数量詞遊離
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 10:10 UTC 版)
数量詞遊離 (英: quantifier floating) とは、名詞句の中に含まれた数量詞がその名詞句から分離し、文中の様々な統語位置に生起する現象を指す:507。Sportiche (1988)は、フランス語の事例研究において以下のような例文を提示している。 ( ) (Tous) les enfants (*tous) ont (tous) vu (*tous) ce film.:427 :511 all the children have seen this movie また、英語においても同様の現象を観察することができる。 ( ) (All) the children might (all) have (all) been (all) shouting (*all) at once.:507 ここで重要となるのが、tous は les enfants を、all は the children を修飾しているという点である。これらの数量詞が別々の統語位置に基底生成されると仮定する場合、統語上離れた構成素間に修飾関係を成立させる独立した文法ルールを仮定しなければならないが、動詞句内主語仮説を採用すると、数量詞遊離現象は残留移動 (英: remnant movement) により包括的に説明することが可能となる。 図4: Tous les enfants ont vu ce film の統語構造 図5: Les enfants ont tous vu ce film の統語構造 図6: All the children might have been shouting at once の統語構造 図7: The children might all have been shouting at once の統語構造 動詞句内主語仮説を採用することは、VPは述語範疇ではなく命題単位であると仮定することと同義であるため、ある文が複数のVPを含む構造を持つ場合、必然的に主語は基底生成位置から全てのSpec-VPを経由しSpec-IPへ移動することになる。これは、このような移動を想定しない場合、命題単位を構成するVPと、命題単位を構成しない不飽和関数 (すなわち述語) として機能するVPが混在する構造となるためである。さらに、(11)-(12) のように、移動が経由しない統語位置に数量詞を生起させることはできない。これらの事実から、数量詞遊離に関する経験的データは動詞句内主語仮説の大きな証拠の一つとなる。
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