子の夫である松井との関係をなるべくはやく修復した方がよい、と諭す。

登場人物

鶴岡志乃
主人公。鶴岡と結婚し、園子と亭治の二人の子供を儲ける。夫の浮気に煩悶しつつ、母親のような気持ちで夫を見つめるべきだという境地に達する。
鶴岡知而
志乃の夫で、劇作家。社会主義活動家。女性関係にはだらしがないが、純粋な性格で家族を愛し、守ろうとする気概に満ちている。園子の結婚を2,3年はやいと嘆き、結婚式に際して、可愛そうだという感慨を抱く。娘に、私娼窟や上野の浮浪児やシベリア引き揚げ者の収容所を見て歩くことを勧めている。
鶴岡(松井)園子
鶴岡夫妻の長女。勤労動員で工場へ行き、朝の十時で帰宅させられたことがある。彼女が夫、松井の旅先での芸者遊びが許せないと実家に帰ったところから物語は始まる。
鶴岡亭治
鶴岡夫妻の長男で、園子の弟。実家に入ることを許されなかった姉を送る。
古沢
鶴岡の友人で社会主義活動の同士。妻子持ち。
早川鏡子
女優。剛健な体格で、気性の激しい、無遠慮な性格。獄中の志乃を励ます優しい一面もある一方で、鶴岡を寝取る野放図な行動をとってもいる。のちに上海へ渡り、キャバレーで退廃した生活を送っていたところ、大陸に渡っていた鶴岡のことを耳にして、訪問する。
水野直子
古沢の妻の友人であるピアニストで、鶴岡夫妻と出会った当時は28、9歳で志乃よりも1つ年下。婆やと一軒家に住み、弟子を教授し、女学校に勤めていた。気の強い性格で、鶴岡も当初は手を出すことができなかったが、その熱情にほだされ、関係を持ってしまう。鶴岡との間に、娘、康子を儲ける。

解説

  • 久保田正文は、この小説を『幸福の限界』とともに一種の思想小説の性質を備えており、作者は恋愛や家庭や結婚について保守的な思想を持ち、青年のエゴイズムに同調せず、内容と形式が強い結びつきを持っており、その思想に共感するか否かを別として、秀作であることに間違いはないと述べている[1]
  • 作者自身は、『幸福の限界』にある女性問題を究極まで突き詰めた作品であると評し、主人公生鶴岡志乃は、結婚生活で「自分を犠牲にする」ことをとことんまで経験させられ、見事に耐え抜いた女性であると語り、女性の自由解放はそれだけでは何の意味もなく、自身の女性観を古いと言われることを承知しつつ、女性の幸福を女性であるという原点に立ち返って、最も安全で最も確実な道筋から求めてゆくべきだという意見を述べている[2]

出版

  • 『泥にまみれて』新潮社1949年10月
  • 『泥にまみれて』新潮文庫 1954年5月
  • 『石川達三作品集第八巻』新潮社 1957年8月
  • 『幸福の限界 泥にまみれて 石川達三作品集第五巻』新潮社 1972年2月

脚注

  1. ^ a b 『幸福の限界・泥にまみれて 石川達三作品集第5巻』(昭和47年2月25日発行)「解題」より
  2. ^ 『幸福の限界 泥にまみれて 石川達三作品集第五巻』新潮社「作中人物の系譜1」より

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